苦い回復薬しか作れない
謎の理論はギャグなので、で通します。
「何ででしょう?」
「作成手順は完璧、なら最後の魔力の薬効固定で苦くなるしかないわね」
「この薬、売れますか?」
「製薬は教えたわ、後は貴女次第よ」
見事卒業認定を受けて、早くも危機が訪れてきました。
回復ドリンクは冒険者なら必ず用意すべきアイテムで薬師の売れ筋ナンバーワンなのですが、私のドリンクは直ぐに有名になりました。
―くそ苦い―
師匠のドリンクはサッパリとしたレモンの酸味もある人気商品ですが、私のはレモンすら感じられない苦さに気付け薬として少し売れました。後はサッパリです。
普通は一番売れるべき薬が壊滅なので塗り薬でどうにか生活している状態です。
一握りの薬師が作れる上級回復ドリンクを作れるぐらい努力しました。一筋の希望を持って……でも売れません。
―死ぬかと思った―
既に味ですら無い領域になりました。
これ以上は伝説の蘇生薬しかありません。 でも、もしかしたら! もしかするかもしれない!
レシピも無い伝説の蘇生薬。
薬とは個人の治癒能力を引き出す物です。
死んでしまえば効果は無いはず!
私はスライムに着目しました。スライムは薬や毒にも反応しないのに欠損を補修できます。それは彼等の酸が獲物を溶かすだけではなく、増殖の役割も持っていたのです!
酸による破壊の効果を逆転させ治癒の効果にしている。
すなわち死にそうな上級回復ドリンクを死ぬ回復ドリンクにまで昇華して効果反転させれば蘇生もできるはず!
薬を作ってはスライムに与える日々も三年が経とうとしていますが、遂にスライムが死にました。
「やった! 回復ドリンクで死にました!」
直ぐに回復ドリンクに効果反転を作用させた蘇生薬を先程死んで残ったスライムのコアに垂らします。
コアからスライムの体液が湧き出し、元の状態に戻りました。
「早速師匠に報告しないと!」
―――
「師匠! 蘇生薬ができました!」
優雅にお茶を嗜んでいた師匠は、は? 何言ってるの? と言った感じで眉を寄せてこう言いました。
「は? 何言ってるの?」
酷いです。
私の必死の説明に実験をすることで話が決まりました。
死刑罪人に使用してみる……と。
その日、目の前には頭と胴が永久の別れをしてしまった現場に連れてこられた私と師匠がいました。兵士さんが見ている中、薬をくっつけた首にかけます。
何と! キューピットの如く元に戻り、生き返ったのです!
師匠が残りを生き返った罪人に飲ませました。苦しんでますね。
師匠が脈を計って言いました。
「死んだわ」
「えっ?! そんな!」
罪人の脈をみようとして思いました。あれ? そもそも死人に使う薬ですよね?でも毒薬認定されちゃうのか。でも死んだら薬使えばっ、て薬をネタに脅迫できるのか。
「師匠、この薬は危険ですね」
「分かったようね」
ここまでやって駄目ならば諦めも付く。他の仕事を探そう。
そう思っていました。
「あー、死ぬかと思った」
(((いや! 死んでたわ!)))
多分皆の思考は揃っていたと思います。
何と、蘇生薬は飲んで死んでも生き返るのでした。
師匠は笑顔で親指を首の前で横にスライドして下に向けました。
兵士さんによって、またもや頭と胴は別れてしまいました。
結ばれない愛だったのです……
この話は有名になり、その薬は死ぬ蘇生薬として伝説となりました。
苦い思い出です。