3-6 そしてはじまる
高校のスケジュールを基準にとれば、そろそろ一学期が終わろうとする頃。司と黒川も無事回復し、一班の訓練も激しさを増していた。
「……ふぅ」
「杉山さん、槍になったら急に強くなった」
「そうかな? 確かに槍の方がしっくり来るけど…… 」
司の呟きに同意して頷く黒川と木下。一方の澪はあまり実感はないらしい。事実澪は練習試合で司を下し、黒川からも一本取っている。
「なんかこう、真っ直ぐ全力を乗せれる感じが好き」
「そうなのか」
「澪ちゃんは見かけによらず激情派なのかもねー」
感心したように打たれた小手を眺める黒川に対し、木下は頬に手を当てながらのんびりとした口調で呟く。
「でも宝具は剣と鎧だし、やっぱり剣術覚えないとダメな気がする…… 」
真剣に考える澪には常に異様なオーラが出ているため、三人は話しかけることが出来なかった。
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「どうしたらいいのか…… ふぅ」
結局、早めに訓練を切り上げてから夕食、入浴の時間すらも澪は「槍か剣か」の思考から離れられずにいた。
『えらく塞ぎ込んでるな。悩み事か? 』
「……察してよ」
『そう睨むなって』
やや茶化しぎみに『彼』が現れる。澪は少しふてくされた感じに頬を膨らませながらポツリポツリと話始めた。
「私、宝具があのままで使いこなせるのかなって」
『あん? 』
「多分、剣が向いてない」
真剣に悩みを打ち明けた澪だったが、次の瞬間には『彼』は腹を抱えて笑い始めた。
「本気で言ってるのー!! 」
『悪い、悪かったから首から手を離せ…… 死ぬ…… 』
「フンッ! もう死んでるくせに」
咳き込む『彼』を横目で睨みながら澪が話を続ける。
「だって宝具って剣と鎧じゃん? 私、槍の方が得意な気がしてきて…… 」
『あん? 』
何を言っているか分からないという風に『彼』が首をかしげる。澪は「真剣に聞いてよ! 」と訴える。
「多分私じゃこの宝具の全力を出しきれないかもって言ってんの! 」
『……それは違う、その宝具は【思いを力に変える】と言ったはずだ。つまりはお前が宝具を全力で使えないのでは? と思う限りは全力を使えない』
「そう言っても…… 」
興が冷めたと言わんばかりに姿を消し始める『彼』。戸惑う澪の顔を左手で撫でながら、一言だけ付け加えた。
『【想え、其は汝の想いを真に変えん】、これがヒストリアの全てだ』
「…… 」
彼は少しだけ微笑むと、光の玉となって消えた。
「…… 待って、結局意味分からないんですけど」
結局、澪は悩みを解決させることが叶わないまま眠りにつくこととなった。
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なんの手がかりも得られぬまま、『蝕』の出現も途絶えて8月に突入した。
「……ってさ、特に真名も明かさないくせに偉そうなんだよね、私の英霊」
「気難しい人なんだねー」
部活で賑わう夏休みのグラウンドを眺めながら、澪と百合は雑談に興じていた。
「はぁ、なんとかして剣術も上手くならないとなぁ…… 」
「澪は器用だし、どうにかなるよ」
「お気楽だなぁ、もう」
二人が揃ってグラウンドから目を逸らす。澪は空を、百合は反対側に広がる街並みを見やった。
「……ねぇ澪、確か私たちが襲われたときってあんな模様がグラウンドになかったっけ? 」
「うん? ………っ! 」
そこにあったのは、六芒星を中心とした巨大な赤い魔方陣。澪は即座にフェンスを乗り越える。
「ごめんね、また今度話そう」
「……分かった、気を付けてね」
澪が飛び降りる。もちろん光の束が溢れ、彼女が変身したのは誰でも分かる。
「……頑張ってね、澪」




