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ネクスト・オリジン  作者: orion1196
絶対強者
15/24

3-3 絶望を運ぶ者

 四人が空を見上げた。そこにいたのは赤い毛の馬にまたがった武人、しかも宙に浮いたままである。


「……何者だ? 」


「名は奉先、(あざな)は呂布」


「嘘、だろ…… 」


 武人が手綱を引っ張ると、馬は(いなな)き走り始め、5秒とかからないうちに地面に到達した。


「人の身で竜種を倒したのは賞賛値する。しかし我らは貴様らを倒すことを命じられた身、すまんが首級(みしるし)頂戴する」


 馬から降り、悠然と黒川に歩み寄りながら(ほこ)を振り上げる呂布。木下はたまらず目を逸らしたが、間一髪で澪が剣で呂布の斬撃を受け止めた。


「何がっ…… 目的なの!! 」


「人類史に終止符を打ち、新たな歴史を作るために」


「ふざけないで! 」


 なんとか戟を弾く澪。しかし呂布がすかさず澪を蹴り飛ばした。


「ウッ!…… 」


「もう戦う力も残っていまい。黙って首を差し出せ」


「それでも! 私には引けない理由がある!! 」


 剣を杖に起き上がる澪。既に体は限界を迎えていたが、その目にはまだ光を宿していた。


「……ほぅ、では理由を述べてみよ」


「ただ『生きたい』。私は今のためにここに立っている」


「…… 」


 暫しの沈黙が流れる。すると呂布はなぜか戟を下ろし、馬に跨がった。


「ならば、今回の真似は無粋であったな。試すような真似をしたことをお詫びしよう。あれは我であっても殺すには手を焼くほどの力があったゆえな」


 馬の腹を蹴る呂布。なおも構えて戦闘を続けようとする澪に向かって、少し微笑んで呂布は口を開いた。


「次は双方五体満足の状態で戦おう。今回は退かせてもらう!! 」


 呂布は爽やかな笑顔のまま、走り去っていった。


「……終わった」


「杉山さん? ……杉山さん!! 」


 緊張が切れたからか、澪はそのまま意識を失って崩れ落ちた。




 ーーーーーーーーーーーーー

「ん…… 」


 再び目覚めたときに澪が目にしたのは、最初に『スメラギ』に来たときに入った病室と同じ天井だった。


「おめでとう、君があの場にいた四人の中で最初のお目覚めだ」


 今回は窓越しに木下がいるわけではなくて、既に斑目が隣に座って澪の目覚めを待っていた。


「黒川さんと二条君は? 」


「生きてる。しかし全身が重度の火傷だし、黒川君に至ってはかなり大きく深い切り傷もある。内蔵がやられてなくて奇跡なレベルのね」


「……そうですか」


「あぁ、そこまで落ち込んじゃいけないよ。二人とも『杉山くんは悪くない。むしろ救われた』って言ってたし」


 あからさまに落ち込む澪をフォローする斑目。そして彼はそのまま脇においてあったバインダーを取り出して話を続けた。


「スクランブル交差点での人的被害は死者30名だけ。その後、我々の実力不足をメディアが指摘していたが自衛隊と警察とウチの広報部が合同会見を開いて説明したよ。『あんなの普通じゃ殺せない』ってね」


「なにか出来た事があったのに」と更に落ち込もうとする澪を見て、斑目が話題を変える。


「そう言えば、現場でいくつか証言があったよ? 『女神を見た』って」


「はい? 」


「『金色の鎧を着た女神が竜に立ち向かっていた。その姿を見て勇気をもらった』だってさ。君は君で、戦うことで人を勇気付けられるって事は忘れないでくれよ? 」


 顔を上げた澪に現場調書の束を渡し、斑目は部屋を出ていった。


『女神だってよ。お前、やっぱり美人だって』


「……余計なお世話」


『彼』の煽りを流す澪の口元は、あまり人前では見せることのない柔らかな笑みを浮かべていた。




 ーーーーーーーーーーーーーー

「なぜ殺さなかった? 奉先」


 再び闇に戻った呂布を、モードレッドを含めた4、5人の戦士らしき者たちが円卓を囲む形で迎えていた。


「……俺が殺すまでもないと判断した」


「つまりは餌に値しないと? さすがは中国史最強の男」


「そうは言っていないだろう。本当に殺しのことしか頭にないのか貴様ジャック・ザ・リッパーは」


 片眼鏡(モノクル)をかけた英国紳士風の男に噛みつく呂布。間に割って入ったのは殺気の質が他の者たちとは明らかに違う女の槍兵であった。


「そう張り詰めるなお互いに。そしてモードレッドよ、お主のために獲物を残したとは考えられないのか? 」


「……失礼した」


「さすがはクー・フーリンの師匠だな」


 何事もなかったように席に座る呂布。女戦士は少しだけ呆れた表情を見せた。


「セタンタより図太いなお主は」


「でなければ最強など名乗らん」


 呂布が座るとほぼ同時にモードレッドが立ち上がる。


「では、俺の番で相違ないな? 」


「あぁ、健闘を祈る」


 まるでもう用はないと言わんばかりに他のメンバーも立ち上がる。肩で風を切りながら歩み去るモードレッドの背中を見送りながら、呂布は誰にも聞こえないような小声で吐き捨てた。


「『あいつ』はお前には殺せんよ」

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