3-4 彼女
目が覚めた次の日には、澪はもう訓練エリアを使ってトレーニングを再開していた。
(今の私じゃあいつには敵わない…… )
無心で『蝕』のホログラフィーに剣を突き立てていく澪。全ての敵が倒されたところでブザーが鳴った。
「お疲れさん。少し休んだらどうだ? 」
「ありがとうございます、大宮さん」
強面の大男にスポーツドリンクのボトルを手渡される澪。男は澪の隣に腰を下ろした。
「大宮さんってたしか『ヤサカニ』の隊員でしたよね? 」
「あぁ、だがあくまで俺の所属は第二班の班長。いざ大型の『蝕』が出たときは人命救助と周りの雑魚の掃討が主な任務だな」
「そうなんですか…… 」
それはすなわち、『澪の所属する第一班こそが大型の『蝕』や呂布のような強敵を倒せる唯一の存在である』ことが暗に示されていることを澪は理解した。
「そう責任感を感じるな。ただでさえ君は高校生、君たちのミスは全て我々に責任があることを覚えておいてほしい」
「…… 」
大宮は大宮で、澪が人一倍責任感が強いことを理解していた。一人で重責を感じすぎないように、大宮は話題を変える。
「ところでだが、杉山君は剣が武器で大丈夫なのか? 」
「……え? どういう意味ですか? 」
「いや、君の戦い方は基本直線的だ。あまり剣術に向いた動きじゃない」
「でも私、宝具に付属してる武器は剣ですし慣れていかないと…… 」
そのとき、澪は『彼』から言われたある言葉を思い出した。
「『思いを力にする』…… 大宮さん、私に向いてるのってどんな武器ですか? 」
「そうだな…… 身体の使い方と戦い方を考慮すれば、一番向いてるのは槍だな。特に日本槍」
大宮が言い終わらない内に、端の壁にかけられていた訓練用の木槍を手に取る澪。その目線には大宮が一瞬理解できるほどに覚悟が宿っていた。
「稽古、お願いしても良いですか? 」
「良かろう。俺も槍使いだからな、基礎からきっちり教えてやる」
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その頃、やっと一人で立てる程度にまで回復した司は、病室で天井を見上げたままぼんやりと考え事をしていた。
「彼女、何であそこまで戦えるんだろう? 」
思わず口をついたその言葉に驚きつつも、たしかに自分の中で溜め込んでいた疑問があることも理解する。
「……あの竜を倒したときもそうだった。僕を守る事に意味はなかったはずなのに…… 」
「それは違うな」
突然の声に驚きベッドから飛び上がる司。隣のベッドには黒川が横になっていた。
「た、隊長…… 」
「あいつは中々の頑固者だ。それに『宿し人』であることに責任感を持っているために必要以上に頑張るんだよな」
「…… 」
「ま、見てるこっちがヒヤヒヤしてくるがあいつから言わせれば俺らは重傷人だからな。今は治療に専念しよう」
「は、はい」
一通り黒川の話を聞いてはいたものの、結局司は自分に納得のいく結論が出せなかった。




