嵐の前の静けさ
第十一話
この国、『アクアンティス』で近いうちに戦争が起こると王は言った。
一瞬ざわついたが、王様の次の発言によって、広間はさらにざわつくことになる。
「先日、我が王国の北端に位置するデップー領が魔王軍によって占領された。魔王軍の軍勢に対し、我が軍は良くて同等と言ったところだ。そこで、諸君らを雇い、デップー領の奪還、魔王軍の撤退に尽力してもらいたい。」
魔王軍か。
別に聞いたことがないわけじゃない。
普通に生きているだけで、どこかしらで耳にする名前だ。
どうやら、この世界には、二人の魔王が存在しているらしい。
魔王達は北の大地を支配している
だから北端に位置するデップー領が最初に攻められたのだろう。
「しかし、なぜ今なのだ?なぜ今、攻撃を始めたのだろうか?」
「確かに、現在、国力が衰えているわけでもないしな....。」
他の冒険者達が口々に疑問を並べてる。
そして、それに応えるように王が話を続ける。
「諸君らの疑問に答えよう。魔王軍の攻撃が始まったのは、『予言』が関係しているのではないかと我は考えておる。」
「まさか!?」
「とうとうあの『予言』が!?」
「『予言』?なんだそれ?」
俺の疑問にエイトワが答える。
「そうか、君たちはまだこの国に来たばかりだったね。俺も最近知ったことなんだけど、この国では半年ほど前からある『予言』が噂されているんだ。」
「でも、そんなの所詮噂でしょ?」
とソルナが聞く。
「俺もそう思っていたよ。でも王様はこの『予言』を重く捉えているみたいだね。」
「なるほどな。それで肝心の内容はなんなんだ?」
「確か、この国がもう時期、ひどい干ばつに見舞われるという内容だった気がする。」
「うそぉ!この国は水の国でしょ?そんなことってあり得るの?」
フリエナの疑問はもっともだ。
この国の動力や経済源は水だ。
干ばつなんて起こってしまったら、国家滅亡もありえる。
魔王がこの機を逃すはずもない。
しかし、逆に言えば、国を支えるだけの水があるってことだ。
パッと街中を見ただけでも、水が至る所にある。
これだけの水が、数日で消えるとは思えない。
「わ、私は、この『予言』を信じます!」
そう言ったのは、今まで無口を貫いてきたルフテだ。
なんとなくシャイな子なんだろうなと思っていたから、触れないでおいたのだが、まさかここに来て発言するとは。
「『予言』について何か知ってるのか?」
と聞いてみると、あたふたしながら答えた。
「い、いえ、な、なんとなくと言いますか。備えあれば憂いなしと言いますか.....。」
慎重なタイプなのかな?
まあ、最悪を想定することは大事だ。
何かあった時に、あたふたはしていられない。
彼女もそういうタイプなのだろうか?
「諸君らも知っている通り、この国には、干ばつという危機も迫っておる。これを魔王軍の侵攻と共に防がねばならん。しかし案ずるな。干ばつに関してはすでに対策を練ってある。」
「おお、流石国王様!」
どうやら、干ばつの心配は無くなったようだ。
冒険者達が次々に国王を褒め称えている。
これで安心安心。
国王の話は終わり、ひと段落して、その日は解散となった。
詳細はまた後日とのことで、俺達冒険者には、また招集がかかりそうだ。
このまま帰るのも勿体無いので、ダメ元で王様への謁見を申請した。
すると驚くことに、あっさりと承諾された。
というのも、謁見の申請をしたのは何も俺たちだけじゃなかった。
あの場にいたほとんどの冒険者が集会後に王様と話したがっていたのである。
その理由は単純で、依頼の報酬の相談だ。
だから多くは、王の家臣によって手分けされ、それぞれ対応されていった。
そして俺たちも王様と直接会うことはできなかった。
「私は君たちの対応を担当する外務大臣のニントルマンだ。よろしく。」
「俺の名前はユキマルだ。後ろにいるのはパーティメンバーのソルナ、フリエナだ。」
とまあ、軽く挨拶を交わす。
ちなみにコラゴンにはリュックで大人しくしてもらっている。
「ユキマル....?もしかして君達は『西方奴隷商』の一件に大きく関わった人物かい?」
「知ってるのか?」
「ああ、魔術師ソルナの活躍は私の耳にも入ってきてるよ。」
そういえば、そんな勘違いもあったな。
「そりゃどうも、それより....」
「わかっている、報酬の話だろう?」
「話が早くて、助かる。俺たちが欲しいのは、『あの方』と呼ばれている人物についての情報だ。この国の王様が、情報を持ってると聞いた。」
「ふむ。『あの方』とやらはわからないが、任務を遂げたならば、王様に掛け合うと約束しよう。」
「そうか、ありがとう。それじゃあ、俺たちはこれで。」
そう言って立ち去ろうとした時だった。
「ああいや、少し待ってくれ。」
「なんだ?」
「君達の腕を見込んで、特殊任務を与えたいと思っている。」
「特殊任務...?」
おいおい、めんどくさくなってきたぞ。
「君は『予言』については知っているかな?」
「まあ一応。」
予言って、この国が干ばつに見舞われるってやつだよな。
「そうか。では、この国がたかが噂ごときに本気になりすぎだとは思わないかい?」
「思う。」
「実は、我々が、この『予言』を信じることにはわけがあるのだ。これは、代々王家に伝わる話なんだがね、1000年程前、この国は、今と同じく干ばつの被害にあったそうだ。」
1000年前?
当てになるのかよ、そんな伝承。
「それで、その干ばつを防ぐべく、勇者が『オリアマ』様と呼ばれている水の神に交渉しに行ったそうだ。何があったかはわからないが、勇者が王都に帰還したのと同時に、国に雨が降ったそうだ。」
「それで俺たちにどうしろと?」
「なに、簡単なことさ。勇者が『オリアマ』様に会った場所は実在する。そこで、君たちには伝承に従い、雨を降らしに、『オリアマ』様に会いに行って欲しい。」
「いや、そんな無茶な。」
1000年前の昔話に賭けて、この干ばつを乗り切る気かよ。
「そうだ。無茶を承知で君に頼みたい。1000年間王家に伝わってきたこの伝承を信じてほしい。」
どうやら、本気のようだ。
「わかったよ。」
「そうか。詳細はまた後日話す。ああ、そうだ、このことは他言するなよ。ではまた。」
こうして俺たちは城を去った。
帰り道でソルナに聞いた話だが、戦争で冒険者が動員されることは別に珍しいことじゃないらしい。
よく考えられたシステムだ。
「ちなみに、母国と戦う事になったらどうするんだ?」
「その時は流石に拒否できるわよ。」
よかった。
倫理観は元の世界とさほど変わらないようだ。
そこでふと、目の前から歩いてくる男が目に留まった。
なぜだかわからないが、突如として現れた男から目が離せない。
とてつもなく異様な雰囲気を発している。
しかも俺と似た何かを感じる。
「なあ、あんた....」
すれ違いざまに声をかけようとしたが、無視されてしまった。
顔はフードをかぶっていてよく見えなかった。
振り返ると、そこには誰もいなかった。
夜の暗闇で見えにくいのかと思い、『暗視』を発動したが、男の姿はどこにも見当たらない。
魔力の残穢も感じないことから、瞬間移動系のスキルを使った訳ではなさそうだ。
「なんだったんだ....?」
「何が?」
俺の質問に対して、ソルナがきょとんとしている。
「いや、今すれ違った奴。」
「誰ともすれ違ってないわよ?」
?
ソルナには見えなかったのか?
ってことは霊とかの類いなのか?
.......。
俺は考えないことにした。
翌日、俺たちはスクリプトールに会いに行くことにした。
あのアンティークショップの謎の店主だ。
ドアを開けると、そこには本人の姿があった。
「やー君たち、待ってたよ。」
「そういえば、俺のこと見てるんだっけ?俺たちが来るのもお見通しってわけか。」
「そうそう!」
スクリプトールはなんだかウキウキしている。
俺たちに会うのがそんなに楽しみだったのかよ。
犬か!
「まあ、まずは感謝するよスクリプトール、お前の言った様にことが運んでいる。」
「そうれは良かった。」
「それで確認なんだが、俺たちは『あの方』の正体に近づけるんだな?」
「まあそれまでに紆余曲折はあるけど、大丈夫、ちゃんと辿りつくさ。」
「それが聞けて良かったよ。また何かあったらここに立ち寄る。」
そう言って店を出ようとした時、スクリプトールに呼び止められた。
「まあ待ちなよ、僕から君に、ちょっとした助言を与えよう。」
「助言?」
「君はこの戦争で、大事なものを失い、大事なものを得ることになる。それが、君がたどり着く結果さ。」
「大事なもの?」
俺にとっての大事なもの.....。
それは仲間だ。
「さあさあ、用事はもう済んだんだろ?それじゃあまたのご来店をお待ちしております。」
そう言って俺たちを店から出してしまった。
「気になるわね。」
ソルナも心配しているようだ。
「なるようになるさ。」
そう言って、次の目的地へと向かった。
俺たちが向かったのは『フリーダム』の『ウォーリン支部』だ。
そこで、昨日の集会で知り合った、エイトワとルフテと会うことになっているのだ。
「いない...わね。」
着いたものの、ギルドの中に彼らの姿は見当たらなかった。
「みんなはここで待っててくれ、俺は外を探してくる。」
そう言って俺はエイトワ達を探しに行った。
ギルドを出て、すぐ聞き覚えのある声、いや悲鳴がした。
確証はないが、おそらくルフテのものだろう。
俺はすぐさま『レーダー』を起動して、ルフテの居場所を特定した。
「角を右に2回曲がってまっすぐ進んだ裏路地か!」
すぐさま駆けつけると、そこには5人ぐらいの男に囲まれているルフテの姿があった。
「おいおい、随分と楽しそうじゃないか。俺も混ぜてくれよ。」
5対1か。
まあ、この程度の相手なら問題はないだろう。
「なんだぁ、悪いがこいつは俺たちに恥をかかせたんでな。ちょーとお仕置きしないと、気が済まないんだわ。」
「そうか、じゃあこれ以上恥をかかないためにもその子を離すんだな。」
「て、てめぇー!」
そう言って、殴りかかってこようとするやつをリーダーが止める。
「待て、俺たちは前回の失敗から学んだんだ。悪いが全員で同時にかからせてもらうぞ!」
・・・・・
・・・
・
まあ、威勢のいい奴らだった、とだけ言っておこう。
俺は地面に倒れている奴らを置いて、ルフテの元に駆け寄った。
「大丈夫か?」
「は、はい....。」
「エイトワはどうした?」
あたりにエウトワの姿が見当たらない。
あいつがいればこんなことにもならなかっただろうに。
「エ、エイトワさんは用事があると言って、どこかに行きました。」
なるほど。
一人のなるタイミングを狙われたという訳ね。
「察するに、あいつらに絡まれるのは今回が初めてじゃないだろ?」
「そ、その通りです。」
「まあ、無事で良かった。ギルドに行くぞ。」
「あ、あの。なんか恩返しをさせてください!」
「いいよ別に。」
「い、いいえ、そういうわけにも...!」
「そういえば、エイトワの時と言い、随分と恩返しにこだわるんだな。」
「わ、私は、その.....。」
「なんか事情があるのか?」
「わ、私は、他人のことが信用できないんです。さ、最低ですよね!こ、こんな性格だから、いつも人に利用されてばかりで....。で、ですから、誰かに優しくされたら、せめて恩返しはしたいんです!」
なるほど。
今まで、ルフテのおとなしい性格を、悪い奴らに利用されてきたんだろう。
だから、自分からは何もできないから、せめて何かしてもらった時は、何かを返したいってことか。
詳細を聞くと、なんとも悲しい理由だな。
「そっか、じゃあ俺への恩返しは、俺を信じることだ。」
「えっ、ユキマルさんを信じる....?」
「っそ。俺のことを信じてくれ。」
「わ、わかりました。でも....」
「わかってる。人が信用できないんだろ。でも今はそれでいい。いつか俺のことを信用できるようになる日まで、その日まで待っててくれ。」
「は、はい.....。」
ルフテの反応はイマイチだ。
予想外のお願いに動揺したのもあるのだろうが、自分にできないことを頼まれて、対応に困っているのだろう。
「ところで、お前がいつも大事に抱えているその本はなんなんだ?」
「こ、この本ですか?」
ルフテと初めて会った時から気になっていたのだが、彼女はいつも本を抱えている。
「この本は、私の宝物なんです。どれだけ酷い目に遭っても、この本だけは手放したりしませんでした。」
「なんていう本なんだ?」
「そ、それが私にもわからなくて.....。小さい頃、朝起きたら枕の横に置いてあったんです。両親に聞いても、わからないんだそうで。文字も共通語ではなく、内容がわからないんです。」
なんとも不思議な話だ。
そんなおとぎ話みたいなことって実際にあるのか。
「そうか。ルフテにとって大事な物なんだな。俺も大事なものを守れるように頑張らないとだな。」
「?」
ルフテが不思議そうな顔をする。
「いや、こっちの話。それじゃあ、みんなも待ってるだろうし、そろそろ戻るか。」
「はい!」
そうして、俺たちはギルドに向かって歩き出したのだった。
場所は変わって、『アクアンティス王国』の北端に位置するデップー領へと移る。
そこには、魔王軍により既に砦が築かれようとしていた。
この世界では魔法を使うことにより簡易的ではあるが、砦を作ることなど造作でもないのだ。
砦の周りには数万もの兵が待機している。
全員魔物と人間の中間ぐらいの魔族だ。
中には魔物もいて、魔族によって飼い慣らされている。
そして、それら兵を率いている者こそ、魔王幹部『軍師デイザス』である。
「デイザス様、情報が入りました。どうやら、敵は『予言』に向けて動いているようです。ですが、『予言』が外れる心配は無いとの事です。ですので例の作戦も滞りなく実行できるかと思われます。」
「そうか。下がっていいぞ。」
そう言ってデイザスは部下を下がらせた。
「さて、そろそろ『アクアンティス』落としを始めるとするか。」
こうして、戦争の火蓋が切られたのであった。
遅れてしまいすみません。
私事で申し訳ないですが、これから投稿頻度が下がります。




