4-1 掃討戦
学校周辺、特に明治神宮を中心とした『蝕』の大発生は既に市街地を食らおうとしていた。警察が既に包囲網を作っていたものの、澪が現場に到着する頃には、既に瓦解仕掛けていた。
「くそっ! この化け物どもが……来るな、来るなァ!! 」
また1人、警官が『蝕』に捕まろうとしたその時、突如ある現れた光の筋が『蝕』を貫いた。
「大丈夫ですか? 」
「あ、あんた、ニュースで…… 」
「はい、特異災害対策課『皇』です。皆さん急いで避難を! 」
「お、おぅ! 」
慌てて駆け出す警官を見送りながら、新たにわいてくる怪物たちを切り捨てる澪。おもむろに通信機を取り出してヘッドセットを装着する。
「聞こえるか杉山」
「はい、大丈夫です」
「こちらは渋谷駅近辺の対応で手が回らん。二班が避難誘導を警察と連携して行っているはずだ」
手を休めない澪。敵を切っては一歩進み、を繰り返すうち明治神宮の門へとたどり着いた。
「明治神宮に着きました。さっき学校から見た感じだとここに発生源の魔法陣があると思います」
「了解した。二条をそっちに送るから、二人で発生源を抑えろ」
「分かりました。私は先行して神宮境内の敵を減らします」
通信が終了する。即座に澪は駆け出した。
「ちっ、多い…… 」
圧倒的な数の暴力とでも言うべきだろうか、『蝕』は群れをなして澪に殺到する。
「邪魔っ! 」
必死に剣を振るが敵の怒濤の攻撃は止まらない。何発かは敵の攻撃を受けつつ、澪はがむしゃらに敵を蹴散らし続けた。
「オォオォォオオオオ!!! 」
「ガハッ!…… 」
やっと半分を片付けた頃、突如脇から現れた攻撃をもろに食らう澪。柔らかい芝生の上を何度か跳ねた後、木に激突して動きが止まる。
「ハァ、ハァ…… 」
目の前に立ちはだかったのは、渋谷の時よりかは小ぶりな竜の姿であった。鈍痛が響く脇腹を押さえながら澪は立ち上がる。
「厄介だね…… でも! 」
10m以上は開いた間合いを一歩で詰め、全力の正面打ちを叩き込む澪。竜はこれを前脚の甲殻で受け止める。
「グォオオオォォォォ!! 」
「そこを…… どけぇ!! 」
刀身が光り、まるで豆腐を切るかのごとく澪の剣が竜の前脚を切り落とす。竜がすかさず火を吐こうと口を開くが、一撃目の余力を乗せた回転切りで澪は間髪入れずに切りかかる。
「…… 」
疲労の蓄積も相まって、澪は地面に落ちた竜の首を無言で眺めるしか出来なかった。
「杉山さん! 」
「あ、しまっ…… 」
疲労困憊の澪に次なる刺客が襲いかかろうとするが、間一髪で追い付いた司が澪をかばうように反撃する。
「……ごめん、気を抜いた」
「大丈夫です。それより、この数を一人で倒したんですか? 」
「うん」
「……すげぇ」
積み上がった敵の死骸の山をしげしげと見つめる司。呼吸を整えた澪が立ち上がる。
「もう大丈夫、早く行こう」
「分かった」
その後もおそらく魔法陣があるであろう本道に向かって二人は突き進む。もちろん、現れる『蝕』を切り伏せながらの行軍である。
「ところでさ」
「はい? 」
しかし、いざ本堂が近づくと徐々に敵が減ってゆき、気づけば遭遇しなくなったいた。
「その刀、どうなってるの? 宝具? 」
「あ、いやこれはですね…… 」
『参式対蝕戦闘武器』 斑目が『蝕』を構成する霊力の解析を行っている途中に副産物として生まれたもので、人間が持っている霊力を武器に宿すことで『蝕』にダメージを与えられる仕組みになっている。
「へぇー、あの人ただのヤバい人じゃなかったんだ」
「そもそも『皇』が実力主義ですから、あの人はただぶっ飛んでるだけですよ」
「ふーん」
本堂に到着した二人だが、そこにあったのは魔法陣でも巨大な怪物でもなかった。
「よくぞ来たな、我らに抗う者よ」




