5.「科学」
「……とんでもない属性なんだね」
「そうですね。幼い頃は制御に苦労しました。私以外に使える魔術師もいないし、魔導書――魔術について書かれている本ですね、それを漁っても全く記述が無くて、本当に手探りでした」
ラスはその頃のことをしみじみと思い返しながら語った。
「因みに私の扱える魔術属性は先程の虚無ですが、他の属性も大抵は使えます。普段メインで使っているのは家伝の「空間魔術」で、使えない属性は光だけです。「空間魔術」は説明が面倒なので、使う時にでも話しますね。……レミエルさん、精霊の話を続けてもらっても?」
「レミエルでいいよ、精霊ね。……精霊がありふれてるって話はしたでしょ?」
レミエルの後ろにルーチェが移動し、レミエルを後ろから抱きしめる。レミエルがルーチェの腕を抱きしめ
て、ラスに笑いかければ、それに対抗心を燃やしたのだろうか。エアがラスのほっぺを引っ張った。
「この世界の魔法は、基本的に全部精霊にお願いするんだよ。あらゆる人が精霊と契約しててね、例えばそこのオーウェンだって精霊と契約してるんだ」
「そうだな。と言っても俺が契約してるのは武具精霊で、レミエルみたいな属性精霊じゃないんだけどなー」
そう言ってオーウェンが彼の隣に置いてあった槍を取れば、ふわりと槍全体が金色に光った。
「オーウェンの例みたいに、属性以外の精霊も沢山いるんだよ。この世界のあらゆる場所に精霊はいて、あらゆるものに精霊は宿るんだ。精霊がいないと成り立たないものも多いんだけど……ラスの世界にはほぼいなかったんだよね」
「そうですね。私の世界では魔術というものは限られた人だけの力でしたから。生活に魔術が根付いているのは私達魔術師だけ……それも一部の高位魔術師だけでしたね。その代わりに、「科学」というギフトに頼らない技術が発達していましたので、不便と感じたことはありませんでした」
「科学?」
「そうですね、魔術師能力者問わず使える技術です。詳細は伏せますが、行きたい所に短時間で移動できたり、暖かくできたり冷やすことも出来たり、大体何でもできるので、態々魔術を使う物好きはあまりいませんでした。魔力を使って起こす現象と代替できるので」
ラスのような最高位魔術師や、呪術師や陰陽師は生活の中で魔術を便利に使っていたが、基本的には科学バンザイである。能力者ならなおさらだ。チャッカマンやマッチで火を付ける便利さを知りながら、態々魔力を消費してまで火を生み出そうなんて思わないだろう。チャッカマンやマッチの方が圧倒的に楽なのだ。
タバコに火を付けるのは魔術のほうが楽だが、日常生活で魔術が便利なのはこのくらいしか無いのではなかろうか。
「便利ですね……」
「最初に言いましたが、私達の世界は魔術師と能力者に分かれる世界で、能力者の方が数が多いんです。能力者は、自身の持つ能力以外のことができません。火を操る能力者なら、火を操る以外の事は出来ないんです。だから「科学」なんていう誰でも扱える技術が発達したんですよ。この世界では精霊がすべてをまかなえるのでしょうし、「科学」が入り込む隙はあまりないでしょうね。……どう考えてもこの世界には劇薬でしょうし、取り込もうなんて考えないほうがいいかと思いますよ」
面白そうに笑うクラウスに、ラスは冷徹に忠告した。