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現代日常系

邪念をどうにかしてくれ

作者: 平之和移



夕方、学校からの帰り。隕石でも落ちて、それに向かって山彦を期待したら面白いだろうな。空を眺めながらそう思った。冬の夕焼けはすでに夜の影に呑まれかけ、一等星が儚く輝いていた。


僕は一人で帰っていた。家の方向が学校の皆と違うのでこうなるのは必然だ。道が亜空間に流れて他の学生と合流できればな。


家に着き、「ただいま」と言う。返事は期待していなかったが、「おかえり」と母親の声がした。どうやら今日のパートは早めに終わらせたらしい。夕食が期待できる。


二階に上がり、自室に入る。この扉のノブを力一杯回して壊したらどうなるかと想像した。途端にやりたくなるがそれを抑えて、バッグをそこらに放り出す。服を脱ぐと、冷えた空気が皮膚と接触する。僕はそれを拒んだが、空気はヤクザのように体につきまとった。


こんな時、自分をナノレベルまで小さくして空気を制圧したら。なんて、バカな考えだ。いつもそうだ。こうやって変な考え、邪念が止まらない。


部屋着に着替えたあと、ベッドに横になる。一瞬ベッドに食われないかと不安になった。天井を見て、突然あれが落ちてきて、華麗に躱したらカッコいいだろうな。なんて思う。スマホを取り出し、SNSを見る。リアルの友達から、ネット上の知り合いまでの呟きを見る。僕もなにか発信しようと指を動かそうとする。


だが書くことがない。ここで誰もが熱狂するような政治演説でもしようか。それとも勉強の愚痴を意識高く書いてやろうか。そしてそれらを書いたら大反響が起きて、各地に拡散され、あっという間に有名人になり、マスコミから取材されて、本を書いて、印税だけで暮らして……。


いや、いや。僕は慌てて首を振る。幼児だってこんな妄想はしない。僕は高校生なんだぞ。やめだやめだ。SNSのアプリを閉じソーシャルゲームを始める。ログインボーナスを貰い、早速ガチャを回す。


今日はどこまで手に入れられるだろうか。レアな物をゲットできれば最高だ。それどころか最高レアを全部引き当てるかもしれない。そしてそれをSNSにアップだ。瞬時に広がって僕のアンチもたくさん出ていやいやだからやめろそういう思考は。結局爆死した。


イライラしてゲームを閉じて小説サイトを開く。どうやら追っている小説が更新されたようだ。この作品は大変面白いのだけど、不定期更新故か、中々日の目を見ない不遇のものだ。でも、だからこそ魅力的だ。ゴミ山から金塊を見つけた如く喜ばしい。


小説を読んでいると、なんだか僕にも書けるような気がする。本の小説はラノベ以外あまり読まないが、どうせ文を書くだけのことだ。簡単だろう。


まず読者に受けそうな設定をどんどん詰め込んで、あ、いや、そのままだと陳腐だな。他にオリジナル要素として主人公を苦戦させるんだ。ヒロインはツンデレにしよう。どういうツンデレかは、まぁ思い付つままにして、で、敵は魔王ではなく勇者だ。どうだこれはウケるだろう。更にハーレムだ。他のヒロインの設定が思いつかないけど、まぁいいや。


すごい、今にでも書けそうだ。メモアプリを開きタップしてみて、すぐ詰まった。そもそも、文を書くというものの難しさをなめていた。何を書けばいいか判らない。よく考えると全てありきたりだし、中途半端にオリジナル要素を出そうとして失敗している。書いたのを消した。危うく黒歴史がネットに晒されるところだった。


小説の続きを読む。この作品が漫画化されたらな。この戦闘シーンとか、擬音が多いけど、そこを漫画にしたらもっとすごくなるだろう。アニメになったら? 古参を名乗れる! にわか達に対して簡単にマウントが取れる。思わずにやけた。作者も僕のことは大事にするはずだ。


「お風呂入らないの?」下から母親の声がした。そうだ忘れていた。風呂に入らないと。


着替えを持って風呂場へ。裸になり、シャワーを浴びる。水が熱くなり体に流してもよくなる。しかし、このシャワー。地面に思い切り叩きつけたらどうなるのだろうか。割れるだろうか。ひびが入るだけか。途中で詰まらせたら。シャワーを持ってさぁぶつける場所を探そうとして我に返った。


とにかく全身洗い流し、入浴。ここで暴れまわったら、水がバシャバシャ跳ねて楽しいかも。栓を抜いてみようか。そして永遠に水を風呂に入れる。いやはやバカらしい。


熱くなってきたので風呂から出て、バスタオルで体を拭く。いつも思うのだが、最終的には入浴の熱で汗をかくのに風呂に入る必要はあるのか。まぁ正当な理由は思いつくが、しかし、これがなんらかの陰謀だとしたらどうだろう。例えば、水道局が金を巻き上げるために入浴を推奨しているとか。あるいは水が実は寄生虫の一種で、人間に取り入る最良の手段として風呂を気持ちよくしているとか。


バカなことを考えながらリビングに向かうと、ちょうどご飯ができたところで、母親が「ご飯運ぶの手伝って」と言った。僕はキッチンから、ぶりの照り焼きやスーパーの漬物などが盛られた皿達をテーブルに運ぶ。


ここで、この料理をぶん投げたらどうなるやら。味噌汁も、テーブルの上に、いやテレビなどの精密機械にかけたら。母親は怒るだろう。その顔面にお椀に入った白米をぶつけたら。家をメチャクチャにしてやるんだ。皿を全部取り出して、あらゆる場所に投げてやって、パリパリ鳴るのを楽しんで。


もちろんそんなことはしなかった。母親、僕、今帰ってきた父親の分、それらのご飯を並べる。思えば、久々の一家団欒だ。食卓を皆で囲むことは少ない。父親は忙しいし、僕は勉強かサボってゲームでもやっている。


漬物に箸をつけて、ふと疑問が浮かぶ。なぜ今日父親は早めに帰れたのだろう。というか、本当に父は普通のサラリーマンなのか。もしかしたら、身分を偽って国民を監視している秘密結社の一員ではないか。前に読んだ漫画でそんな展開があった。それとも、本当は父親なんて存在せず、僕の幻視なのかも。そうであったなら、僕は嘘の世界を生きていることになる。母親も僕を軟禁しているだけで、本当のところ僕は子供ではなく……。


食事中ながら、ため息を吐いた。流石にこの妄想を現実と思うほど精神は参っちゃいない。このため息を見て、父親が「どうした?」と聞いてきたので、今日の学校で起きたことの愚痴を言ってやった。父は笑って話を聞き、今度はあちらから愚痴を言ってきた。その話は全て、父が至極普通のサラリーマンであることを指していた。


母親は父の言葉に相づちを打ち、平和な時間が流れる。ここでミサイルが飛んできたらな。いきなり外で大爆発が起こるんだ。近所も誰もが大慌て。父親驚愕母親発狂。住民全員走り出す。パニック連鎖でヒーロー登場。それこそ僕で避難誘導。警官たちまち僕に敬礼。真実なのはテロリスト。彼らがミサイルぶっぱなす。


なんて。「ごちそうさま」とか言って、食器を片付けたら自室に行く。明日の準備をしようとして、まぁ明日でいいやとベッドで横になる。歯磨きして、宿題やって、ゲームして、小説読んで、寝るんだ。


今日の夢はなんだろうか。明るい天井を眺めている内に眠くなる。寝ちゃダメだ。まだやることがある。いやしかしこれらの行動は空中に含まれているナノマシンのせいという可能性も。そう今眠ろうとしているのは僕が悪いんじゃない地球が悪いんだ。地球による人類洗脳プロジェクトだ。布団を被っているのは家具屋のプロパガンダのせいで、無辜の市民を苦しめているんだ。


そんなことより、誰か頼む。こういう邪念をどうにかしてくれ。

スマホのアプデで原稿からのコピペが楽になってイイゾ~。長編用にノーパソ用意したけど要らんかも

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