魔法の?
「あー、どうしようかな。もっと早く来るべきだったかなぁ。まさかエリカがこんな時間に起きちゃうなんて。どうしよう……」
エリカママ……エリーゼさんがうーんと頭を抱えた。
えっと、エリカちゃんが起きたから、一緒にモーニングに来たんですよね?はじめから起きてましたけど?
「あー……」
エリーゼさんが店の中をくるりと見渡す。
「少し話をしても大丈夫ですか?」
どうやら、他にお客さんがいないというのを確認してから、何か私と話がしたいらしい。
「はい、手を動かしながらになりますけど」
「それはもちろん大丈夫で……えっと、エリがこの間いただいた龍の模様のベーゴマのことが知りたいっていうので連れてきたのですが……ちょっと、エリカが起きてしまって……」
うん。
なんか、さっきからさっぱり言っていることが分からない。
困った顔になったのがわかったのか、エリーゼさんがうーんと頭を抱える。
「あの、信じてもらえないかもしれませんが、実はエリカにはエリという名前だった前世の記憶を持った人格もあって……エリカが寝ている間にだけ出てきて、えーっと……」
……は?
えっと、二重人格というものですか?
そういわれれば、まぁ、なんか表情や口調までがらりと変わった瞬間を見たので、そういう人もいるんだろうなと……納得はできるというか、いやでも……。
前世の記憶……?はて?最近誰か別の人からもそういうこと聞いた気がしないでもないですよ?
チリンチリーンとドアのベルが鳴り、エリーゼさんが慌てて口をつぐんだ。
他のお客さんには聞かれたくない内容だからなのか、単に私の仕事を中断させないためなのか。
「いらっしゃいませ、あ、留さん」
やってきたのは留さんだ。
「おや、今日は小さなお客さんがいますね」
留さんがカウンターに座るエリカちゃんとエリーゼさんを見て立ち止まった。
いつも留さんはカウンターに座るんだけれど、別の席に座ろうか悩んでいるようだ。
「ああ、ちょうどよかったです留さん。えっと、エリカちゃんにもベーゴマをプレゼントしたんですけど、ベーゴマのことが知りたいらしくって。私じゃほとんど何も教えてあげられなくて」
ベーゴマというものは紐を巻いて回して遊ぶということは知っていても、実際遊んだことがない。
紐の巻き方や回し方にはかなりコツがいるというのは聞いたことがある。私が教えるよりも、留さんに教えてもらった方がいいだろう。
なんせ、留さんはベーゴマで遊べる人のようだから。
ベーゴマのおかげで若返ったとまで言うんです。かなりベーゴマに熱中して遊んだんじゃないかな。
「ベーゴマですか。私に教えられることでしたら」
留さんがカウンターのエリカちゃんの隣に腰かけた。
「お嬢ちゃん、おじいちゃんもベーゴマを持っているんだよ、遊び方が知りたいのかい?」
留さんがポケットからベーゴマと紐を取り出してエリカちゃんに見せた。
うん、あとは任せても大丈夫そうかな?
「うんと、エリカはもってないの」
エリカちゃんが留さんのベーゴマを一瞥しただけで、すぐに目の前のゼリーを食べ始めた。
エリーゼさんがちょっと困った顔をして、すいませんと留さんに頭を下げた。
「す、すいません。あの……」
「おや?もしかして魔法のベーゴマのことが知りたいと思っていたのはお母さんの方だったかな?」
留さんの言葉に、エリーゼさんがハッと表情を変えた。
「魔法のベーゴマ……?エリも確かにそう言って……あの、実は」
エリーゼさんの言葉を遮るようにエリカちゃんがゼリーの入っていた空の器を持ち上げた。
「ゼリーおいしかったの、ママのもちょうだい!」
美味しいって言ってもらえてよかった。
と、思っていたんだけれど……。そういえば!
いつもご覧いただきありがとうございます。
……ここから数話……いや、まだかな?前書きかタイトルで分かりやすくしておきますが「悪役令嬢の事情編」に入ります。
あ、番外編になるわけじゃないんですけど、過去語りが始まりますのです。
悪役令嬢の過去など興味はない!というかたは、タイトルか前書き判断で、とばしてくださっても……といいたいですが、その中でちょっぴり物語に関わることも出てくるので……とばした人ように、最後にかいつまんで要約をあとがきにつけときます。どうしても、悪役令嬢系無理という人は、数日後にお会いいたしましょう(*'ω'*)……という親切設計。
ま、でもね、どっちかいうと
「悪役令嬢のテンプレきたー!って、え?違うの?!」とふるピョンが心の中で合いの手入れてくれてます。
「分かる、相手は元庶民ってやつですよね?」とか心の中で突っ込みまくりで、解説もしてくれてます。ので、今まで悪役令嬢物って何?な人にも親切設計……。
さて、昨日は「駐車場に車がいっぱい止まっている喫茶店のモーニングは当たりの可能性が高い!」と言いましたが、実は、そうじゃない店もある。
ということも、言っておかないといけないんですけど、これはまぁ、あれですよ。上級者編なので、え?上級者編も知りたい?いや、そうですね。その前に、初心者編のその2とかその3とかも書いておかないと。続く




