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第五話

「ああ、留さん。おはようございます。いえ、今日もいつも通り営業してますよ」

 常連の留さんだ。片足を悪くしていて、杖をついて歩いてくる。60で定年して3年と言っていたので、まだそれほど年寄りというわけではないんだけれど、杖を突いて髪が白いだけでずいぶん高齢に見えてしまう。よく見れば、皺もまだ深くはないし、悪い足以外はしっかりした動きをしているし、お若いと分かるのだけれど。

「そうでしたか。水曜か木曜か、定休日がどちらだったか記憶があいまいで、それも消えていたので今日は休みだと思っていましたよ」

 道路から喫茶ふるるの敷地にゆっくり足を進める留さん。

 それと、留さんが視線で示したのは、喫茶ふるるの看板の上。

「あ!消えてる!」

 看板の上には、愛知では定番の黄色の回転灯。黄色のパトランプといえば分かりやしだろうか。くるくる中の反射板が回る丸いランプだ。

 飲食店の看板にはほぼ設置してあり、遠くからでも存在を示すことができるだけでなく、ついていれば営業中、消えていれば準備中と車を運転しながらも遠くから分かる便利アイテムだ。もちろん取り付けました。お値段6980円+施工費。

 その回転灯が消えてる。

「だから、休みと思われて……お客さんが来なかったのか……」

 ほっと息を吐き出す。

 入り口まで歩いてきた留さんがボードに書かれた文字を読む。

「ほう、今日の日替わりモーニングはカレーですか。あ、でもモーニングの時間は過ぎてますね」

「いえ、本日はサービスデーで、1日中モーニングを提供いたします」

 裏事情は離さず留さんに教えれば、すぐに留さんから笑顔が返ってきた。

「そりゃぁ嬉しいですね。カレーは大好物なんですよ。プラス100円で通常サイズになるんですか、でしたら、少し早いですが昼ごはんをいただきましょうか」

「はい、ありがとうございます」

 留さんとともに店内に入る。

 留さんは、一人で来店することが多く、他のお客さんに気を使ってカウンターに座ることが多い。

「いつものと、日替わり通常サイズでよろしいですか?」

「ああ、お願いするよ」

 オーダーを確認して、急いで回転灯のスイッチを入れる。

 手をしっかり洗って、留さんにいつものホットコーヒーを準備。少し薄目が好みのようなので、アメリカンとまではいかないでも少し薄目に用意。

 それから、昨日からしっかり仕込んだ特製カレーを盛り付け、ミニサラダとゼリーをセット。

「お待たせいたしました」

 カウンターテーブルの上に並べると、留さんがうんうんと小さく頷く。

 チリンチリンと、ドアの上のベルが音を立てる。

「いらっしゃいませ」

 声をかけて入り口を見ると、3人連れのお客さんだ。常連さんの幼稚園のママ友3人組。

「お好きな席へどうぞ」

 声をかけながら水とおしぼりを準備する。

 あ!そういえば、なりきりレイヤーさんには水もおしぼりも出し忘れてた……!

 いや、あまりにも姿が衝撃的で、うっかりして……。申し訳ないことをしたかな?

 それから先は、それなりのお客さんが来て、そこそこ忙しかったのでごちゃごちゃ考えているひまはなかった。

「ごちそうさま」

 留さんが立ち上がりレジの前に立つ。

「ありがとうございました!」

 預かっているコーヒーチケットを1枚ちぎる作業はこちらでするので、いつもならそのまま素通りするはずのレジで留さんが待っている。

 そうか!今日の日替わりモーニングはプラス100円のを注文したんだ!

「お待たせしました。チケット1枚と、100円になります」

 留さんがふふっと笑いながらベーゴマに目を止めた。

「これまた珍しいものを飾ってあるね」

「ああ、実は……日本のお金を持っていない外国の方がコーヒー代としておいていったもので……よろしければおひとついかがですか?」

「おや、いいのかい?」

 遠慮しようとする留さんに笑いかける。

「ええ。今日、お客さんが来てくれたのは、留さんがアレが消えてるって教えてくれたからなので、そのお礼です」

「大したことはしてないけどね」

 留さんから500円玉を受け取り、おつりの400円とベーゴマを手渡す。

「ありがとう」

 留さんがそれ以上遠慮することなく受け取ってくれた。

「いえ、こちらこそいつもありがとうございます。明日は定休日なので休みですが……木曜日以外はいつも開いてます。ランプが消えていたらまた教えてくださいね」

 留さんは笑いながら店を出ていった。

 ああして笑顔になってくれると嬉しいな。

 留さんの背中を見送っていると、別の客もレジに立った。

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