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篠木の伝承 忘却の時代  作者: ながとみコケオ
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育也と霊獣の番人

 小屋に戻ると、弥素次は外套も脱がせないまま育也を寝床に寝かせた。

まだ眠くないし大丈夫だと言っていた育也に、少しでも良いから目を閉じて身体を休めるように言うと、 椅子を寝床の横に移動させて座る。監視でもしなければ、育也は考え事をして眠る処か起きだしてしまうだろうと踏んだのだ。

 大人しく言うことを聞いて目を閉じてくれていたおかげか、弥素次と話をしながら眠気に勝てなくなり眠ってしまった。

 心身共に疲れていたのだろう、眠った後に外套と武器を外しても全く起きる様子がなかった。今は育也が眠っている寝床を離れ、選利達と台を囲っている。

「落ち着いたようですな」

 一部始終を見ていた選利が、お茶の入った水のみをゆっくりと回しながら安堵した表情を見せている。

「漸く。申し訳ない、ご面倒をおかけしまして」

 首を横に振った選利に、笑みで返してお茶を一口飲む。

「でも、あの子が来てくれたおかげで、私達に会えたのよ」

 台の上で丸くなっていた小闘竜が、顔を弥素次に向けている。確かに、育也が森に来なければ、この二頭には会わなかった。

「そうですね、あなた方にもご迷惑をおかけしました」

 くすくすと、小闘竜が笑った。

「律儀ね。でも、少し違うわ」

「違うと言うと?」

 小闘竜の言葉に、選利がすぐに聞き返した。

「別段、迷惑ではないの。だって、会わなくてはいけなかったから。ただ、早いか遅いかの違いだけね」

 二頭に会わなくてはいけない理由があるのかと思いながら、弥素次は次の言葉を待つ。

「助けた子の件もあるのだけれど、どうしてもあの子には会わなくてはいけなかったのよ」

 黒蛇が小闘竜の言葉に合わせるように、台の下から顔を出した。

「だって、あの子は霊獣の番人と縁があるから」

 育也と霊獣の番人と、何の縁があるというのか。楽しそうに笑う小闘竜を見て、弥素次は不可解に思う。

「育也と霊獣の番人と、何の縁があるのです? 育也が霊獣の番人と縁があるとは聞いたこともないですし、女神達からは、霊獣の番人が産まれるのは五〇〇年先だと聞いているのです。そんな先に産まれる者と、今生きている者と、縁があるというのは可笑しな話になりませんか?」

「ええ。過去に、あの子と霊獣の番人は縁がないわ。でも、先は誰も分からないでしょう。私が分かっているのは、縁があると言うことだけ。あの子が何時死んでしまうのかも、五〇〇年先に産まれる霊獣の番人と、どうして縁があるのかも分からない。でも、あの子に会って、霊獣の番人と確実に縁があると感じた。だから、貴方達がいても私達は姿を見せているのよ」

 女神達といい、小闘竜といい、どうして理解し難いことを軽く流すように言ってのけてしまうのだろう。弥素次は言われる度、理解出来ずに頭を悩ませなくてはならないというのに。しかも、答えは全く出てこないとくる。考えるだけ無駄な気もしてくるのだが、弥素次の性格上の為につい頭を悩ませてしまう。

「副隊長殿と霊獣の番人との縁の件は、追々分かるかもしれませんな。処で、霊獣達の名前をまだ聞いておりませんが?」

 選利が弥素次に気付いたのだろう、話を変えてくれた。

「ごめんなさい。名前は教えられないの」

 申し訳なさげに、小闘竜が言った。

 次は名前なのかと溜息を吐きたくなる気持ちを抑え、弥素次は二頭を見る。

「理由はあるのよ。霊獣の番人の神話は知っているかしら?」

 小闘竜の言葉に、弥素次は頷いて見せた。

「世界を護る神様の一人で、悪心の神が世界を滅ぼそうとした時にたった一人で戦ったが倒し切れず、持てる自身の霊力と引き換えに封じたという神話でしたね」

「ええ、そうよ。番人は自分の霊力と引き換えにして、悪心の神を封じて死んでしまった。それは、霊獣が監視下から外れてしまうことを意味しているの。だから、番人が生まれ変わって監視下に置かれるまでは、名前を伝えることは出来ないのよ」

 確かに、名前を教えられない理由としては納得出来る。だが、同時に矛盾する点が出てくる。連が連れている、黄色い小闘竜だ。

「陽影はどうなるのです? 連は、名前を呼んでいましたよ」

「陽影は、大丈夫よ。あの子ともう一頭、太月≪たげつ≫というのだけれど、その子達は監視下に置かれたままなの。番人は自分の霊力と引き換えに、悪心の神を封印して死んでしまった。霊力と引き換えたって事は、自分の霊力がないまま生まれ変わってしまうの。人と同変わらないから、強い者に襲われてしまったら当たり前だけれど死んでしまう。太月と陽影は番人を守る為に監視下に置かれたままなの」

 守る為。陽影とまだ姿を見せていない太月は、どんな想いを抱いているのだろうか。弥素次達に好意的に接していた陽影を見る限りでは、霊獣の番人が産まれてくるのを健気に待っているように思える。だが、逆の想いを抱いているのなら、どうなのだろうか。

「私も、この子もそうだし、陽影と太月もそうなのだけど、霊獣の番人が産まれてくるのを待ち侘びているのよ。大好きだったから、次も好きになりたいの。あの子に会ったのは、縁があることを確認する為でもあるし、霊獣の番人がどんな子になるのか想像したかったからなのよ」

 育也に会って、どうして霊獣の番人を想像できるのか不思議で仕方がないのだが、小闘竜は話が終わったといわんばかりに、頭を丸めた身体にのせ埋めて眠りだしてしまった。

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