選択と覚悟
第十五話
まったく、とんだギャンブラーだな、あのユキマルという青年は。
彼の作戦が見事成功し、ジョルサの顔には自然と笑みが浮かんだ。
魔王軍が、魔獣の撤退を初めて、一見作戦失敗かのように思われたが、全てはユキマルの作戦通りなのだっだ。
私は、彼が私にだけ話した本当の最後の作戦を振り返る。
「まずまず前提として、魔獣にだけ効く毒なんて物は用意してない。」
「それはどういうことだね?!ユキマル君?」
「あそこに用意してある瓶の中身はただの水だ。『アクアンティスの水』とかいう一本1000ダルフのぼったくり水だよ」
「ではなぜ作戦会議にてあのような嘘を?!それでは水瓶を持って死にに行けと言っているようなものではないか!?」
「まあ、落ち着け。でも、あんたも気づいているんじゃないか?」
ジョルサが、まさか?!と言わんばかりの顔になる。
「ああ、あの会議室の中に裏切り者がいた!」
「信じたくは...ないな。」
と頭を抱えるジョルサだが、内心では気づいていたのかもしれない。
「つまり君は、 我々が魔獣に対する対抗策をもっていると裏切り者にリークさせるつもりか。しかし、その本当の目的はは、敵の魔獣を撤退させ、戦況を五分にすることにあるのだな?」
ユキマルがコクリと頷く。
「しかしそれではリスクが大きすぎる。毒が嘘だとバレるのは時間の問題だろうし、それに何も知らない冒険者の混乱は避けられないぞ?」
ジョルサがもっともな指摘をする。
「リスク?そんなことを言っている場合か?言ったはずだ。もう、あとはないと。」
しかし、この青年が言っていることも一理ある。
賭けるのか?この作戦に....。
裏切り者がいるという確証などない。
相手が大人しく魔獣を撤退させる確証などない。
魔獣が撤退したとして、勝てる確証などない....。
「それに、戦況が五分になったら、そこからはあんたの腕の見せ所だろう?ジョルサ総司令。」
.....っ!
痛いところを指摘された。
ジョルさには帰りを待つ人がいる。
今から逃げれば、戦争に巻き込まれずに済むのだろうか?
.....。
いや....。
「私も出陣する。現場で指揮を直接とる。」
ユキマルがニヤっと笑う。
「あんたにだけ託したんだ。頼むぜ!」
「そうだな、私が弱気でどうする。覚悟を決めるとするか。」
そしてジョルサは、ハッハッハと高らかに笑って見せたのだった。
そして時間は現在に戻る。
「ジョルサ総司令!東の拠点を制圧しに向かった部隊が戻って参りました。」
ジョルサが隊長を連れてくるように促す。
「随分と早かったな。やはり一個大隊は必要なかったか?」
「いえ、それが、東の拠点はもぬけの空だったんです」
「どういうことだ」
「はい。我々が奇襲の合図を受け、東の拠点を一斉に包囲したのですが、そこには魔族どころが、ひとっこひとりいなかったんです。」
「つまり、あの拠点の用途はすでに終えていて、敵はアクアンティスに一斉攻撃を仕掛けるべく、本陣と合流させたというわけか?」
「ええ、考えられるのはそこら辺かと...。」
隊長は何がなんだかわかっていなさそうだ。
それはジョルサも同じだった。
東の拠点には約600人ほどの魔族がいたはずだ。
なんだかわからないが、嫌な予感がする....。
しかし、今はどうすることもできないので、後回しにすることにした。
さて、場所はこの戦いの最前線へと移る。
そこには魔族相手に善戦する冒険者達の姿があった。
「数では圧倒的に不利だ!パーティーごとの陣形は絶対に崩すなよ!」
などと冒険者のうちの誰かが叫んでいる。
ゴールドランクがいるパーティーともなれば、魔族の兵士一人相手に苦戦はしない。
相手の数は多いが、油断せず陣形を崩さなければ、なんの問題もないのである。
そして、それはエイトワ達もそうだった。
エイトワの実力は、ゴールドランクに見合うものだった。
いや、ゴールドランクよりもっと上で、この中では圧倒的に異質な存在であった。
彼は持っている槍で敵をバッサバッサと薙ぎ倒していった。
魔族達がまるでうちわにあおがれた埃のように吹っ飛んでいく。
そして、注目すべきは彼の武器だ。
ゴムのようにしなったかと思いきや、敵の斧をカキンと槍の柄の部分で受け止めたりしている。
硬いのか、柔らかいのかよくわからない武器だ。
「エイトワ君!後ろ!」
「ああ、わかってる!」
エイトワは、持っている槍を頭上で180度回転させた。
「『スキル』 <<ムーンスラッシュ>>!」
そう言って、後ろから迫る魔族を一気に二十人消し飛ばした。
『スキル』 <<ムーンスラッシュ>>とは、槍を横に振って、半円を描き、さらに前方に衝撃波を放つというものだ。
一撃で数十人も倒すあたりからも、エイトワの実力が伺えるだろう。
しかし倒した数は、全体で見ると微々たるものだった。
「くそ!これじゃあらちがあかない!」
もちろんエイトワはそれを痛いほど痛感していた。
「エイトワ君!」
弓で魔族を狙いながら、ルフテが話しかけてくる。
「なに?」
「私の『スキル』 <<転移の矢>> で敵の本拠地に攻め込みましょう!」
「え!?そんなことしたら、ハチノスにされるんじゃ...」
「いえ、大丈夫です!」
「どうしてわかるの?」
「....んん!とにかく大丈夫なんです!」
エイトワは気づいていた。
ルフテが何かを隠していることを。
そして、それが知られたくないことなんだと。
だから、彼はただ一言、わかった、と言った。
「私の手に捕まってください!」
ガシッと彼女の手を掴む。
「いきますよ!」
すでに撃たれてある矢は、真っ直ぐに戦場の上を飛んでいった。
そして、敵が築いた拠点に入った。
ブゥン!
気がつくとそこは拠点の中だった。
中は思っていたよりもしっかりしていて、まるで下級貴族の館みたいだ。
そして、ルフテの言う通り、ちょうど見回りはいなかった。
「連れてくるのは俺だけでよかったの?」
「私の魔力量では、一人を連れて行くのが限界です」
確かに、大人数を連れて行くことができれば、戦争で使われない理由がない。
「なるほどね。ちなみに、これどっちに向かえばいいんだろう?」
「そ、そこまではわからないです...」
「じゃあとりあえず適当に進もう!」
そう言って、二人は通路を進むのだった。
『水の国』編も佳境に差し掛かってきてまいりました。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。




