第七話
夏はサラダモーニング、それ以外はきつねうどんとか釜揚げうどん。いずれも、飲み物代金だけで食べられる。
セルフうどん屋ほど本格的なうどんは提供できないけれど……、愛知県民はうどんにうるさい人はそんなにいないし、そもそもモーニングでうどんを食べようと思わないから大丈夫……ああそうだ。麺だけは、固めと柔らかめを準備しておこうかな。ゆで時間を替えて。
高齢のお客様や、離乳食が必要なお客様の顔を想像する。柔らかいうどんが好きなお客様もいるよね。そうすると、メニューには「麺は柔らかめと普通のものがあります」と書いておいた方がいいかな。
乾麺を買ってきてゆでて使うのがいいよね。生麺だと数が読めないので破棄が多くなっちゃうかも。ああ、でも数量限定ですって初めからすればいいのかなぁ。うーん……。とりあえず値段とか見て考えようかな。
日曜の日替わりはどうしようかな。
あ、ドーナツとかどうだろう。ドーナツモーニング。……準備しておいて、余ったらどうしようか?
そうだ、アフタヌーンサービスでも使えるか。
油で揚げればいいから……、あ、揚げパンとかもいいかもしれない。
「ちょっと、休憩しようっ!」
ぐるぐると、朝から1時間くらい考える。
「まぁ、休憩って言っても、今考えたもの試作して試食しがてらの朝食なんだけどね」
ホットケーキは、小麦粉と卵とベーキングパウダーと牛乳で作ります。
えーっと、原価計算もしないとなぁ。1枚どれくらいのサイズで提供すれば問題ないのかなぁ?
さすがに注文があってから焼いていては間に合わないので、ある程度焼いてそれを温めて出す感じになるよね。温めは電子レンジ?それとも鉄板?オーブン?
「やってみるしかないか!……っていうか、一人で回せるかなぁ?」
まだ、人を雇うほど収入が安定していないし……。何とかなってるし……。
とりあえず、動きの確認もしないと。フルーツはやっぱりオレンジかな。切るだけで提供しやすいし、保存もしやすい。
バナナは黒くなっちゃうからちょっと使いにくいし。リンゴも色が変わるからなぁ。
そうだ、ゼリーはコーヒーゼリーは辞めて紅茶にしようかな。パンケーキにはなんだか紅茶のイメージだ。どうせならバニラ風味の紅茶ゼリーにしようかな。でもゼリーは通常モーニングにもつけるけど、バニラ風味は好みがわかれるか……。
と、パンケーキは何種類か大きさを変えて焼く。
小さめ2枚か、大きなものを半分に切って2枚にするか……。
お皿に盛りつけて見た目チェック。+100円で1枚プラスするなら、小さな2枚の方がいいか。
何枚焼けるか、材料分で、お玉にどれくらいでえーっと。メモしながらとりあえず焼ける分を焼いて。
「この分量で、小さめのものが10枚というところか。2枚ずつ提供するとして5人分、えーっと、1枚あたりの単価は……あとはゼリーとオレンジ。あ、もう少し何か付けられそうだなぁ……いや、違うぞ。生クリームひとしぼりと、それからケーキシロップも必要だ。バターはちょっと無理だからマーガリンも乗せる……とすると、うー、ぎりぎりかなぁ」
さて、コーヒーを入れて、並べて写真を撮りますか。
皿に盛りつける。 ゼリーは紅茶は急に準備できなかったので別のゼリーで。
「うん、こんな感じ。よし、オッケーオッケー。かわいい」
あ、お湯沸いた。コーヒーを入れて。
「いい香り」
チリンチリン。
コーヒーを手にカウンターの外に出たところでドアのベルが鳴る。
え?
今日は休みだから、店のドアは鍵をかけたままのはずだけど……?
振り返ると、昨日のなりきりレイヤーさんの姿があった。
ふらふらと足元がふらついている。
肌も鎧もボロボロで、小さな傷や汚れが……。
これ、昨日のコスプレに手を加えて、傷だらけバージョンにしたとか?
包帯や眼帯で怪我したバージョンのコスプレをしている人も見たことがあるし、リアルに骨折していて腕をつっているけれどコスプレしている人も見たことがあるけれど……。
どう見ても、今にも倒れそうななりきりレイヤーさんはそのどちらでもないように見える。
「すまぬが、昨日のアレを……一つ……」
「あの、今日は定休日で……というか、大丈夫ですか?」
顔色も悪いし、メイクではなく、素で顔色が悪い。変な汗も噴出しているように見える。
それに、演技で演出しているとは思えない、手が小刻みに震えている。
車にひかれて地面を転がったと言われても納得できる風体だ。
大きな体がふらりと揺らぎ、片膝をついた。
「あの、本当に大丈夫ですか?病院に行った方が……自力で行けないほどひどい状態ならタクシーか、救急車を呼びましょうか?」
撮影用にと入れたばかりのコーヒーを手に持ったまま慌ててなりきりレイヤーさんに近づく。
「ああ、これだ……ありがとう」
私の手からカップを取ると、ごくごくとコーヒーを飲み始めた。
ちょっと、大丈夫なの?もしかして頭とか打っていて、耳が聞こえてない?
聞こえているけれど、頭を打っていて何を言っているのか理解できない状態?
「苦い……」
と、顔をしかめるレイヤーさん。
「あ、砂糖入れますか?」
美味しく飲んでほしいのでと、うっかり反応してシュガーポットを差し出してしまった。
違う、一刻も早く病院へ連れて行った方がいいよね。
「ああ、すまない、ありがとう」
ん?ちゃんとお礼を言われました。やり取りはできてる。
砂糖を1杯入れて、ぐるぐるかき混ぜて残りのコーヒーを飲み干すのをどうしたらいいのかとただ見ていた。
「はー……よかった」
どすんと、レイヤーさんが近くの椅子に座る。
下を向いてふぅっと小さく息を吐き出し、顔を上げた。
茶色い髪に茶色い瞳。彫の深い顔。先ほどまで真っ青で、変な汗も噴出していたとは思えない。
さわやかな笑顔でにこりと笑った。
「助かったよ……本当、マジで死ぬかと思った。ポーションも十分持って挑んだんだけどな……」
ポーション?挑んだ?
「3段階ボスなんて初めてだよ……あー、油断した。ここにこの店への扉がなければ、本当に死ぬところだった」
ボス?
……もう、なりきりできるだけ体調が戻ったってことでいいのかな?
「なぁ、これ、店から持ち出せるか?」
「え?」
コーヒーを持ち出す?
主人公の名前……出てこないな。
古田瑠璃。ふるたるり。喫茶ふるる。
そのうち書けるタイミングがあればかきますが、
ふるるは、3つの意味が込められた名前です(*'ω'*)
あ、その3つの意味+私が覚えやすいようにという4つ目の意味もあります。忘れるんだよ。忘れるの。