変局
第十三話
アクアンティス軍が着々と疲弊し、デイザスが思惑を走らせる中、何も知らない冒険者達は魔王軍の東の拠点へと向かっていた。
「ところでお前達はの職業はなんだ ?」
「ん?あー俺は槍使いだから戦士だね。」
とエイトワが答える。
「わ、私はアーチャーです。戦闘時は後方支援に回ります。」
とルフテが続く。
「どっちも俺らのパーティーにはいない役職だな。それにしてもルフテは弓なんだな。ぶっちゃけかなり意外だった。本を持ってるから聖職者かと思ってた。」
「そ、そんな!私なんかに聖職者は務まらないですよぉ!貴族じゃあるまいし....」
「ふーん。聖職者ってなるのが大変なのか。」
「ところで、そういうユキマル達の職業はなんなんだい?」
とエイトワが聞く。
「ああ、俺が魔剣士で、フリエナが魔術師、ソルナは....えー」
「私も魔術師(暫定)よ!」
俺が返答に困っていると、ソルナがすかさず割って入ってきた。
「すごいな、君たちは。東側諸国でも一線を張れるレベルの人材じゃないか。」
「ふ、ふん!別に褒められても嬉しくないわ!」
とか言いつつまんざらでもないフリエナである。
「止まれ!」
突然先頭を進んでいた冒険者が後に続く冒険者を止めた。
「全員、警戒体制!」
その掛け声を機に全員が臨戦体制をとる。
俺もすかさず『スキル』 <<レーダー>>を発動する。
「10、20、30....150人程か。人数では俺達が不利か。しかも、全員武装している。」
「え、今の一瞬でどうやって!?」
ルフテが驚いている。
が、今はそれどころではない。
「まずいな。完全に包囲されてる。」
「うそ!私たちの行動が読まれていたってこと!?」
フリエナはかなり動揺している。
「というよりは....」
まさか...な....。
「でもこれって戦いは避けられないわよね!?」
「そうだね。作戦は中止だ。」
「いや、まだだ!」
その頃アクアンティス軍はやはり魔物による猛攻に苦戦を強いられていた。
魔物を軍事利用する文化というのは、人類、特に人族にはなく、それは魔王軍を最強たらしめる要因の一つとなっていた。逆に言えば、魔物さえ対象することができれば、魔術やスキルを器用に扱う人類に部があるのである。本来、魔物の問題は、防衛戦に徹することで魔力砲などの兵器で撃退可能なのだが、現在『予言』に脅かされているアクアンティスにとって、守りに徹することは悪手であった。
「報告!」
いそいそと開けた部屋に入ってきたのは、魔王軍の兵士の一人だ。
そして、それを知っていたかのように悠然とした態度で報告を受けているのがデイザスだ。
「アクアンティス軍が撤退を始めました。」
「そうか。我が策が功を奏したようだな。深追いはするなと伝達しろ。」
「はっ!」
「クックック、自分たちが攻めたつもりが、逆に攻められていた。掌で踊らされる気分はどうだアクアンティスよ。」
その頭脳で魔王幹部まで上り詰めた「軍師」デイザスは、自身の作戦の成功を確認し、不敵に笑うのだった。
「報告!」
時を同じくして、アクアンティス軍の司令部にも報告が届いていた。
「冒険者達が帰ってまいりました」
「通せ」
「はっ!」
ジョルサ総司令に促されるまま、冒険者達が会議室に入る。
しかし、冒険者達の様子が何やらおかしい。
ほとんどが重傷を負っており、とても奇襲が成功したようには見えないのだ。
「誰か無事な者は!?状況を説明せよ!」
「俺たちから説明する。」
ジョルサ総司令の質問に対して俺が答えることにした。
「俺たちは東の敵基地に向かう最中に敵の待ち伏せにあった。完全に読まれたのか、あるいは....。とりあえず、全員で敵の撃退には成功したんだが、こちら側に負傷者が多すぎた。『ヒール』を使える者がなぜか集中的に狙われて、作戦は、やむなく中止することになったんだ。それに、たとえ辿り着いても、相手が待ち構えているだけだからな。」
俺は、俺たちの身に起こったことをありのまま話した。
長ったらしく説明したが、要するに作戦は失敗したということだ。
俺一人で冒険者達を全員守るのは骨が折れた。
いや、俺が俺の能力を最大まで引き出せたならあるいは.....。
「どうしますか、総司令!」
「次の作戦を考えなくては!」
とアクアンティスの兵士たちが次々に口にする。
全員に不安が募っていくのが感じる。
この雰囲気は良くない。
俺にもわかることだ。
勝負、ひいては戦争において、先に気持ちで負けた方が負ける。
これは、真理なのだ。
「ユキマル殿!」
兵士の一人に、こっちへ来い、と合図される。
「なんだ?」
「ニントルマン大臣がお呼びです。」
俺はこくりと頷いて、ニントルマンの執務室へと向かった。
ついに、例の件か。
干ばつを止めるために、俺達が『オリアマ』様とかいう水の神に会いに行く件だろう。
まったく、タイミングが最悪だ。
「急な呼び出しすまないね。ユキマル君、そして『タリスマンズ』の諸君。」
部屋に入ると、そこにはすでに、ニントルマン大臣の姿があった。
軽い挨拶を交わしたのち、席に着くと、いきなり本題が始まった。
「知っての通り、君たちには『オリアマ』様に会いに行ってもらう。それも、今夜には出発してもらう。」
「こ、今夜ですか!?そんないきなり!」
「そうよ、そうよ!私たちの都合はどうでもいいわけ?」
ソルナは驚きの声を、フリエナは怒りをあらわにしている。
「それにしても突然すぎないか?何を急いでいるんだ?」
「ああ、実はこの国の各所で、干ばつの影響が確認され始めているのだ。」
まじか。
「我々の読みが甘かったと言わざるを得ない。まさか、こうも早く予言が始まるとは....。」
「おいおい、それってやばいんじゃないの?」
「ああ、だから君たちには酷なことだとは思うが、どうかすぐにでも『オリアマ』様の元へと出向いて欲しい。」
わかった、そう言おうとした時だった。
コンコン
執務室のドアがノックされる。
中に入ってきたのは、一人の連絡係の兵士だった。
「失礼します!ユキマル殿に緊急の伝令!敵軍に動きあり!明日の昼頃には再び戦いが起こると予想される!防衛戦に備えたし!」
最悪だ。
よくよく考えれば、相手の戦力が整っていない時に攻撃するのは当たり前のことだ。
軍の一部に、冒険者達が削がれたアクアンティス軍が今攻められたら、確実に負ける。
魔王軍に負けるということは、実質的な死を意味する。
それ以前に、この世界の地図に魔王の領土がまた一つ増えることを意味する。
東の基地の破壊に失敗、戦力の減少、『予言』の到来、それらが全て重なった状態で明日の戦いに臨むのだ。
「ユキマル君」
「なんだニントルマンさん」
「これは君にしかできないことだ。くれぐれもそれを忘れないでくれ。」
要するに、お前は明日戦いに行くなってことか。
俺はバッと席を立ち上がり、ドアに早歩きで向かった。
「どこに行く気だね?」
「やれることをやるだけさ。」
そう言って俺はドアを勢いよく閉めた。
その日の夜、俺たちは『オリアマ』様がいると言われている、『バーレの滝』へと出発した。
歩いて行ったら、朝方には着くらしい。
「大丈夫かな?アクアンティス。ねぇユキマルくん。」
「やれることはやったんだ。あとは望みにかけるしかない。」
どうやら、俺の言葉では、ソルナの不安そうな顔を払拭できないようだ。
ソルナだけじゃない。
フリエナもコラゴンも、もう無理だ、と言わんばかりの表情をしている。
口に出さないだけで....。
夜の冷たい空気が頬を掠める。
この世界に四季があるのかは不明だが、今吹いた風は、なんとなく冷たく感じた。
そして俺は、大臣からもらった地図を握りしめ、森へと続く道を進んでいくのだった。
ユキマル達がこの状況をどう切り抜けるのか、作者自身とても気になるところです。




