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Infinite abyssー最強魔術師の異世界冒険録ー  作者: vesper
Episode-1.邂逅/墜落
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4.「虚無属性」

 ――最初は小さな光だった。

 虚無の扱いに四苦八苦するかつての幼いラスの近くに現れた、白い光。

 かすかな光を放つそれは、ラスの世界では「精霊」と呼称される、幻想の存在だった。存在自体はあるとされていたものの、そもそも魔術師の数が少ないこと、その魔術師の中でも「精霊」を使役できる――「精霊」と関わりがある魔術師があまりいなかったこと、現代の魔術師が基本的に扱う「現代魔術」と「精霊」の相性の悪さなどが相まって、「精霊」は半ばファンタジー、物語の域を脱してはいなかった。


 そんな中でラスの元に現れたそれは、あまりにもか弱い力ではあったが確かに「精霊」そのもので。


 その「精霊」がラスの持つ希少すぎる属性「虚無」の力と同じであると本能的に察し、幼いラス――その頃からすでに「天才」などと呼ばれていた――は精霊の研究を始め、自身の力をその小さな精霊に与えるなどの行為、研究を繰り返した。

 やがて小さな精霊はそれなりの力を発揮できるように成り、更に時間が経てば人の姿をとれるまでに成長する。自身を育てたも同然、親のようなラスにその精霊は懐き、ラスはその精霊に名前を与えて縛った。

 ――エア。

 ラスに絶対の信頼と忠誠を誓う、彼の最も信頼する虚無の大精霊である。


「大精霊……」

「此方の世界の「精霊」と呼ばれる存在とイコールなのかは知りませんが。私の世界の基準でいえば、彼女は紛れもなく大精霊といえる存在です。……といっても、私の世界では精霊自体が珍しく、私が知る中で精霊を従えていたのは数える程しかいませんでしたけど」

 ラスの言葉に驚くような表情を浮かべたネイに、追加の説明を加える。なおラスは元の世界では最高位の魔術師であり、魔術の名家の生まれという超エリートである。そんな彼の知り合いだ。当然それなり以上の魔術を操る魔術師ばかりである。普通の魔術師なら、「精霊」を従える魔術師なんて誰も知らないというのが当然であった。


「貴方達の世界で「精霊」はどのような扱いですか」

「んー、ボク達の世界、レムリアっていうんだけどね。ここでは「精霊」は当たり前の存在だよ。例えばボクは……ルーチェ」

 レミエルの呼びかけで、光り輝く少女が現れた。金髪のロングヘアに、豊満な体つき。全体的に金をイメージさせる少女だ。羽衣のようなものをもち、豪奢なドレスで着飾っている。

「彼女はルーチェ。ボクの契約している光の精霊だよ、……あ、その前に属性の話かな。といっても、聞く限りボク達の世界の属性と、そう変わったことはないんだけど。……虚無って属性は初耳だね」

「そちらの世界にはないと」


 レミエルの言葉に考え込むラスに、思わぬ存在が話しかけてきた。面白そうに、楽しそうに。

 ――レミエルの契約精霊のルーチェだ。


「――ほう。異世界からの来訪者か。珍しいの。しかも虚無属性とは」

「知ってるんですか」

「ほほほ、妾に知らぬことはない。……といっても、この世界にそれに属する生き物はおらんからの。妾以外で「虚無」を知っているのはほぼおらんがな」


 くふくふと笑うルーチェ。


「ルーチェは知ってるの?」

「妾が説明するより、そこの異邦人が見せるのが早いであろう。……使えるのであろう?」

「……使えますけどね」


 溜息をついて、ラスは戦闘の時と同じようにペンダントから黒の長杖を生成。面白そうに眺めるルーチェと「アルカディア」のメンバーに向かって、詠唱破棄して一つの白い光の球を浮かべる。

「――これが虚無属性の珠です。見た目は唯の白い珠にしか見えないと思いますが、この虚無属性にはある特徴があります。……試してみましょうか。レミエルさん、貴方は何の魔術が使えますか」

「魔術じゃなくて魔法だけどね。……光魔法と無属性魔法がメインだけど、他の属性も大体使えるよ」

「ならわかりやすく。丈夫な盾みたいなものを作れますか」

「丈夫な盾……うーん、光でいいなら」

 そう言って光り輝く盾――バリアみたいなものを張るレミエルと同時に、懐から取り出した札で結界を生成。

「――虚無属性の効果は言葉の通り。虚無。あらゆるものを無に返す力です」

 説明しながら、浮かべていた白い光の珠をレミエルの作った光のバリアにあてる。光の珠はラスの思ったとおりにバリアをすり抜けずにあたり、バリアを侵食して穴を開けた。

「――このように。虚無の前にはあらゆるものが形を成しません。また、虚無には「侵食」という特徴もあり、このバリアのように虚無によって消滅した場所から虚無が巣食い、結果的に全てを消滅させます」

 ラスの言葉通り、レミエルの作った光のバリアに空いた小さな穴――ラスの小指が入るか入らないかくらいのサイズの穴は、いまやラスの手のひらくらいなら余裕で入るくらいにまで拡大していた。

「私の世界でもこの属性が使える魔術師は稀で、現在生きている魔術師でこの虚無属性を持つ魔術師は私一人でした。エアは虚無属性の大精霊で、私の知る限り虚無の精霊は彼女だけだったかと」


 ラスの腕にへばりついてふにゃっと笑うエアを見て、手を振って白い光の珠を消す。

 レミエルの作った光のバリアはもう消滅間近だった。


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