謎の商人
第十話
俺たちは、現在水の国『アクアンティス』の王都『ウォーリン』に来ていた。
『アクアンティス』は、水の国というだけはあって、至る所に噴水や、水路、人工の浅い川のような物まである。挙げ句の果てに、『アクアンティ水』という一本1000ダルフの水まで売っている。ただの水に1000ダルフは馬鹿げているので、おそらく観光客を狙ったぼったくりだろう。
「あれ、買うやついるのか?」
「いるから、白昼堂々と売ってるんやろうな。」
コラゴンの言う通りかもしれない。
ソルナが一瞬ドキっとしたのを俺は見逃さなかった。
「私だって、別に欲しいとかじゃ...ちょっと気になっただけよ!」
とソルナは必死に弁明している。
普段大人っぽいソルナがあたふたしている姿を見るのは面白い。
しかし、好奇心とは恐ろしいものだ。
それは俺も身をもって経験している。
「ねぇ!そんなことより、ここに来た理由を忘れてないでしょうね!」
とフリエナが確認する。
そうだった。
今日は『ウォーリン』の観光をしに来たわけじゃない。
ここには、情報収集に来たのだ。
『あの方』の正体に近づく手がかりを見つけに来たのだ。
ここ『ウォーリン』には大きな市場があり、有名な商人が何人も滞在しているのだとか。
商人の武器は情報であり、それを頼りにするのが一番だと考えた。
だから、俺たちは、これからいろんな店を回ってひたすら情報を集めに行く。
「それじゃあ、情報収集を始めるか!」
元気よく始めたものの、『あの方』に関する情報は得ることができなかった。
何人か心あたりがある者もいたようだが、そういう商人は『西方奴隷商』とは関わりたくない、との一点張りで、情報を教えてくれなかった。
俺たちが相手にした組織は、思っていたよりもやばいらしい。
「ここが最後の店か.....。」
『ウォーリン』にある店ををあらかた回って、残すところあと一つとなった。
その最後の店は、『デウス』というアンティークショップだ。
街の裏路地を何度も曲がって、ようやく辿り着く古めかしい店だ。
「店の立地、どうにかならんかったんやろうか?」
「ほんと!私をどれだけ歩かすつもりよ!」
とコラゴンとフリエナがそれぞれ愚痴っている。
「確かに客引きは悪そうだな。まあ、とりあえず入るか。」
ドアを開けると、カランと鈴の音が鳴った。
中には棚がいくつか置いてあり、ポーションやら人形やら本やらが無造作に積まれている。
そして、少しホコリ臭い。
「ごめんください、誰かいますかー!」
とソルナが言うと、店の奥から20代ぐらいの男が慌ただしくでてきた。
「いらっしゃいませー。」
ドシン!
俺たちの方に来たかと思うと、男は思いっきり転けた。
「大丈夫か?」
「あ、ありがとう。」
とりあえず駆け寄って肩を貸す。
「実は買い物をしに来たわけじゃないの。」
とソルナが言う。
「というと?」
「『西方奴隷商』の取引相手の『あの方』とやらの情報が欲しい。」
そう言うと、店主の顔色が変わった。
「ああ、『西方奴隷商』か。悪いけど、僕の口からは教えられないな。でも手がかりをあげることならできる。」
「本当か!?助かる!」
「でも、一つ条件がある。」
「なんだ?」
「この店にある商品を何か買ってくれ。」
「別に買うのはいいけど、あんま高いやつは無理だぞ。」
「いやいや、支払いはお金じゃないよ。」
「?、じゃあ、何で払えばいいんだ?」
「君自身さ。」
何この男穢らわしい!
なんて冗談はさておき。
「俺自身で払う?」
「そうさ!君がこれから得る経験、感情、出会い、その全てを僕に見せてほしい!」
「そんなのどうやって.....」
「それに関しては問題ない、僕にはやりようがあるからね。」
なるほど。
しかし、疑問は....
「別に構わないが、結局、俺は何を払うんだ?何を失うんだ?」
「うーん、強いていうならプライバシーかな。」
うーむ。
真意はよくわからないが、実質無料で情報を手に入れたと言ったところか。
プライバシーなんてそこまで気にしてないし、まあいいか。
「それじゃあ、情報をくれ。」
「まあまあ、焦らないでくれ。君は、プレイバシーと引き換えにこの店の商品を一つ買ったんだ。商人として、約束を果たさせてくれ。」
「それじゃあ、なんでもいいから、おすすめの物をくれ。」
正直、商品なんてどうでもいい。
一刻も早く情報が欲しい。
やっと掴んだ手がかりなのだ。
「それじゃあ、君にはこれを売ろう。」
そう言って渡されたのは一冊の本だった。
「『神獣図鑑』?」
『神獣図鑑』、この本のタイトルだ。
中を開いてみたが、全て白紙だ。
「それはね、この世界に存在する8体の神獣のことが書かれている図鑑なんだ。」
「図鑑って言うか、白紙だけど。」
とソルナが言う。
「それはね、君たちが埋めていくんだ。」
「埋めていく?」
「そんなめんどくさいことをするぐらいなら、こんな本、要らないわよ!もっとマシな物出しなさい!」
とフリエナが怒る。
「別の物がお望みかい?言っておくが、この本はこれから先君たちの冒険に必ず必要になる。それに、その本に値段をつけるとしたら、1000億ダルフはくだらないよ。」
「「・・・・・!」」
全員の目が変わる。
「しょ、しょうがないわね。これで許してあげる!」
ぶっきらぼうに言っているが、フリエナの目は本に釘付けになっている。
この本が冒険で頼りになるかどうかは知らないが、貰えるものは貰っておこう。
「どうやら、納得していただいたようだね。それじゃあ『あの方』に繋がる手がかりだけど、それはこの国の王様が教えてくれるよ。」
「王様!?」
「そんなの、一冒険者がどうやって聞きに行くんだよ!」
「大丈夫、すぐにお目通りが叶うさ。」
「は!?それってどういう.....」
「わかった。」
フリエナが聞くのを遮って一旦話を終わらせた。
手がかりをつかめただけ、ありがたいからだ。
「最後に一ついいか?えぇーっと....」
「ああ、すまない。申し遅れたね、僕のことはスクリプトールと呼んでくれ。よろしく。」
そう言ってスクリプトールは深くお辞儀をした。
「よろしくなスクリプトール。それじゃあ最後に、なんで俺の人生に興味を持ったんだ?」
「君はね、これから何度も決断する時が来る。そして僕は、君が最後に迎えた結末に興味があるのさ。」
「....そうか。」
結局何が言いたいのかは、わからずじまいだが、つまるところ、その結末とやらがどうなるか気になるってことだな。
「またのご来店をお待ちしております。」
「じゃあ。」
そうして俺たちは『デウス』を後にした。
裏路地出ると、街を巡回している衛兵に声をかけられた。
「そこの冒険者。少しいいか?」
「なんだ?」
「その胸章、『フリーダム』の者と見て間違いないな?」
「ああ、そうだが。」
「しかも、冒険者ランクはゴールドか。」
実は、『西方奴隷商』から奴隷を解放して、奴らを『アンダーワールド』に突き出してきた際、その功績を評価され、冒険者ランクが上がったのだ。
冒険者ランクとは、全ギルド共通の冒険者個人を格付けしたものだ。
依頼達成や、功績によって上がったりする。
ランクは5段階あり、下からブロンズ、シルバー、ゴールド、ダイヤ、オリハルコンだ。
冒険者のランクを見分けるのは簡単で、ギルド加入時にもらう、身分証、『フリーダム』でいうところの胸章を見ればいいのだ。仕組みはよくわからないが、冒険者ランクが上がると、胸章の材質(?)が変わるのだ。さらに不思議なことに、ブロンズランクの冒険者が、シルバーランクの冒険者の胸章をつけると、なぜか材質がシルバーからブロンズに戻る。つまり、盗難や悪用の心配はないのだ。
ちなみに、現在の俺のランクであるゴールドだが、これはそれなりに凄い部類に入る。
この『アクアンティス王国』にもあまりいないだろう。
まあ、東側諸国に入るには最低でもゴールドランクはないとお話にならないわけだが....。
「ところで、なんで俺たちを呼び止めたんだ?」
「ああ、そのことだが、お前達には今夜、王城に来てもらう。」
「お城!?」
「そうだ。あと、他言は禁止だ。わかったな。」
そう言うと、返事をする間も与えず衛兵は去っていった。
「ちょ、ちょっと、そんないきなり!」
ソルナは唐突な展開についていけてないようだ。
「いや、案外いいかもな。」
「え?」
「もしかしたら、王様に会えるかもしれない。」
それにしても、本当にスクリプトールの言う通りに事が進んでいるな。
あいつは一体....。
気にしても仕方ないか。
その日の夜、俺たちはお城へと向かった。
門番には話が通っていたらしく、胸章を見せるだけで中に入れてもらった。
執事に大広間に案内されると、そこにはたくさんの冒険者達がいた。
全員、それなりに腕が立ちそうだ。
しかも、魔術師も何人もいる。
よくよく観察すると、最低でも1パーティーに一人はゴールドランクがいる。
「なるほどな、俺たちが呼ばれた理由は、俺がゴールドランクだからか。」
おそらく、ゴールドランクがいるパーティーを集めたのだろう。
「そのようね。」
とソルナが頷く。
ちなみに彼女はシルバー、フリエナはブロンズだ。
「ねぇ、そこの君!」
俺たちがあっけに取られていると、黒髪の青年が話しかけてきた。
後ろに丸メガネをかけた短髪の少女がいる。
「俺か?」
「そうそう、きみきみ。」
「なんか、用か?」
「いや、用も何もここにいる冒険者は年上ばっかでさ。同い年の人を見つけたから、話しかけたんだよ。」
話を聞くと、青年の名前はエイトワ、少女の名前はルフテというらしい。
二人は、ルフテが追い剥ぎに襲われているところをエイトワが助けたことで出会ったらしい。
何その、主人公みたいな展開。
少し羨ましい。
「エイトワはゴールドランクのようだが、ルフテはシルバーランクだな。お前達はパーティーを組んでるのか?」
「うーん。厳密にはパーティーじゃないんだけど、ルフテが恩返ししたいって聞かなくて、この国に滞在する間、案内役を頼んでいるんだ。」
「なるほどな。ところで、今日招集された理由は知っているか?」
「いや、俺たちにもわからないな。」
察するに、ここにいる誰もが、自分たちが招集された理由を知らないのだろう。
バタン。
ドアが開く音がすると、広間のバルコニーに一人の男が現れた。
王冠をかぶっていることから、この男がこの国の王であることがわかる。
「冒険者の諸君。諸君らにはこれから重要な依頼をする。これから話す内容は、後日世間に公表することだが、それまでは混乱を防ぐため内密にするように。」
なるほど。
国が各冒険者ギルドに依頼を出すために冒険者を集めたのか。
「依頼内容は諸君らに、この国のため戦ってもらうというものだ。」
どういうことだ?
しかし、この疑問は次の衝撃の一言ではっきりする。
「もうすぐこの国で戦争が起こる。」
は?
10話目です。
ここまで読んでくださった方には感謝しかないです。




