2-2 変わってしまった日常 昼
「あのさぁ、さすがに昼食まで一緒じゃなくてもいいじゃん」
なんと、司は屋上についてきて澪と一緒に昼食をとっている。
「いえ、いつ『蝕』が発生するか分かりませんから」
「いや、そういう問題じゃないんだって」
そう、澪が一番気にしているのは『周りからの視線』なのだ。ここまで男子に引っ付かれる経験がないので気恥ずかしいというのもあるが、とにかく周りの、特に女子の目線が背中に突き刺さるのが耐えられなかった。
「周り見てよ。勘違いされるじゃん」
「それはどういう意味ですか? 」
「……もぅいいよ」
まさかとは思っていたものの、ここまで朴念仁だとは澪も想定外でただ困惑するしかなかった。
「もぅ少し周りの目も気にしてほしいんだけどなぁ…… 」
「何か言いました? 」
「なんでもない。ほら、教室戻ろ」
「は、はい…… 」
何とも言えない空気を残したまま、二人は屋上を後にしたのだった。
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「……なによ、少し怪我したからってさ…… 」
一方の百合はというと、澪から距離を取るかたちで食堂にいた。簡単に言えば『嫉妬』である。
「羨ましい、私なんか…… 」
元々顔の良さと言動から注目を浴びることが多い百合は、典型的な自己中であるため、自分に注目が集まらないことを極端に嫌う。
「まぁいいわ、どうせ3日もすればみんないつも通り…… ん? 」
食器を返しにいこうと立ち上がったその時、百合は自分の影が一瞬だけ揺らいだように見えた。
「……疲れてるのかなぁ、私」
しかし次の授業まで時間がないこともあり、百合はすぐその場を立ち去っていった。
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「……はぁ、やっと終わった」
緊急の職員会議のため、五限終了と同時に学校から解放された澪はいつも通り帰ろうとした。が、その腕をいきなり司が掴む。
「待ってください、何処へ行くつもりですか? 」
「帰るんだって」
「それは無理です」
「はぁ? 」
澪がため息混じりに「何かあるの? 」と問いかける。
「まだこの校舎内に『蝕』の反応があるんで調査を…… 」
「そういうことなら早く言ってよ! ……あっ、百合帰っちゃった」
なぜ怒られたのか分からないといった面持ちで司がポカンと口を開けていると、澪がいきなりビンタを食らわせる。
「ここには私の友達がいるし、当然他にも色んな人がいるんだよ? なんでそういう危険な話を秘密裏にやろうとするの! 」
「いや、だって『蝕』は…… 」
「あなたバカなの? 誰かが被害をこうむるのを待った上で『蝕』を倒すって? そんな汚い真似、私の目の前でしないで」
教室を飛び出していった澪の背中を見送りながら、司はぶたれた頬を押さえた。
「任務に感情なんか持ち込んじゃダメだよ…… 」