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篠木の伝承 忘却の時代  作者: ながとみコケオ
9/20

気付けば誤解をされていて

 翌日、半日をかけて楓手の町に戻って来た。育也の疲れが取れているのか心配していたが、本人は心配無用とばかりに乗ってきた馬に跨り、見事な手綱捌きで馬を操っている。育也の姿を見て内心安堵しながらも、弥素次は選利と二人して苦笑いを浮かべてしまった。

 楓手の町に戻ると馬を詰所に戻し、すぐに選利と別れた。泊まっている宿屋に向かう。

 小闘竜は一緒に来ているが、黒蛇は喜助の所へ行っている。黒蛇は喜助の居る場所から現れていたようで、影を介して姿を見せるのだという。弥素次達が森に戻って来るまでは、喜助の傍に居るよう小闘竜が言っていたのだ。

 小闘竜は小闘竜で、自分達以外の者には姿を見せる気はないと言い切っており、見る限りは本当に見えていないのか多少不安がある。確かに、町の者はすれ違い様に育也の左肩を見ることはなく、素通りしていく。見えていないのだろうと思いつつも、不安な気持ちは消えない。弥素次の心配を余所に、小闘竜は呑気に背伸びをしていた。

「で、これからどうすんの?」

 育也がどちらに聞くわけでもなく問いかけると、小闘竜は何も言わずにこちらを向く。今からの行動は、弥素次に一任するということか。

「取り敢えず、宿に戻って必要な物を確認しましょう。それから、無い物を買い揃えて、明日もう一度森に向かうようにした方が良いでしょうね」

 明日、森に行くようにする理由は、もう一つある。育也の体調を考えてのことだが、本人は気付いていない様子で素直に頷いている。どうやら、森で言った言葉が聞いているらしい。抱き上げられるのは苦手なのだろう、返って良い効果を生み出しているらしかった。

 宿屋に着くと、中に入る。店主に声をかけようとしたが、甲高い声を聞こえた為、声の主へ視線を向けた。

「やしょじ、いくや、お帰りなしゃい」

 元気良く飛びついた賢治が出迎えてくれ、後ろからゆっくりとした足取りで、連が出迎えている。

「婆、何時来たんだよ?」

「つい先程。薬屋に行ったら、一昨日楓手に行ったと惣一が教えてくれたんでな、後を追って来たんだ」

 連のことだ、馬車を利用したとは思わないが、簡単に後を追って来られる辺りは山の主らしい。

「で、店主から聞いたが、痴話喧嘩していたらしいな。終わったのか?」

 育也の顔が、言葉を聞いた途端に引き攣った。

 どうしたら痴話喧嘩になるのかと思うのだが、言った本人は全く気にしていないだろう。

「誰が、誰と痴話喧嘩したって?」

 態々聞かずとも良いと思うのだが、育也の性格上聞かずにはいられないらしい。

「お前と弥素次。惣一が、朝から仲良く戯れていたと言っていたが?」

 誤解だと、本気で思う。何処から仲良く戯れていたなどと言い切れるのだろう。

「あんの野郎、どうやったら見えるんだよ! 帰ったら、絶対打ん殴る!」

 自分の父親を野郎呼ばわりした上に、殴ると宣言する育也はどうかと思うが、言い切った惣一もどうかと思う。

「殴る、殴らないはどうでも良いんだが、痴話喧嘩は終わったのか?」

「だから、痴話喧嘩じゃねえ!」

「いくやは怒りんぼしゃんでしゅね。駄目でしゅよ、あんまり怒りんぼしゃんになったら、またお兄ちゃんになりましゅよ」

 黙って静観していると、賢治が喋りだし、余計なことを言ってしまっている。そろそろ、収拾がつかなくなりそうな気がしてきた為、弥素次は口を挟もうかと思う。

 育也の視線が、賢治に向けられたかと思うと、腰を落とし右手で賢治の頬を抓った。

「だから、誰がお兄ちゃんだ?」

「いらいれふう」

「あ、こら、人の子供を抓るな」

 本当に事態を収拾がつかないかもと思いつつ、小さく溜息を吐いた。

「連。宿はとったのですか?」

 どう収拾をつけようかと思案しながら聞くと、連の視線は呆れたように弥素次を見上げる。

「育也も、もういいでしょう」

 すぐに連が宿をとったのだと気付いたので、今度は育也に止めるように言う。

「次、言ったら叩くからな」

 手を離しながら育也が言うと、賢治は涙目で頷いた。賢治もこれで懲りてくれれば良いのだが、また言いそうな気がするのは気のせいだろうか。

「言っておくが、一部屋しかとっとらんぞ。お前と同室にして弥素次に賢治を頼むつもりだったが、賢治と寝るから二人で寝ろ」

 賢治を抓った仕返しらしい。抱き上げた賢治に頬ずりした連は、意地悪げに笑みを見せた。

「げっ。婆、性格悪いぞ。何考えて」

「護衛」

 反論しようとした育也に、意地悪げな笑みのまま連は、小さく呟いた。

「お前、弥素次の護衛の任があるだろう。別室にするのは任を放棄していることになるから、止めてやったんだ」

 別段、護衛されなくとも良いのだが、随分恩着せがましく連は言ってくれる。何処をどう聞いても、連の言っていることは仕返しにしか聞こえない。

 連はそれに、と更に続ける。

「痴話喧嘩をする程仲の良い者達を、態々別室にする気もないしな」

 くるりと背を向けた連は、部屋へと歩きだす。

「だから、痴話喧嘩じゃねえ!」

 怒りながら連の後を歩く育也を見て、仕返しに上乗せして育也をからかっていると気付くと深く溜息を吐いた。育也をからかうのは構わないが、巻き込まないで欲しい。賢治を連れて別室で寝ようと思いつつ、弥素次は連の後を追いかけていった

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