コント『ゴマと先入観』
「はい、今日のおかずは野菜炒め。あなたがゴマが嫌いだって言うからオリーブオイルで炒めてみたの」
「ちょっと待て。訂正させてもらおう」
「なに?」
「自分はゴマが嫌いなのでは無い」
「え? でも前にゴマが嫌いって」
「それはあなたが、ゴマは健康に良いと言ってご飯にも味噌汁にもおかずにも大量にゴマをかけて、何を食べてもゴマの味しかしないのが嫌い、と言ったのだ」
「そんなことは無いわ。ちゃんとゴマ以外の味もするわよ」
「あぁ、この味噌汁も味噌汁風味のゴマの味がするな」
「でしょう?」
「ゴマを少し効かせるぐらいならいい。どうしてなんでもかんでもゴマを大量にかけるのか? どれもゴマの味になる」
「だってゴマは健康に良いって先入観があるから仕方無いじゃない」
「……そう、か。先入観か」
「そうなの」
「先入観ならどうしようも無いな」
「はい、食べて食べて」
「いや、無理だろう」
「どうして? せっかく作ったのに」
「まず量。この野菜炒めの量がおかしい」
「野菜をいっぱい食べさせてあげようと思って。野菜は健康に良いのよ? だから4人前作ったの」
「多すぎる。なぜ、自分1人で4人前も食べられると考えた?」
「だって、人って自分がどれだけ食べられるかなんて分からないものでしょ?」
「……そうか。この人の家系は遺伝的に満腹中枢が壊れているのかもしれないな。この人の親戚に食べ過ぎで太っているのがいたか。毎日ポテチ食べて、なかなか痩せられないと愚痴を溢していたか」
「おかしな話をしてないで食べて食べて。野菜は健康に良くて美味しいのよ。ゴマも健康に良くて美味しいのよ」
「食材はたいていが健康に良いのを売りにしているものだ。健康に悪くて美味しいと言って売るものの方が希少なのではないだろうか? ラーメン二郎ぐらいではないだろうか?」
「ブルーベリーは目に良いから美味しい。タピオカは腸にいいから美味しい」
「タピオカそのものにはあまり味が無いハズだが。ふむ、質問していいか?」
「なに?」
「タバコは?」
「タバコは健康に悪いから美味しく無い」
「酒は?」
「お酒は健康にいいから美味しい」
「……そうか。自分の好きなものは健康に良くて、自分の嫌いなものは健康に悪い、と区分けしてないか?」
「そんなことは無い」
「何が美味しいもので、何が不味いものか、その判別はいったいどう決めているんだ?」
「何が美味しくて何が不味いかはテレビが教えてくれるのよ」
「……そうか。自分の舌で判断しないのか。そして何が美味しいか不味いかも裏付けの理由が欲しくて、それが健康なのか」
「あ、ゴマがきれた」
「一度に使う量が多すぎる」
「ゴマがきれた! ゴマが無い! ゴマが無い! ゴマが無い!」
「?……、あぁ、そうか。ゴマが健康に良いという先入観があるから、ゴマがきれると健康を維持できないかもしれない、と考えてパニックになるのか」
「ゴマが無い! ゴマが無い! ゴマが無い! ゴマが無い! ゴマが無い! ゴマが無い! ゴマが無い! ゴマが無い! ゴマが無い! ゴマが無い! ゴマが無い!」
「先入観とは厄介なものだ……」
実話をもとにしています




