1-5 立場
忙しさに負けて、やや文章が乱れてます。すみません、受験が終われば書き直したいと思います……
「ん…… 」
澪が意識を取り戻した時には既にグラウンドの土もヒビの入った校舎もなく、ただひたすら白い、白い部屋の中央にあるベッドに寝かされていた。
「私、また死んで……ないか。あんなに広くないし」
部屋を見渡し、今いる空間の広さを確認したあと澪はひと安心した。間取りからして恐らくここは病室であると分かったからだ。
「あ、起きた」
突如聞こえた女性の声に澪は思わずギョッとなってベッドから飛び起きた。その様子をどこから伺っているのか「ごめんごめん、状況つかめてないよね」と女性の声は続く。
「あのー、どちら様ですか? 」
「今は顔を見せられないんだよ、ごめんね。代わりに私たちの代理人がそっちに行くから」
女性の声が終わった直後、突如扉が開いて一人の男性が現れた。男は表情を変えることなく澪のベッドの横にある椅子に腰掛け、澪の顔を真っ直ぐに見据える。
「気分は大丈夫か? 」
「は、はい…… 」
澪が恐る恐る答えると男は静かに微笑んだ。
「それは良かった」
澪が安堵のため息をつくと、男はすぐに真顔に戻る。顔自体はいわゆる日本人の顔なのだが、体格が日本人のそれではなかった。
「さて、君の素性は既に調べてしまったのでこちらから自己紹介をさせてもらおうか。私の名前は黒川 智久、現在君の身の安全を保証している者だ」
「は、はぁ…… 」
これには澪も面食らう。流石に話が飛びすぎていて飲み込めなかったのだ。黒川と名乗る男は、澪の顔を見て手を組んでベッドの方へと体を乗り出す。
「言葉が足りなかったか。どう言えばよかろうか…… すでに『蝕』と『宿し人』の話は分かるよな? 」
「はい」
黒川の圧に負けてコクコクと頷く。黒川は表情を変えないまま話を続ける。
「さて、なら当然『宿し人』しか『蝕』と互角に対応できないとは知っているはずだな。そして君は『宿し人』になってしまった、これで間違いはないか? 」
「はい」
澪が再度頷くのを見て、黒川は「はぁ〜 」とため息をつき伸びをした。今までのシワすら許さぬ姿を見せつけられていたために澪はその光景に呆気にとられた。
「……あのぉ、何かもんだいが? 」
「いや、そうじゃない。まぁ多少面倒にはなるんだがな」
そう言うと黒川は再び元の体勢に座り直した。
「実のところ、日本政府は『宿し人』を国家の最重要秘密として伏せていた。だが今回の一件で全国各地で目撃が相次いでしまってな、もう情報を公開するしかなくなった」
黒川は上着の懐から一枚の紙を取り出し、澪に手渡した。そこには澪は現在『日本政府がその身を預かる』立場になっているということだった。
「え? どういう意味ですかこれ? 」
「さて、こうなってしまったからには話しておくが、『宿し人』は『蝕』に対抗できる唯一の存在なのは分かるよな? 」
紙を手にしたまま澪が頷くと、黒川は「話が早くて助かる」と返事をして言葉を続けた。
「で、君は当然その数少ないうちの一人になってしまったわけだ。当然君も『宿し人』なんだから例外ではない」
「はぁ…… 」
澪は既に生返事しか出来ないほどに状況の重さを思い知らされていた。そして流石に軽々と『あの青年』との契約を飲んだことを少しだけ後悔していた。
「大丈夫か? 」
「はい、大丈夫です」
こうなってしまったからには仕方ない、と澪もしっかりと黒川を見据える。
「戦えば良いんですよね? 」
微塵の迷いも感じられない澪の言葉に、黒川はさすがに目が点になった。
「まだ何も言ってないのにどうしてそこまでの返事になるんだ? 」
「契約した、『彼』との約束です」
「ほう」
即答であった。黒川は澪の目をじっと見つめ、そして微笑んだ。いかにも日本人だと分かる黒川の髪には、顔からうかがうには似合わないほどの白髪が混ざっていた。
「そうか、ならわざわざ問いかける必要もなかったな。ようこそ『皇』へ」
澪は黙って黒川の差し出した手を握った。