1-4 勝利
短めですみません。次の回はもう少しましな分量になると思います。
「ハアァァァ!! 」
幾度となく剣を交える。しかし先ほどまでのようにはいかず、相手も私の攻撃を受け止められるようになっていた。
『まー、慣れの問題だわな。自分で相手の弱点見つけろ』
「い、言われなくても…… ウワッ! 」
鎧武者の攻撃が当たりかけて澪は思わず一歩下がる。しかし後ろの注意を忘れていて、犬型の突進をもろに食らってしまった。
「痛ッ! 、うぅ…… 」
少しだけ背中がヒリヒリしたが、大したダメージは受けていないらしい。
『まぁ、最初はこんなもんか』
彼は能天気に戦闘を見物しているらしい。
「あのー、傍観してないで少しはヒント下さいよ…… 」
澪はあまりに能天気な彼の対応に少しイライラしたが、彼はすぐさまこう返してきた。
『教えても良いけど忘れるだろ? 一度食らって、その上で見つけたものは絶対忘れねぇから』
(あーー、この人私が勝つ前提で話が進んでる……)
「勝てるかどうかも分からないんですけど! 」
鎧武者が放った正面打ちを剣で受け止めながら吠えてみる。すると彼はとんでもないことを言った。
『どーせ勝てる。お前の装備に傷をつけられるようなやつがこんなとこうろついてんならとっくの昔にこの世界は滅んでるさ』
一斉に敵が間合いを詰めはじめたため、慌てて距離を取り直して構える。でも冷静にって言われてもなぁ……
【オォォォォオオォォ!! 】
背後にいた鎧武者が動き始めた。さすがに音で判別できるため、時計回りに体をひねって回避行動を取る。
「ヤァァーー!! 」
回転横薙ぎ、さすがに相手もこちらの攻撃を捌いたので鎧を真っ二つとまではいかないものの敵の鎧に傷を入れることが出来た。
【グッ!? 】
私の動きの変化に驚いたのか、『蝕』の動きが一瞬止まる。すかさず一歩踏み込んで剣を振り上げた。
「うおォォォァァ!! 」
ほぼ倒れ込むようなかたちで放った正面打ちは、鎧武者の鎖骨あたりを切り裂いて地面を割った。完全に両断された鎧武者はその場に崩れ、開かれた魚のように突っ伏した。
「これだっ! 」
澪は即座に駆け出した。そこから先は動きも見違えるようによくなった。恐らくは要領を見つけられたのだろう。
『そそ、剣術の初歩はそっからよ』
【グルァァァ!! 】
犬型が飛びかかる。澪は弾かれたようにその場にしゃがみ込み犬の牙を回避すると剣を振り上げ、カウンターの如く一撃で犬を真っ二つにした。
「これで…… あと一体…… ハァ、ハァ…… 」
『おおっと、時間切れか』
最後の一体となった犬型の『蝕』が尻尾を巻いて逃げ出した。
「待てッ!…… ってあれ? 力が…… 」
膝から崩れ落ちる澪、彼も『やれやれ、ここまでか』と呟いた。
『活動限界だな。初回の変身だったから仕方ない』
すると突然鎧の中から光輝く人の腕が伸び、指鉄砲の形をとった。
『バーーン!! 』
彼の手から鋭い閃光が飛び出る、と同時に『蝕』の体が焼けはじめ、数秒後には跡形もなく灰になっていた。
「……そんな力があるなら、最初から…… 」
完全に意識を失った澪はグラウンドに倒れ込む。例の青年は鎧から上半身だけを覗かせ、頭のハットを押さえながら呟いた。
『使えない理由があるんだよ。まぁ良い、今日のところはこれでしまいにしといてやるよ』