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エッグシェル  作者: 弐番
3/5

白昼の悪夢

高速度で前から近づくエメセスの出す信号の認識は、軍のものであった。

エメセスを装着できるのはごく限られた人間だけである。

まず、新兵では装着することはおろか触れることすらできない。

長い年月をかけて戦場に生き残った老兵のみが触れることが出来る。

即ち、焦りによる操作ミスなどがないということである。

ただの雇われ兵士の操るエメセスでは5機束になっても勝てる様な人間ではない。

それが、軍であった。

トイフェルは軍になみなみならぬ殺意を抱いている。

所属は軍の様ですがどうしますか、とティンクがトイフェルに問うた。

ただ短く「殺す」とだけ口を開いた。

腰部のナイフを引き抜き、腰にためた。

刃に反射した光ですら何かを引き裂きそうな鋭さと危うさを持っていた。


近づくにつれ、エメセスの輪郭がはっきりと認識できる。

太陽光の如く純白のエメセスであった。

その存在の正当性を誇示するかのように、眩しく輝いていた。

純白のエメセスが衝突寸前で接近を止める。

先端が角ばったフォルムをしているが、ボディが流線型で出来ている。

オープン回線から語りかけてきた。

≪ピーター≫がナイフの持つ手を動かそうとした刹那のことであった。

『流石とだけ言っておこう、アンデクティヒ・トイフェル』

「俺の名前を知っているのか」

『軍のデータベースにも記録されている』

「そうかい」

『勿論、個人的に興味をそそられる存在ではある』

「なあ」

ナイフを突きつけた。

「名前の一つでもなのったらどうだ?覚えておいてやるからよ」

『名乗る必要はないだろう』

「恥ずかしくて、名乗れるような名前じゃないのかい?」

『いや、覚えても意味はないというだけだ』

「どういうことだい?」

『もう思い出す機会は与えられないのだから――』

言い終わらないうちに≪ピーター≫が動いた。

バーニアが急激に火を吹き、純白のエメセスの後ろを取る。

右腕に持ったナイフを

純白のエメセスがわずかに避け。背中を≪ピーター≫に押し付けた。

ナイフの内側に居るため、横に薙いでも当たらない距離である。

純白のエメセスの頭が≪ピーター≫のモニターを塞いだ。

「ぬう!?」

トイフェルが吠えた。

そのまま、ナイフをもった右腕を純白のエメセスに掴まれた。

掴まれたというよりは、巻き取られた。

腕ひしぎの立ち関節技である。

人体の構造を助けるエメセスも、やはり人間のそれに近い構造をしている。

非常に有効であった。

一気にへし折ろうと、純白のエメセスのモーターが唸りをあげた。

折られんとするように、≪ピーター≫のモーターも駆動音を空に響かせる。

一瞬の膠着状態であった。

ティンクが純白のエメセスに張り付いた。

『自爆でもする気かね?』

無線を通じて、相手の声がトイフェルに届く。

「軍人が死ぬのは好きだが、俺は自分が死ぬのは嫌いだ」

言い終わるか終らないかの内だった。

ティンクの体が白く光った。

それと同時に、一瞬、純白のエメセスの力が弱まった。

パイロットが低く、しかし確実に驚愕の色を含んだ声を上げた、

『電流だと!?』

ほんの一瞬、ささいなチャンスであったが、トイフェルには十分であった。

左腕を相手との合間に差し込み、大きな隙間をつくった。

そこを足で蹴った。

再び、≪ピーター≫は宙を舞った。

『ぬう!』

純白のエメシスが背部と踵部のバーニアをしばたたかせ、頭を下に向けた。

宙づりの格好になりながら、脚部に収納されていた銃を取り出し、撃つ。

≪ピーター≫は肩のバーニアを細かくふかしてそれを避けた。

逆に≪ピーター≫がライフルを構え、撃った。

連続する破裂音が純白のエメセスめがけて飛んでゆく。

臆する事無く、純白のエメセスが両の掌を前に差し出す。

微かにそれが青く光ったかに見えた時であった。

銃弾が掌の手前で軌道を変え、それていった。

「清水重工の最新EWCシステムか……」

『知っていたか』

「日本人は妙なものと厄介なものと、妙で厄介なものを作るのが得意だからな」

トイフェルが言った。

≪ピーター≫のレーダーアイが嗤うように、揺れた。

EWCシステムとは、「Electoromagnetic wave control system」即ち電磁波を応用したシステムのことである。

他のレーダー機器に干渉し、発見されにくくするなどの効果をもつ。

先程の様に電磁波で弾丸を防ぐという事は普通はできなかった。

それを可能にしたのが、清水重工が開発した最新のEWCシステムである。

従来のに比べ、金属への干渉度が上がったことで簡単な金属への物理的干渉を可能にした。

先程の様に、弾丸の軌道を変えてしまうというようなことである。

しかし、それも威力と質量の低い弾丸に限った話である。

AT《対戦車》ライフルのような大口径の銃弾を防ぐということはできない。

せいぜいがアサルトライフル程度が限界であった。

しかし、「銃が通用しない」という事実は相対するものにとって大きな不安となり得る。

「だから何だってんだ」

近づこうとした≪ピーター≫のモニターが赤く光った。

続いてけたたましいビーコンがなる。

飛来物接近のアラートである。

「斜め上方から飛来物確認」

ティンクの声がトイフェルの耳朶を打つ。

素早くバーニアをふかして下がったトイフェルの目の前を、ミサイルが通り抜けていった。

「ミサイル!?どこからだ」

(北西からです)

眼の前を通り抜けていったミサイルが、頭をこちらに向けていた。

こちらも新型のようであった。

「軍め、邪魔をするなっ!」

素早くアサルトライフルを構えた。

続けざまに銃弾が雨嵐のように発射されていった。

細かくも大きな破裂音がミサイルを貫く。

真管を打ち抜かれたミサイルが、

と爆ぜた。

巻き起こった爆風が≪ピーター≫を純白のエメセスから遠ざけてゆく。

糸が絡み合った人形のように、≪ピーター≫が風によって揉まれる。

飛び散った破片を腕部で防ぎながら、期待損傷個所を確かめる。

右大腿部のモーターが損傷しているようである。

反応が少し、鈍い。

「くそっ!」

細かにバーニアをふかし、体制を立て直す。

その時には目の前にかの純白のエメセスはいなかった。

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