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異世界恋愛

婚約破棄された貴族令嬢が三人集まると……

作者: フーツラ

「ライラ! 君との婚約を破棄させてもらう!」


 貴族街にある閑静な公園に、ロメロの声が響いた。驚いて小鳥が飛び立つ。


「何故? 私、何かした?」


 ロメロと私は幼い頃からの許嫁だ。それを今になって婚約破棄だなんて……。


「私は真実の愛を見つけてしまったのだ! その前では親同士が決めた結婚など、無意味だと気が付いた!」


 その声を合図にして、木の影から一人の女が歩み出てくる。ロメロに近づくと、腕を絡めてしなだれた。


「おぉ、ミーニャ。私の愛しい人よ」

「ロメロ。早く行きましょう」

「そうだな。もう用事は済んだ」


 わざとらしい。諦めさせる為にやっているの? それとも、恥をかかせる為?


 二人を見ていると、息が苦しくなる。


 悔しくて、悲しくて、涙が落ちる。


 二人は何も言えなくなった私を見て、笑いながら行ってしまった。


 自分の泣き声だけが公園に広がる。


 このまま家に帰る気にはならない。酷い顔を両親に見せたくない。涙が止まらない。


 私は下を向いたまま、王都を歩き始めた。



#



 貴族街を抜け、大通りを歩いていると色々な人に振り返られる。貴族の娘が一人で歩いているのが珍しいのだろうか? それとも泣き腫らした顔が滑稽なのか?


 居心地が悪くなって裏道へと入る。


 人通りの少なさが、私の心を癒した。


 少し気持ちが落ち着き、顔を上げるとある看板が目に付く。


『失恋茶房』


 まるで、今の私の為に作られたような店だ。センスの良いレンガ造りの外構に引き寄せられ、ドアノブに手を掛けた。


「いらっしゃいませ」


 低く落ち着いた男性の声が迎えてくれた。カウンターだけの店内には、切長の目をした店主と二人の女がいた。


 服装を見る限り、女達は貴族令嬢のようだ。


「どうぞ、おかけ下さい」


 水の入ったグラスを置かれ、席につくよう言われた。店主の声には、進んで従いたくなるような不思議な魅力がある。


「どうされましたか?」

「……婚約破棄されて、呆然として王都を歩いているうちにここへ辿り着きました……」


 初対面なのに、全てを打ち明けたい。と思ってしまう。


「貴方もなのね」

「私達もよ」


 私の告白を聞いていた二人が、こちらを向く。見事に泣き腫らした顔だ。


「ここにいる三人とも、今日婚約破棄された。ってことですか?」


 少しだけ、声が弾んでしまった。仲間を見つけたような感覚になる。


「そういうことになるわね」と手前の女。


「不思議な出会いもあるものね」と奥の女。


 三人で顔を見合わせて驚いていると、スッとカウンターにティーセットが出された。


「ワインに果実をつけて、温めたものです」


 店主はそう言いながら、三つのカップに赤い液体を注ぐ。芳醇な香りが店内を漂った。


 一口飲むと、泣き疲れていた身体が急にはっきりとした。血が全身を巡り、火照る。


 自然と三人は饒舌になった。



#



「ロメロはわざわざミーニャとかいう女を呼んで、私の前でイチャイチャして!!」

「私なんて、お茶会の席で! 沢山の人の前で婚約破棄されたのよ!」

「私なんて私なんて! 濡れ衣を着せられて、婚約破棄されたの!!」


 一人が口火を切ると、もう止まらない。


「ロメロとは幼馴染だったのに! それをポッと出の男爵家の娘に横取りされるなんて!」

「私なんて、結婚式の日程まで決まっていたのに!」

「私なんて私なんて! 今年二回目の婚約破棄よ!!」


 あれ……。なんだか自分の境遇がマシに思えてきた。


「もう! 絶対男なんて信用しないわ!」

「私も! 今度は私から婚約破棄してやるわ!」


 自分より怒っている人を見ると、冷静になってしまう。


 ふとカウンターの中を見ると、店主と目が合った。切長の目を軽く瞑り、小さく頷く。


「もう行きない」と言われた気がした。


 一杯のワインには充分な額をカウンターに置いて、立ち上がった。


 二人はまだ「如何に酷い目にあったか」について競いあっている。


 私はすっかり軽くなった心で『失恋茶房』を後にした。



#



 婚約破棄されてから一年と少しが経った。私は伯爵家の嫡男と結ばれ、今はもう実家を出ている。


 夫は優しくて仕事もでき、何より私を愛してくれる。


 ロメロに振られた時はこの世の終わりのように感じていたのに、人生とは分からないものだ。


「ここで止めて頂戴」


 声をかけると、馬車がゆっくりと止まった。


「どうなさいました?」


 侍女が不思議そうに尋ねる。


「この近くに素敵な茶房があるの。ちょっと寄ってもいいかしら?」

「なるほど。そういうことですね。お供致します!」


 甘いモノに目がない侍女が嬉しそうに客室から飛び出す。茶房と聞いて、ケーキを期待しているのだろう。


 路地裏に入ると、懐かしい看板が見えた。相変わらずセンスのよい外観をしている。


「ライラ様、どうぞ」


 侍女に促されて中に入ると──


「えっ!?」


 ロメロに婚約破棄されたあの日と同じ二人の貴族令嬢がいる。一体どういうこと……!?


「ふふふ。いらっしゃいませ。二度目の来店ですか?」

「はい……。何故、それを」

「随分と驚いた顔をなさっていたので」


 店主は切長の目で笑う。


「あの、カウンターのお二人は?」

「当店のスタッフですよ。失恋した時、一人で立ち直るのは大変なんです。でも、同じような境遇の人が周りにいると、不思議と頑張れます」


 やられた……。でも、怒る気にはなれない。むしろ、感謝の気持ちが湧いてくる。


「本当、そうですね。私もすぐに立ち直ることが出来ました。それに新しい幸せも……」


 店主に促され、カウンターに着く。


「新しい幸せって、もしかしてご結婚なさったんですか?」

「いーなー! どんな方と?」


 奥の二人が人懐っこい笑顔で尋ねてくる。


「ええっと──」



 それからしばらく、私達は美味しいケーキと会話を楽しんだ。

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