1-6 相方
どうしようもないくらいグダッてますがこっからなんです。お付き合いのほどお願いします。
数秒の間握手を交わし、黒川は席を立った。
「立てるか? 君にここの案内と職員の登録をせねばならない」
「あ、はい」
2日間寝たきりだったとはいえそれほど激しい衰弱もなく、澪はごく普通にベッドから降りる。黒川はその様子を見て「大丈夫そうだな」と呟いて歩き始めた。
「あの、どこへ? 」
「とりあえず事務所に。君を新たな戦士として登録して、我々がどういう組織なのかを説明しないとな」
病室を出ると再び扉が表れた。二枚目の扉は上下に開くタイプのもので、それは一目見ただけで頑丈さが理解できる代物であった。
「あのぉ、私って今どういう扱いですか? 」
「書類上の扱いでは『監視対象』扱いだな」
「うぇ」
澪はそれ以上なにも言えなかった。無言が続くまま灰色の壁材で埋め尽くされた廊下を歩き、二人はエレベーターに乗った。
「………… 」
さすがに澪の無言が気になったのか黒川が声をかける。
「どうした? 」
「いや、余計なことしたら捕まったりするのかなって…… 」
澪の言葉を聞いて黒川が大笑いを始めた。さすがに澪もこの反応は気にせずにはいられず質問する。
「何か可笑しかったですか? 」
「いや、違うんだよ。監視の対象になってる理由は『蝕』と接触したからであって別に何もしていないさ。悪かった、そう深く受け取らないでくれ」
あっという間にエレベーターは『11F』の表示とともに停止し、扉が開いた。そこには澪が今まで見たことがないような巨大なオフィスが広がっていた。
「すごい…… 」
「ここが今日から君の所属する組織、『スメラギ』の事務所だ。詳しいことは彼女から聞いてくれ」
そう言って黒川が指差したのは1番窓際のデスクの列の中央に座っていた女性であった。黒川が「木下」と呼ぶと女性は「は〜い」と答えてこちらにやって来た。
「こちらは私の部下の木下だ」
「木下です。よろしく〜」
二人の纏う空気の違いにやられて澪は少し困惑した。しかし顔に出すのはまずいと判断したのか澪は特に表情も変えずにお辞儀する。
「これから先は彼女にバトンタッチだ。私は少し用事があるのでな」
「またお呼び出しなの〜? 」
「まぁそんなところだ。では任せた」
黒川は足早にオフィスを突っ切り、奥の部屋へと姿を消していった。木下は澪の肩に手を置いて話しかける。
「さて、私たちはあっちで話しましょうか」
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オフィスの奥にある狭い応接室に通された澪は、大量の書類の束を抱えた木下と相対した。
「まずは自己紹介ね。私は木下 柊花、ここ『スメラギ』の戦闘班『ヤサカニ』の副長をしています」
「杉山 澪です」
「よろしくね澪ちゃん。それじゃ早速『スメラギ』の説明から済ませましょうか」
そう言うと柊花は書類の束の上に乗っていたファイルを取り出し、順番に説明を始めた。
「まず『スメラギ』とは『蝕』に対抗するために日本政府が設立した『宿し人』の統括機関です。このくらいの説明で理解出来るかしら? 」
澪が静かに頷く。柊花はページをめくって説明を続けた。
「で、澪ちゃんはここに所属することを決めてくれました。すでにご両親には説明し、謝罪させてもらいました」
「父さんは何て言ってました? 」
「ただ一言、『本人の意思を曲げるようなことはするな』と告げられました。いいお父さんですね」
「えぇ、まぁ母を亡くしてからはずっと二人きりでしたし」
この時、澪は父が反対しなかったことに対して疑問を抱いていたのだが、表に出さずにソファーに座って柊花の話を聞いていた。
「で、澪ちゃんには『スメラギ』の中でも特に『蝕』と戦うための戦闘部隊、『ヤサカニ』に所属してもらいます」
「つまり明日からいきなり戦闘ですか? 」
「いいえ、そこまで連続した蝕の出現は確認されていません。高校への通学も差し障りのないように手筈を整えています」
そう言って柊花が資料のファイルを閉じた時、応接室の扉がノックされ、黒川が見知らぬ顔の青年を連れて部屋にやって来た。
「お、いるな。木下、大体の説明は終わったか? 」
「はい、一応は」
「なら澪君にしておこう。彼は二条 司、今日から君のパートナーとなる」
黒川の紹介に続いて司と呼ばれた青年が頭を下げる。黒川は木下に「御上が呼んでる。すぐに会議室に来い」とだけ告げると足早に部屋を出ていった。