第5話 セーブ厨、食べるぜ!極上!だいしぜん焼き‼︎
パチパチと爆ぜる焚火が宵闇を照らす。
は〜、あったけぇ……
魚の焼ける香ばしい匂いが辺りに漂い、心なしか森の方からガサガサと獣がこちらを伺っているような気さえする。
「おっ焼けたな」
名前も知らない川魚だが、うまそうだ。
漫画やアニメでよく見る川魚の串焼き。
実際に自分がやることになるとは。
「おっと、これを忘れちゃいかんよな」
魚は確かにうまかろうが、やはりこれは欠かせない。
「テテテ、テッテテーン! 岩塩〜!」
ずっと一人だからか独り言が多くなってきた。
精神がすり減ってるんだな。
鞄から取り出した大人の握り拳ほどある薄桃色の結晶。
森を北に進んだ際に見つけた。
これを採取するのに一度死にかける羽目になったのだが、まともに食料を確保できない以上、水分と塩分を補給できなければ詰む。
本当に見つけた時はラッキーだと思った。
カッターを火で炙り、結晶をゴリゴリと削って魚に塩をまぶしていく。
魚の皮の上で油と混ざって解ける。
あ、これ、うまいやつ‼︎
何日かぶりの食事。
「セーブ」
脊髄反射。
もし毒があったときのため。
よし、ルーティンは済んだ。
合わせた手にグッと力がこもる。
「いただきます」
マナーも外聞もかなぐり捨てて魚にむしゃぶりつく。
パリパリと油ギッシュな皮を前歯が引き裂き、ふんわりとした身を口一杯に詰め込んで噛み締める。
「う、旨い……」
涙がつうっと頬を伝った。
体は5日ぶりの食事。
だが、心は40日以上もまともにご飯を食べていない。
カロリーメイトは別だが、あれもすぐに食べ終わってしまった。
咀嚼する度に鼻腔を香ばしい匂いが満たし、さらに空腹になる。
ぐうぐうと鳴る腹の虫。
早く飲み込めと胃がキリキリと急かしてくる。
だが、焦ってはいけない。
いきなり空っぽの胃にたくさん入れると体が驚いてしまう。
魚がドロドロになるまで噛み続け、ゆっくりと飲み下す。
塩味、つけて正解だった……
汗をかきまくったから、体が塩分を欲していた。
「染みる〜!」
夜空に私の遠吠えが響いた。
*
さて。
「セーブ」
あ、しまった。
毒の有無確かめてない……
いや、いいか、即効性の毒はなさそうだし、うん。
腹壊したらその辺にすればいい。
ポジティブにいこう。
魚の骨で歯に詰まった肉をほじぼし。
気を取り直して、さてさて。
生きるのに必死で考えないようにしていたことを考えないと……
まず、これからどうするか……
人がいる……トカゲの尻尾を持つ人がいることが判明したから、そこに行ってみる。
もし、尻尾がないことで差別されそうならどこかに隠れ住むしかない。
幸いにしてリセット機能があるから、街に入る前にセーブして、ヤバかったらすぐリセットして逃げよう。
とりあえず情報が少なすぎるから、今後の身の振り方はまだ考えるには難しい。
次。
この娘をどうするか。
焚き火のおかげでずいぶんと顔色が良くなったみたいだ。
やっぱり美少女。
なんというか北欧系の美女だな。
明るくなったおかげでやっと分かったが、この少女、尻尾だけでなく、黒い立派な角が生えている。
ホモサピエンスではなさそうだ。
言葉を解するかは分からない。
もし話せるようならこの世界について色々聞きたいところであるが……
「あれは、やっぱり魔法だよな……?」
すんなり納得できるあたりがオタクとしての暦が違うのだよ。
その手の妄想を幾度繰り返してきたことか。
少女を背負い、必死に火を起こそうとしていた時、一瞬目を覚ました彼女は、一言だけ発してまた眠りに落ちた。
確か……
『リ・フォルテ』
そう耳元で聞こえた瞬間、手元の木が激しく燃え上がった。
めっちゃびっくりした。
危なく火傷……リセットしそうになった。
アレがなんなのかは分からないが、この世界には私の知らない理があるのだろう。
彼女の発した言葉は英語ではなさそうだし……会話は難航しそうだ。
あと、この娘についての疑問点はもう一個。
この娘はワニに好かれてるということ。
火を起こし、体を温めていた頃、ぞろぞろと川から20匹ほどの黒いワニたちが這い出してきた。
ちびらなかった自分を褒め称えたい。
いかつい見た目とは裏腹に、ワニさんたちは私たちには危害を加えずに各々が捕まえた魚を差し出してくれた。
でなきゃこんなに魚は獲れない。
「あ!」
危ない危ない!
このまま置いといたら腐っちまう。
えっと……内臓を取り除いて、開きにして……
塩をすり込んで……そうだ、煙で燻すか?
燻製にしてしまえばしばらくは保つだろう。そうと決まったら善は急げ、さっさとしてしまおう!