1-3 初陣
そろそろ本格的に戦闘シーン、いってみよー!
「ガッ!?、ウゥ…… 」
痛覚が引いていくのを感じながら、澪は蘇生して間もない状態から正常な意識を取り戻し始めた。
『おーい? 鎧はまとえたか? 』
彼の声が頭に響く。冗談抜きで頭に響くので澪は頭がフワッとする感覚に襲われた。
「え? 鎧?? 」
思わずすっとんきょうな声を上げてしまい、澪は少しだけ顔が熱くなった。そして自分の体に視線を落とすと、鎧のような防具が澪の体を固めていた。
『お前に合わせて女性用にしてみたが、どうだ? フィットするか? 』
西洋風の兜と胸甲、そして籠手。脚の方はというと、剣道の防具の『たれ』を伸ばしたようなスカートスケイルの中にしっかりとすね当てとブーツが装備されている。世辞を抜きに可愛いらしいデザインで、しかもものすごく軽い。
『まぁいい、あの男と友達かばうのも面倒だから下に降りるか。『蝕』は必ず『宿し人』を襲うようになってるから』
「わ、分かった! 」
とりあえず一歩目を踏み出してみると予想以上に体が軽く、目測5mはあったであろうフェンスまでの距離を軽く一歩で到達してみせる。
「ウワッ!? 」
なんとそのままフェンスを飛び越えてしまった。しかもその後を『蝕』が群れをなして追いかけてくる。
『着地したらグラウンド中央まで引き付けろ! バトル開始だ!! 』
「分かった! 」
今まで感じたことがないほどの力をほとばしらせながら、澪はグラウンドを駆けた。
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「すごい…… 」
一方、屋上に残された百合は感嘆の声を漏らすしかなかった。凛とした空気をまとって駆けていっただけだというのに、澪の後ろ姿は『美しかった』。
「君は、彼女の知り合いか? 」
百合たちをかばって『蝕』と戦っていた男性が身幅のある長刀を腰の鞘に納めて百合の前に立っていた。
「は、はい…… 」
二人だけの屋上に暖かな風が吹き流れた。
「彼女の話を色々と聞きたいが、まずはあなたの安全を確保しないとね」
男はそう言うと、百合を抱えて『お姫様抱っこ』の体勢になる。
「え? えぇぇ!! 」
顔を赤くしてじたばたする百合を抱えたまま、男も屋上から飛び降り、グラウンドとは校舎をまたいで反対側の道路の方に姿を消した。
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『そろそろだ! はじめっぞ!! 』
「分かった!! 」
走るのをやめ、後ろを振り返りながら急停止する。澪にとっては初めての戦闘、それも事前訓練なしの実戦だというのになぜだか恐怖は沸いてこなかった。
結局屋上にいた『蝕』の群れはまるごと自分を追いかけてきたらしい。その数は5体、うち2体が狼犬を大きくしたような外見で、残りは鎧武者の格好をしている。
「武器ってある? 」
『腰のところの剣が一本。盾がほしけりゃ増やしてやろうか? 』
「大丈夫、多すぎても使えないし」
そう言って剣を抜いたが、剣もまた羽根のように軽い。ここで再度、澪に一つの疑問が生まれた。
「これ、ホントに武器なの? めちゃくちゃ軽いんですけど…… 」
『あ? 装着者の心の強さで重さが変わるんだよ。お前が身に着けてるから軽いだけだ』
澪は、英霊が人を選ぶ理由が見えた気がした。
『という訳で戦ってみるか。剣の握り方くらいは分かるよな? 』
「えぇっと……… 」
確かこう、と中学の時の授業の僅な記憶を振り絞って構える。いわゆる中段の構えだ。彼は『構えまではまぁ出来るのか』と呟いた。
『まぁ、とりあえず一撃打ってみろ』
「はいっ! ヤアァァァァーーー!! 」
全力で踏み込むとグラウンドにブーツの踵部分がめり込み、たった一歩で相手との距離を埋める。群れの先頭にいた鎧武者がのけぞりながら構えようとするも、澪が振り下ろした全力の一撃が見事に兜をとらえて武者型の『蝕』を一刀の元に切り伏せた。
「いけるッ! 」
ややオーバー気味に振り下ろした剣は地面に切れ込みを作った。すぐに背後から犬型の『蝕』が牙をむき出しにして飛びかかったのが見えた。
「ハアァァ!!! 」
剣を抜こうとしたパワーをそのまま活かした振り向きざまの薙ぎ払いも『蝕』の腹をとらえ、切り裂いた。あまりの切れ味の良さに彼女は勢い余って少しバランスを崩し、よろめいた。
「っぶな! ……っと」
ヒヤッとしたぁ…… すかさず構え直したが、相手は後手に回っているのか攻めては来なかった。
「すごい…… 」
切れ味もさることながら、これだけ乱暴に振り回してなお傷もつかない剣の強度に驚いていた。彼は満足そうに『いいねぇ』と小声で言っていた。
『さ、あと三体くらいサクッと片付けろ! 』
「分かった」
澪は息を整え、再び『蝕』の群れへと突っ込んでいった。
一人称で戦闘書くとか狂気の沙汰にチャレンジしておりますが、読みにくかった場合は『こいつ、気でも狂ったんやろな』と思いながらそっとブラウザバックしてやってください。