第六話
ママ友会の一人だ。いつも3人の会計をまとめて持ってきてくれる。髪と瞳の色素が薄い、少し欧米系とのハーフっぽい顔立ちの若いママ。すごく美人で、動きも上品。お嬢様って感じの女性だ。
「おいしかったです。カレーモーニング」
「ありがとうございます」
嬉しい!
「辛味もあるんだけどすごくマイルドで、いくらでも食べられそうな優しい味で、大きく切った野菜がごろっと入っていてびっくりしました。モーニングなのにすごく本格的で」
「豆乳を使っているんですよ」
「へー、豆乳なんだ!今度は普通サイズで食べますね!」
「ありがとうございます」
豆乳を使ったカレーは、口当たりがマイルドになる。牛乳を使うよりもあっさりした後味に仕上がる。
玉ねぎを入れてじっくり煮込んだカレーに、ふかしたジャガイモと人参とインゲンを後で加えて軽く混ぜて出来上がりだ。
残念ながらカレー粉はスパイスからは作るほどの本格的な物は作れないので、市販のカレールーを4種類ブレンド。そこに隠し味で三温糖とコーヒーをいれている。
ママ……お友達からはエリカちゃんのママと呼ばれていた。エリカママが、ベーゴマに目を止めた。
「あら、これは懐かしい」
「え?懐かしいですか?ベーゴマが?」
どう考えても30になる私よりも若く見える女性がベーゴマを懐かしがるのが不思議で思わず声を出してしまった。
「ベーゴマっていうのね、これ」
リエカママがベーゴマを一つ取り、竜の模様を凝視する。
「懐かしいのはこの模様。前に住んでいたところでは、これに似た竜の模様を持ち物にあしらっている人が結構いたから……」
へぇ。大阪ではトラの入った服をおばちゃんがみんな着てるみたいな地域制があるのかな?
「よかったらおひとつどうぞ」
「え?いいの?」
「カレーを褒めてくれたお礼です。とても嬉しかったから」
「でもそれは、本当に美味しかったから」
「また、来てください。待ってますから」
遠慮するエリカママに笑いかける。まだ何かエリカママは言いたそうだったけれど、チリンチリンと入り口のベルが鳴り新しいお客さんが入ってきた。
「また来ます」
と、エリカママが新しく入ってきたお客さんと入れ替わるように店を出ていく。
「ありがとうございました、いらっしゃいませ」
その後、17時の営業終了時間まで客足が途絶えることはなく、モーニングに準備したカレーとゆで卵などは順調に消費できました。
木曜日は定休日。
とはいえ、ゆっくりしていられない。来週の営業の準備をしないといけない。
開店から1か月。4週過ぎての売り上げを見ながら、どれくらいの量の準備をしなくちゃいけないか考えないといけない。
そうそう、昨日急遽、ドリンク代+100円というモーニングメニューを取り入れてみたけれど、割と評判が良かった。
日替わりカレーモーニングのサイズを100円で多くするだけだから、別の品を準備する必要がなかったからこちらとしては便利なメニューだ。
うーん、ってことは、試しに明日も+100円モーニングを準備してみようか。
日替わりモーニングはパンケーキの予定だ。パンケーキと、プチデザートのゼリーとフルーツを付ける予定。……で、+100円メニューにするとして何を付ける?パンケーキをプラス何枚かする?ああ、それとも、ゆで卵とサラダを付ける?
ゆで卵とサラダならば、通常モーニングで準備したものをそのまま流用できる。
よし。二つ用意してみよう。
+100円で、ゆで卵とサラダのAセット。もしくは、チョコレートソースパンケーキのBセット。
好評なら、これからも+100円の、もう少し食べたい人用のを引き続き準備することにしようかな。
明日の日替わりがパンケーキ。金曜日は平日常連さんが多いはずで、土日は、常連さんじゃないお客さんも多い。家族でそろって朝のんびりモーニングを楽しみにしてくれる日替わりは、作り置きしやすいメニューがいい。土曜日はうどんにしよう。
モーニングにうどん?と思う人もいるかもしれないけれど、カレーモーニングほどじゃないけれど、うどんをモーニングに出しているところは探せばいくつかある。
ご覧いただきありがとうございます。
ちょこちょこ名古屋圏(愛知の一部名古屋市周辺、岐阜の一部岐阜市周辺、三重の一部愛知と接触してるあたり)喫茶店事情を入れておきます。
理解が追い付かない方もいるかもしれませんので基本情報。
モーニングとは
1、本来はモーニングサービスのこと
サービスとして、無料で飲み物についてくる品。
一番の基本形はトーストとゆで卵である。(コメダに代表するものだけれど基本中の基本でありモーニング文化圏ではがっかりされる代表格)
岐阜市周辺ではゆで卵ではなく茶わん蒸しが多くなる。
もちろん、トーストとコーヒーと茶わん蒸しという組み合わせになる。え?普通でしょ?コーヒーと茶わん蒸しとか、餡子とコーヒーと茶わん蒸しとかもはや意味が分からないとかいう人誰もいませんよ?
2、最近では有料モーニングサービスとして、飲み物代金にプラスして50円~200円程度でモーニングの内容をグレードアップさせることができる
例えば、ゆで卵をスクランブルエッグとベーコンに変更するとか、パンをグラタンに変更するとか
3、モーニングセットとは別物である。セットとは、食べ物と飲み物がセットになった料金設定をしているのであり、飲み物だけを注文するモーニングサービスとちがう。(ちなみにモーニングサービスはあくまでも飲み物の代金を支払うだけなので、食べ物を断っても同じ値段だし、モーニングの内容は同じでも注文する飲み物によって料金が変わる)
のではあるが、最近では「モーニング」という言葉だけが独り歩きしているため、モーニングサービスもモーニングセットも、モーニング限定の企画やイベントやメニューや、それらもひっくるめて「モーニング」と呼び、集客につなげようとしている店も多いので、喫茶店だけがモーニングというわけではなくなっている。
んでもって、どれくらい名古屋圏の人間がモーニング好きなのかと言えば、
ローカルテレビ番組では、帯番組では当然のごとく何曜日にはモーニング系コーナーがレギュラーコーナーとしてあるし、特集として月に1度はモーニングネタをする番組はザラだし、
ローカルテレビ番組ゴールデンタイムの番組では月に1~2回はモーニングだし、2時間の特番になればモーニングはどっかに入ってるし……。
そうですね、全国放送の「カレー特集」「ラーメン特集」「スイーツ特集」レベルにはモーニングは特集を組まれます。
……あ、語り過ぎた。ほらね。こんな感じなのよ。