4-6 夢の中で
大学生、暇があるようで多かった(訳:遅れてすいませんでした)
澪が意識を取り戻すと、そこにはただ何もない『白い空間』に横たわっていた。もちろん既視感はある。かつて名前すら分からないままアダムと契約したときに見た景色である。
「また死んだ? 」
『いや、君は死んでないさ』
突然の声に飛び起きる澪。それもそのはずで、ここでアダム以外の声が聞こえるはずがないと澪は深く信じていたからだ。
「……誰? 」
『悪い悪い、驚かせてしまったね。今姿を見せるから少し待っておくれ』
とっさに臨戦態勢をなだめるように謎の声は答え、そして澪の目の前の空間が『歪んだ』。歪みはやがて人が1人通れる程度の穴へと変わり、そこから1人の青年が現れた。
「初めまして、だね。杉山 澪さん」
「えっと…… 」
ふわりと微笑む『彼』。まだ海外に出たことのない澪に銀髪緑眼の好青年などという稀な知り合いどいるわけもない。だが澪は初対面であるはずの男に懐かしさを感じていた。
「なぜ私の名前を? 」
「この宝具は僕が作ったものなんだ。自分の魂の一部を繋ぎ止めてあるから、これを身に付けた人のことは大体把握できるんだよ」
澪の顔を覗きこむようにしながら近づく青年。さすがに後ずさるのは気が引けたのか、澪は大人しく目の前の『彼』と目を合わせた。
「自己紹介がまだだね、僕の名前は……ネモとでも呼んでほしい」
「それって…… 」
かつて読んだ本の登場人物にも同じ名があったと思い返す澪。意味はラテン語で『誰でもない存在』を意味するものだ。
「仕方ないんだよ。僕は地球上の言葉では定義できない存在だから。ぼくはあらゆる神話に残る全ての存在より前に生まれ、そしてただ世界という概念だけを作って死んだから」
話を切り上げ、澪からの質問を待つかのように座り込むネモ。
「……えっと、私がこの空間に度々呼ばれる理由ってあるんですか? 」
「それはまぁ、君が700年ぶりにヒストリアを着ることになった存在なわけだし多少気になったのさ。ここは我々死んだ側が今を生きる者たちに会うための空間さ」
「へぇー 」
実感が沸かない澪。ネモは「いずれ分かるときが来るさ」と微笑んだ。
「さて、時間もないから伝えたいことだけまとめて伝えるね」
「……はい」
「君はあと3、4回はここに来ることになる。その度にヒストリアの性能の制御が外れていくから注意すること。それと君とよく一緒にいるあの子……七尾百合ちゃんだっけ? 彼女もその内『宿し人』になるよ」
「えっ!? それってどういう…… 」
「ごめんよ、今回は時間切れだ。また今度話そうね」
ネモの顔が歪む、同時に真っ白な空間も何かに飲み込まれるように揺らぎ始めた。
「待って! まだ聞きたいことが…… 」
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「……って事があった」
「ふぅん、あのいたずらジジィがそんなことを」
モードレッドとの戦いの直後に気を失い丸1日眠っていたことを黒川から告げられた澪は、なぜか肉体を獲得しているアダムに眠っていた間に起こったことを説明した。
「っていうか、なんでアダムは実体化出来てるの? ヒストリアはここにないでしょ? 」
「それなんだがなぁ、多分宝具の所有権が移ったんだろうさ」
「はい? 」
そこから数分ほどアダムの話を聞くに、どうやらアダムもかつてネモに会ったことがあるらしい。その際にヒストリアに魂を結びつけられ、装着者を見守る役目を与えられたそうだ。
「それが、多分お前に所有権を切り替えたんだろう。で、用済みとなった俺は今までのお役目分の報酬を受肉って形で手に入れたというわけだろうさ」
「……納得してる? 」
「するわけねぇだろ!! 」
「ですよねー」
若干怒りを滲ませて頭を掻きむしるアダム。部屋の隅で静かに記録を取っていた黒川が口を開いた。
「というわけで、アダムは正式にスメラギで預かることとなった。一応偽名は『足立 利也』で通すから、把握頼む」
「はい」
「あと、お上がお前に休暇を与えると連絡してきた。今週末は訓練禁止となるから、二条とアダムを連れて出かけてこい」
「はい…… 」
もう特に連絡はない、と言わんばかりに部屋を出ていく黒川。必死に情報の整理をしつつ、澪はアダムに話しかけた。
「どっかいきたいところとか、ある? 」
「秋葉原」




