3.「ギフト」
戦闘の後、ラス達に経緯を聞きたそうなギルドマスターを放置して、4人はレミエル達が拠点にしている宿屋「水瓶亭」に戻ると、二人の少女達がいた。
ふわふわとした明るい茶髪のロングヘアが特長的な、おっとりした雰囲気を持つ神官服を着た少女と銀髪のショートカットをした、耳の尖った幼い印象を与える少女の二人だ。
二人共ラスを見て、驚いたような表情を浮かべた。
「……誰それ。もしかして新入り?」
「そうだよネイ。――ラス、紹介するよ。彼女たちが最後の二人さ。エルフのネイと人間のアリアだ」
「――ネイ・アルシオーネ。弓使い。斥候もやってる」
「アリア・ヴィエルジュよ。ヒーラーを担当しているわ。よろしくね」
笑顔で挨拶した二人を見て、ラスは少しの間呆けた。なぜこうもラスの加入に肯定的なのか。面倒なことになることを半ば予想していたために、あまりにもスムーズに紹介が終わったことに驚いたのだ。
「――、ラスティード・エーヴェンシュタインです。ラスとでも。……随分あっさり仲間って認めて頂けるんですね」
ラスの疑問に、ネイが無表情のまま答えた。
「……そこの筋肉馬鹿と陰険メガネが認めてるなら、何も言うことはない。どうせ戦ったんでしょ」
「おいネイてめぇ筋肉馬鹿とはなんだ、筋肉馬鹿とは!それを言うならお前は魔法馬鹿だろうが!!」
「うるさい、夜な夜な筋トレ、鏡で自分の筋肉に見惚れてるような変態は筋肉馬鹿で十分。私はエルフだから。普通のこと」
ぎゃあぎゃあと言い合いを始めたネイとオーウェンに、レミエルが溜息を吐く。
「……まぁあの二人は放っておいて。ラスはオーウェンとクラウスに勝ったでしょ?「アルカディア」に他の人が入るのを一番嫌がるのがオーウェンとクラウスだからね。オーウェンとクラウスが認めたなら、もうそれでいいんだよ」
「一番嫌がるってなんですか、僕は足手纏いが入ることを避けたいだけです。それで活動範囲が狭くなったら困るでしょう」
「確かにそうだけどさぁ」
■
全員が落ち着いた後、ラスは「アルカディア」のメンバーと対面するように座った。
ラスを含めて6人が入るということで一番広い女子部屋にいたのだ。床にレミエルが絨毯をしき、その上に6人とも座る形だ。
上座に座ったレミエルが、ラスに説明を促す。いなかったアリアとネイには先にレスティアドが異世界出身であることを伝えていたので、ここまでは非常にスムーズな流れだ。
「さてラス、お話の時間だ。まずは君の方から自分の世界について説明してくれないかな」
「……と言われても困りますね。さてどこから話すべきか」
悩むラスに、クラウスが助け舟を出した。
「なら最初に、君の使っていた「力」について説明してくれませんか?」
「あぁ、取っ掛かりがあるところから話せばわかりやすいですしね。ならそうしましょうか」
――そうして、ラスティードは語る。
――彼の世界で、呪いとも祝福とも呼ばれている――不思議な力のことを。
「――ギフト。私達のいた世界で呼んでいた、不思議な力の総称です。あらゆる人間に宿る、訳の分からない力。ギフトには、更に大別して2つの分類があります。――それが「能力」と「魔術」です」
「魔術?」
「エーテル……魔力っていう力を扱える力とでもいいましょうか。魔力を使って、使用者の望む様々な現象を引き起こすのが「魔術」、一つのことしか出来ませんが、使用者が思うだけで発動するのが「能力」です。例えば、魔術師であれば、色々手間はかかるけど火や水を操ったりすることができますが……能力者なら、火の能力を持つなら火しか操れない、けど思うだけで火を生み出したりできる。威力も高い。こんな感じに理解していただければ間違ってはいませんね。詳細は長くなるので省きますが」
ラスの説明に、ふむと頷くクラウス。
「汎用なのが魔術で専用なのが能力ってことですか?」
「そういうことですね。因みに世界人口の6割が能力者で4割が魔術師です。能力も魔術も色々分類されていまして、例えば私は「虚無」の属性を持つ魔術師といえます。魔術師は生まれつき「属性」を持っていまして、その属性によって得意な魔術や苦手な魔術が変わります。属性というのは「火」や「土」など基本属性となるものが4つ、他にも沢山ありますが長くなるのでこれも省きます」
「属性……ですか」
「先程言った「火」や「土」の基本属性が一番ありふれてて、基本的には多くの魔術師はそれらの属性を持っています。属性は一つとは限らず、例えば「火」と「雷」の2属性持ち、なんてのもいます」
「ラスの言っていた「虚無」属性ってのは?それにその、ラスの呼び出していた「精霊」みたいなのは何なの?」
「おや此方にも「精霊」はいるんですか。あぁそういえば最初にそんなことを言っていましたね」
成程、と楽しそうに頷くラスがぱちんと指をならせば、エア――白のロングヘアに白のワンピースをきた、金の瞳以外は全てが白い少女が姿を現した。ラスの後ろでふわふわ浮かんでいる。
「――彼女はエア。私の造った、人工精霊とも呼べる存在です」