2-5 光明
「……そこまでっ! 」
特異災害対策本部『皇』の地下フロアに広がる戦闘訓練エリアでは、澪と司が組み討ち形式の戦闘訓練を行っていた。
「やっぱり二条君が強すぎるんだって」
「いや、いくら陸上部だったからって言っても五年近く戦闘訓練を積んだ僕に食らいついてこれる時点でおかしいと思うんだけど」
大の字に伸びる澪を肩で息をしながら見下ろす司。黒川は若干笑みを浮かべながら二人を見ていた。
「二人とも、30分近く訓練しているが疲れてはいないのか? 」
「僕はまぁ、大丈夫ですよ」
「私もほら、『宝具』使ってませんし。そんなに疲れてないです」
「そ、そうか」
若干の心配を顔に残しつつ、黒川は手元の資料バインダーを開く。
「まずは先日救出した眞鍋さんだが、多少衰弱しているものの命に別状はないらしい。あと1、2週間で回復するそうだ」
澪が安堵のため息を漏らす。黒川が話を続けようとバインダーに視線を落としたその瞬間、突如訓練ルームの扉が開いた。
「くぅろ川君! 聞いてくれたまえよ!! 君らが捕獲したあの化け物の一部を解析した結果なんだが…… ん?取り込み中だったかね? 」
明らかにテンションのおかしい白衣の男が飛び込んでくる。司と澪がポカンとした顔をしているのを見て、頭を抱えながら黒川が話しはじめた。
「あー、こいつは皇の科学班の斑目だ。『蝕』の解析から対抗武器の開発まで幅広くやってる変わり者だ」
「よろしくぅ! 」
なんと、斑目は資料だけを黒川に渡してそのままスキップ混じりに帰っていった。まるで個性の嵐のようなその男の後ろ姿を、3人はただ呆然と見送るしかなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
戦闘の翌日だというのに、澪と司の戦闘訓練は夜になるまで続いた。もちろん学校は休校状態である。
「ふぅ」
シャワールームで汗を流す澪。実は彼女はこういった独りの時間がたまに恋しくなる性分でもある。
「相変わらず、実感がわかないなぁ…… 」
左手を見つめる澪。頭の中に『彼』の声が響いてくる。
『相変わらずフワフワしてんなぁ』
「分かってるって」
『分かってんなら問題ない』
澪は再びため息をついた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「俺を呼び出して、なんの用だ? 奉先」
「騎士を名乗るならもう少し紳士的な口振りで話せ、モードレッド」
円卓を挟んで、例の二人の武人が座っている。円卓の上の蝋燭以外に照明はなく、ただただ薄暗い。
「最後の一体からの反応が途絶えた。そろそろ出撃する」
「ほぅ」
呂布の話に食い付くモードレッド。呂布は「まぁ待て」とモードレッドを制すると、少しだけ頭を下げた。
「でだ。出陣に先立って少しだけ強めの『蝕』をぶつけたい。そうだな…… 竜種などは最高だな」
「さすがは中国史上最強の男、こんな状況でも品定めか」
挑発するかのようにほくそ笑むモードレッド。呂布は何事もなかったかのように淡々と返す。
「今さら三下を殺める趣味は持ち合わせておらんさ。どこぞの反逆者でもあるまいし」
「そ、そうか…… まぁ、しくじらンことだな」
無言で戟を取り席を立つ呂布を、モードレッドは含みのある目線で睨み付けていた。




