4-2 反逆の騎士 1
反射的に構える二人。しかし男は構えない。
「さすがに殺気を出しすぎたか」
「そんな事よりさ、『我ら』ってどういうこと? あんたも昔の英雄さんを名乗るわけ? 」
ジリジリと間合いを詰めながら質問を始める澪。男は静かに笑うと、甲冑の面甲を下ろして剣を地面に突き立てた。
「あぁ、ただしこれから死ぬ者相手に名乗る名はない」
「あんたに殺される気はないよっ! 」
澪が切りかかる。鎧の男は、身の丈近くあるロングソードを片手で振り上げ、斬撃を受け止めた。
「くッ!…… 」
「気迫も威力も申し分ない。しかし、重さが足りん」
男は澪をそのまま片手で弾き返した。すかさず二撃目に移る澪だったが、剣を振り上げた瞬間に男が懐へと滑り込む。
「それに流れがない。我流としてはセンスはあるが、貴様は剣士に向かぬ」
「ガハッ!…… 」
胴薙ぎ一閃、吹き飛ばされた澪は神社の壁に激突し、壁が崩れ去る。
「杉山さん! 」
「だい、丈夫…… 」
剣を杖にして立ち上がる澪。もちろん男は容赦せずに彼女に突進し二撃目を放つ。
「あなたには、負けられないッ! 」
「覚悟も大したものだ……だが強さがな」
「うぐっ! 」
なんとか斬撃は受け止めたものの追撃の蹴りまでは感知できず、鳩尾に直撃する。体勢を崩され宙に舞い上がった澪は、男の剣がどす黒い赤色に光るのが見えた。
「しまっ…… 」
「吼えろ、栄冠を抱く剣」
空中に掲げられた切っ先から赤黒い光の束が放たれ、澪に直撃する。爆煙が巻き上がり、澪は地面に叩きつけられた。
「くそっ! 」
司がすかさず反撃に出ようとするも、剣を振り上げることさら叶わずに蹴り飛ばされる。
「ガハッ!…… 」
呼吸が出来ずに悶絶する司。男は無言で剣を振り上げた。
「死にゆく覚悟は出来たか? 」
「…… 」
「もはや喋ることすら出来ぬか…… ッ!? 」
振り上げた剣を降ろし、一歩後退りする男。そこには司の前に割って入った澪の姿があった。
「ハァ、ハァ…… 」
「……たいした娘だ」
再び蹴り上げようと脚を振る男。しかし澪はきっちりと対応して男の動きを捌いた。
「確かに強いね、モードレッド卿」
「ほう、我を知っているのか」
「そりゃあ、その剣を武器として振るったのはあなたしかいないから」
構える澪。しかしダメージが抜けきっていないのは、足の震え具合から見てとれた。
「その男を捨てていれば、一撃我に叩き込めたかもな」
「はい? 」
次の刹那、澪の顔の横を一陣の風が駆け抜けた。
「グアァァァァッ!! 」
「二条君! 」
モードレッドの剣が司の肩を貫いていた。苦痛に顔を歪める彼を剣ごと持ち上げ、モードレッドは司を木に叩きつけた。木は根本から折れ、司の上に重なるように倒れた。
「どうだ? これでやる気になったか? 」
「……さない」
「ん? 」
「許さないッ!! 」
次の瞬間、モードレッドの目の前から澪が『消えた』。




