1-2 契約
という事で引き続きドラマパートをお送りします。戦闘は恐らく次回と次次回になる……はず
───パチン
指が打ち鳴らされる音がした。目覚ましのアラームを食らったかのように澪が目を覚ますと、目の前に1人の青年が立っていた。
「……誰? 」
「まぁそうあせらないで、少し話をしよう」
彼の冷静な言葉を聞いたことで、澪の意識は一気に冴えた。そして澪は今いる場所が何もない『真っ白』などこかだとすぐに気付く。
「やっぱり私、死んだんですね」
「もの分かりがいいね、まぁ『半分正解』と言うべきかな」
青年が答えた。混じりけのない銀髪に澄み渡る碧い眼、整った顔…… こんな状況でなければ普段の澪ならばも彼が王子さまに見えたりするのであろう。
「半分ってどういうことですか? 」
今はそんなことを考えている場合ではない、自分にそう言い聞かせて澪は質問を続けた。
「あぁ、君は確かに『蝕』に殺された。だけど君は死ぬ間際に何を願った? 」
「えぇっと、…… 」
確か『生きたい』と思ったはずだ。しかしそれが私になんの関係があるというのだろうか、それらの疑問を飲み込んで澪が答える。
「『生きたい』と願ったと思います」
「そう、君は『誰かを守るために』、『蝕の攻撃を受け』、『なお生きたいと願った』。これで君はある資格を得たんだよ」
「資格、ですか? 」
彼は何を言いたいのかは澪の思考ではそこまで分からなかった。
「あぁ、君は聞いたことないのかい? 『宿し人』の話」
「聞いたことはあります。確か歴史の英雄とか神話の世界の人物とかの力を借りられるんでしたっけ? 」
そして『蝕』と唯一互角に戦える存在である、とだけは知っている。でもそれはあくまで都市伝説、昔流行ったソーシャルゲームの題材から発展したネタだというのがもっぱらの話だ、と澪は思っていた。
「そう、君は『宿し人』に選ばれた…… ん? なんだその実感のない顔は」
「いや、えぇっと…… 」
今の澪には本当に実感がない。そもそも自分にそんな物語のヒーローみたいな力があっても宝の持ち腐れになりそうな気さえしていた。
「でも、私なんかが持っても…… 勉強もスポーツも本当に平均だし…… 」
「だが君には他の人間にないものがある。分からないかい? なんで君は自分の平凡さを理解してなおあの子をかばった? 」
「それは…… 」
「なぜ死ぬことが確定しているあの状況でなお『生きたい』と願えた? それはひとえに君の『心の強さ』だ」
彼が微笑みかける。いつもなら絶対に心が踊る場面なのだろうが、澪はある疑問にぶつかった。
「『宿し人』になったらどうなるんですか? 」
「問題はそこ、もし『宿し人』になったら君の意思とは無関係に『蝕』との戦いを義務づけられる事になる。こればっかりは助けられない」
彼女の心は決まっていた。
「なります。私には帰らなければならない場所があるから」
きっぱりと言いきった。彼は最初こそ驚いた顔をしていたが、すぐに笑顔に戻って私にささやいた。
「では、この俺『――――』の契約者に杉山 澪、お前を選ぶ」
「え、あの、あなたの名前が聞き取れなかったんですけど。それに契約なんて聞いてないんですけど!! 」
彼は笑顔を崩さない。それどころかその笑みに多少悪意があるようにも見えた。
「とりあえず現実に帰れ! 話はそこからよ。それと、俺の名前が知りたいなら『自分で見つけ』てみな!! 」
───この場合ってクーリングオフは使えるんだろうか?
真っ白な空間が歪み、景色が色を取り戻し始めた瞬間、澪は『あまりにも先走りすぎた』今回の返事を少しだけ後悔した。
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「……ぉ、澪、起きてよぉ…… 」
百合の声が聞こえるところをみると、どうやら澪は無事意識が戻ったようだ。うっすらと目を開けると、そこにはまるでこの世が終わったかのような顔で大粒の涙を流す百合と、屋上を埋め尽くすほどの『蝕』を一人で相手している男性の姿が映った。
「澪! 」
「大丈夫、生きてるから」
そういって百合の腕から頭を離すやいなや、さっきの青年の声が聞こえた。
「聞こえるかい?…… あ、これは君の意識に直接話しかけてるから返事はしなくていいよ」
仕方がないので、周りに悟られない程度に頷いた。澪は即座に、この通信が案外めんどくさいことを今更ながらに実感した。
「OK、じゃあ始めるよ? しっかり使うんだな」
その時、彼女の体の中を電流のような何かが駆け巡った。
定番過ぎる滑り出しですみません。戦闘シーンは工夫します。