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郷土の誇りは燃えているか?

西暦2100年…

地球は未曽有の危機に直面していた。

宇宙から飛来した謎の侵略者、「コスモスペースギャラクシー」に世界は征服されかけていたのだ。

奴らは高度なテクノロジーで開発された巨大ロボットを次々と投入し、瞬く間に巨大国家を叩きのめしした。そして容赦なく男は丸刈りに、女はおかっぱ頭に統一し、財政を健全化させるべく服従させた。

奴らに征服された国々は無慈悲な健全化の前に為す術なく頭を刈られ、問答無用で外部との情報が遮断された。

次々と情報封鎖されていく混乱の時代で、一つの国が、全県民が立ち上がろうとしていた。

そう、己の信念と各県の誇りを賭けて…



うだるように熱い日本の真夏日、少年は宇宙人と遭遇していた。

「転送座標を間違えてしまいました。まさかこんな田舎に来てしまうとは…」

少女はポツリと呟く。


真夏の陽光に透ける美しい銀色の髪。


エメラルドのように輝く美しい深緑の瞳。


夏なのに全身をぴっちりと覆ったメタリックスーツ。


そして自らが宇宙人であることを証明するように、頭から細い一本の触手と、そこについている梅干しのように赤い球…


そう、日本のソウルフード、梅干しのように赤い球がついていたのだ。


「お、おめは…宇宙人なんだが?」

少年は乾いた喉で生唾を飲み込み、問いかける。

「ん?言語設定は日本にしたはずなんだけど…あなた、妙なイントネーションで話すのね」

「あ、あぁ…ごめん。あまりに驚いたんでつい話し慣れた秋田弁で話してしまった」

「方言…同じ国なのにややこしい、この地球の統一されていないカルチャーが、本当に不愉快」

少女は眉をひそめる。

「と、いうことはここは秋田?でいいのかしら。東京に出向くはずが、こんな地方に来てしまうなんて…後で転送班に文句を言わなきゃ」

「あんた…本当に宇宙人、なのか?なんの目的でこんなことを…」

「なんの目的って…私たちはこの星に侵略を開始したときに、全ての人類に通達したはずよ」

少女は肩幅ほどに足を開き、腕を組んでカッと目を見開いた。

「愚かな人間種を私達が再教育してあげるのよ!非合理的、非生産的、非現実主義の塊であるかのような、この地球の人間どもをね!自分たちの正当性を誇示するために、相手をこけ落とす幼稚なプライド!都合が悪くなったら手のひら返しをする、一貫しない無責任な言動!弱者からは金をむしり取り、上の人間だけが得をするシステムを構築する社会構造!その全てが誠愚かの極み!それらをまとめて無能でくくる!誰が仕組んだ地獄やら!地球平和が笑わせる!あの国も!あっちの国も!あそこの国も!私達の支配に従え!そして真の平和というやつを教えてあげるわ!」

少女は熱く、まくしたてるように一気に話した。

その真っ直ぐな瞳に、ぐうの音も出ない正論に、少年はなにも言えなかった。

「今のところ、私たちの計画通り、USAとチャイナ、アフリカ方面は既に制圧したわ。そして私たちの国民選別構想に則って、貧困層には満足な食事と教育を。そして腐った上級国民様には性根を叩き直すために、農民として一日十時間労働をさせているわ」

「じゅ、十時間労働…だと?」

「しかも休憩時間は三十分で、ね」

少女は目を細め、三日月なような細い笑みを浮かべる。

それは人を人とも思わない、ブラック企業の社長のような冷酷無比な表情だった。

「そして次のターゲットはこの日本国に定められたわけよ。先進国のくせに大した労働改革もされない、税金の使い方もいまいち不明瞭でホントのところ、どう使われてるのかよく分からない、虚偽と利権に塗れたなんちゃって民主主義のこの日本をね!」

そこまで言われて少年は膝をついた。

なにも言い返せなかったからだ。

「フン…まああんたも今に私たちの素晴らしさを理解するでしょうよ。安心、安全、平和を理念に掲げた、私達「コスモスペースギャラクシー」のことをね。さ、なんの巡りあわせか分からないけど、せっかくだわ。この辺鄙な片田舎から私たちの偉大さを広めてあげようじゃないの」

そういって少女は片手を大きく天にかざした。

「転送!強制平和主導兵器!ダイナミックギャラクシーロボ!」

するとなんということでしょう!今まで田畑と農村しかなかった空間に近代兵器が現れたではありませんか!

「ふふっ…驚いているようね。これが私たちの星の科学者、匠の手によって作られたロボットよ!」

その兵器、ダイナミックギャラクシーロボは器用に安全で道幅の広い農道に着地した。田畑を壊さないように。

「このロボを使い、まずは人民浄化を行うわ。悲しいけれど、まずは圧倒的な武力で相手を服従させたほうが手っ取り早いもの」

「ま、待つんだ!俺達に話し合いの道はないのか!?」

「はあ…話し合いというのはね、お互い高度な知性を有し、尊重しあう高貴な精神を持ち合わせた者同士の間で成立するものよ」

少女は肩幅ほどに足を開き、腕を組んでカッと目を見開いた。

「その場では相手のご機嫌とりばかりをした挙句、なあなあな話し合いとゴマすりでその場を誤魔化し!議論を先送りにするのが得意な人間種には!話し合いなんて!時間の無駄以外の何物でもないわ!」

「……ッッッッッ!!!!!!!!」

少年は三度続いた正論に苦悶の表情を浮かべ、膝に矢を受けたかのようにその場にくずおれた。

「あなたはそこで見ているといいわ、この国が生まれ変わる様をね…」

少女はくるりと踵を返した。

まずは小手調べにこの地方から粛清してやろう、さて、秋田県の県庁所在地は…そこまで考えた時だった。

「まんず待でおめッ!!」

少年が大きな声を上げて彼女を呼び止めた。

正直訛りが強くて一瞬呼び止められたことに気が付かなかったが、空気的に察した。

「確かに君の言うとおりだ!人間は愚かで救いようのないオタンコナス(死語)だ!ぶっちゃけクソみたいな上級国民様はどうなっても構わない!だが信じて欲しい!そういった利権と私利私欲に目が眩んだ人間ばかりじゃないということを!」

「えぇ、それは分かっているわ。でも粛清は不可避よ。この国もいずれは私達と同じ、統一言語を学んでもらうわ。多種多様な文化や宗教も統一するの、争いの元になるからね。そう、分かりやすく言うならあなたの美しくない方言やこの地方の特徴も、全て私たちが定めた「全宇宙平和マニュアル」に則って、美しい画一的なものに治められるの。統一、という最も美しい形で、ね」

少年は俯き、絞り出すように呟いた。

「それは…おらんどの故郷に対する侮辱だが?」

「侮辱したつもりはないけれど…文化や地域性ばかりに目を取られて、個性だなんだのといって不均一な生活区域を分散させるのは、美しいとは言えないわね」

「それは違う!おらがだの国にもご先祖様の代から続いできだほごりぃんがあるんだでや!」

「ちょ、ちょい待ち、訛り過ぎて分かんないから標準語で」

「…俺たちの国にもご先祖様から受け継いできた誇りがあるんだ!それは確かに争いを生むこともあるかもしれない、だが同時にその個性は人々にとって豊かなものでもあるんだ!」

「ほら、それよ。豊かとかなんとかいって、複数の解釈ができるような言い回しで議論をまとめようとする。輪郭を得ない言葉は実態を得ず、不要な感情論を煽るだけなのよ」

「確かにそうだ…俺の言ってることは感情論で、この地域を愛しているという、包括的で曖昧な表現でしかない。でもそこで暮らしてきたからこそ感じている、確かな感情でもあるんだ!その感情は君にもあるはずだ!父や母、家族を愛しているように、生物の根源に必ずある、この愛という感情を!」

「っ!耳障りのいい言葉で相手を丸め込もうとする…詭弁よそんなの!」

「詭弁でもいい!だが多様な文化は豊かさに直結するところもあるはずだ!それを蔑ろにするなんてことは、俺は認められない!」

「それはあなた個人の感傷よ!もういいわ、こういった話合いは大体が水掛け論だもの。私はまずこの県の薄汚れた人間たちを粛清してくるわ…」

「ッ!待つんだ!」

「ふん、止めても無駄なんだから!」

「いや別にそこに関して止めはしない。ついでにこれは俺達がまとめた汚職者や非人道的な人たちのリストだ。有効活用してくれ」

「え?あ、ハイ…ありがと。ん?俺達?」

「話は君の使命を終えてからにしよう、俺はここで待っている。どれくらい時間がかかるかな?」

「作戦開始の際には先遣隊員の私の他に実行班もけっこう来るから、三時間もあれば終わるかしら」

「分かった、じゃあ三時間後にまたここで会おう」

「え、うん。三時間後、ね」


~三時間後~


「どうだった?」

「毎回そうだけど薄汚い人間ってどの国でも同じものよね、自分にとって都合のいい言い訳と反吐が出るような懐柔案ばかり提示する。無論、私達のマザーシップへ強制連行、男は丸刈り、女はおかっぱにした後、再教育、農業指導コースにするわ」

「そうか…ありがとう、感謝する」

「…なによ、さっきと打って変わってずいぶん大人しいじゃないの」

「俺達はなにも君達の全てに反対しようとしている訳じゃない。というかむしろ賛成だ、というかむしろ感謝している、というかむしろこのまま計画を推し進めて欲しい」

少年は真っ直ぐな瞳で少女を見つめた。

その曇りのない瞳に少女はたじろぐ。

「そ、そう、なら別にいいんだけど…」

「だが君達の全てを受け入れるわけにはいかない!さっきも言った通り、俺達には故郷に対する愛がある!むざむざとこの国の地域性や文化を消滅させるわけにはいかない!」

「じゃ、じゃあどうしろっていうのよ!」

「君が先に言っていた通り、武力というのはもっともスムーズに交渉を進める手段の一つであると思う。だが一方的な力で相手を屈服させるのはただの侵略だ…」

少年は肩幅ほどに足を開き、腕を組んでカッと目を見開いた。

「よって!君達のロボと俺達のロボ!その二体の戦い…否!競技の勝敗によって俺達の意志を通させてもらう!」

「は、はぁ!?あんたなに言ってんのよ!」

「百聞は一見に如かず!まずは見てもらおうか!俺達秋田県民…いや、東北六県の科学力を結集して造られた、このロボを!」

少年は声高らかに叫んだ!そのロボットの気高い名を!

「出ろーーーッ!!ギガントォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォホクッ!!!!」

少年は手を高く掲げ指を鳴らした。

瞬間、空から巨大なロボットが安全で道幅の広い農道に降り立った!


腕、脚部装甲は燃えるような真紅、胸部は赤べこを模した、雄々しい顔が輝く。


肩部ユニットは青森ねぷたのように大きく、勇ましい文様が描かれている。


頭部はナマハゲを模したデザインで、鋭い眼光に牙が光り、額にある伊達政宗の兜の三日月型前立てが眩しい陽光を反射した。


「なっ!地球の文明で二足歩行のロボット、ですって!?」

「そう、俺は、俺達は…ジャパン・ローカル・メンバーズ!!この国の地方をこよなく愛し、その文化を未来へ受け継ぐ為に戦う者たちだ!」

「そんなアングラな組織があったなんて…!」

「さあ!俺達との勝負、受けてもらおうか!」

「…いいでしょう、地球のローカル文化など大したことはないと見くびっていましたが、ここまでのものを見せられたからには、この勝負、受けざるを得ません!」

「ならば!博士!KBFシステムの発動を依頼する!」

「KBFシステム?」

「決戦のバトルフィールドシステムの略称だ!周囲に亜空間フィールドを形成し、安心・安全な戦いをすることができるんだ!」

「味な真似を!ですがその安全配慮の心意気、地球の蛮族にしては見上げたものね!」

「では行くぞ!決戦のバトルフィールドへ!」

瞬間、空間が大きく歪み、亜空間フィールドへ二つのロボットは飲み込まれた。

ここに地方文化と日本の誇りをかけた戦いが幕を開けたのである。

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