新製品
「えーっと、でも……」
人からもらったベーゴマを渡しただけでお礼をもらうなんて……。
「本当は、あの、会社で作った新しい商品で、もちろんお礼の気持ちもあるんだけど、意見を聞かせてもらえると……」
会社の商品?
「私、あんまりゲームとか詳しくないんですけど……それでもいいですか?」
「気に入らなければ、ほしいというお客さんにあげてもいいんで!」
社長の言葉にぷっと思わず笑いが漏れる。
「なんだか、それ、わらしべ長者みたいですよね。コーヒーがベーゴマに代わって、ベーゴマがこれになって、これも別の何かになるなら……。どこか目立つところにおいておけば会社の宣伝になるかもしれませんね。ありがとうございます。いただきます」
あまりかたくなに断るのもどうかと思って受け取ることにした。
会社の宣伝になるかは分からないけれど……客層があまりゲームをする人ではない。あ、なりきりレイヤーのサファルさんならゲーム好きかな?
受け取った紙袋の中をのぞく。
「見てもいいですか?」
「はい、もちろん」
紙袋の中には布のようなものが見える。
あれ?新しいゲームじゃないんだ。商品って……何だろうか?
手にとって広げると、それは……。
白い半そでパーカーだった。
……フードには垂れた長いうさ耳がついていて、お尻の下まで隠れるロングパーカー。お尻の部分には丸いしっぽが……。
これ、もしかして……。
「新製品のピョン属パーカーです」
ニコニコと社長が笑っている。
目が、めっちゃ期待に満ちた目を……。
いや、これ、試着してみてっていう目ですかね?
いやぁ、あのぉ……。
「どうでしょう、売れると思いますか?着心地とかまだ改良の余地があれば改良したいんですが。冬には、フェイクファー生地でアウターも作る計画があって」
……。着心地が知りたいと言いましたね?
それ、もう、開発途中で絶対いろいろな人が確かめてると思いますし、今更私の意見いりますかね?
「いろいろな人間が試着してみたんですが、いまいちピョン属っぽさが出なくて、パーカーの長さに問題があるのか、裾のたるみを増やした方がいいのか、ウエスト部分を絞ったほうがいいのか……僕も来てみましたが、僕が着ると裾がこの辺までしかなくてもう単なるパーカーで」
社長が、着た、ですと?
想像して思わず笑いが漏れる。
「社長が着るなら、ガウ属パーカーとかの方がいいんじゃないですか?」
ウサギモチーフの小柄な種族のほかに、黒豹モチーフの長身でスマートなガウ族という種族もいたはずだ。
ガタンと社長が立ち上がった。
「ガウ族パーカー……そ、それは盲点だった。ピョン族とガウ族二人並んで歩く姿……うん、いいかも、それ、いいかも!」
それから、社長が手にパーカーを持ったままの私を見た。
キラキラの目のままだ。
これ、まだ、私が試着するのあきらめてない顔ですよね。
うん、はい。分かりました。自分だけスコーンの感想もらって幸せな気持ちになるのずるいよね。
パーカーに袖を通し、ジッパーを引き上げる。裾を引き下げ、タレ耳のついたフードをかぶる。
「ふるピョン……すごい、完璧、そう、そうなんだ……」
社長の目のキラキラビームがマックス。
……小柄じゃないと似合わないパーカー……ってことですかねぇ。そうなると、もう、なんていうか……。
販売対象を子供向けにしたらどうでしょう。と思わないこともないけれど、ゲームの対象年齢とのずれがあるからダメなのかなぁ。
チリンチリン。
いつもありがとうございます。
しゃ、社長……が……おかしな、方向に……。
とはいえ、これ、この先のフラグです。パーカーも今後……おっと、ネタバレ厳禁。
このように、一見「は?ここらへんのシーンいる?」という部分も後々「ああ、あの時のあれが」みたいな感じがいつものスタイルなので、気長にお付き合いいただければと思います。
早くダンジョン行けとか思うよね。はい。そうですね……。
というか、いつ異世界とつながっているということに気が付くのか!




