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篠木の伝承 忘却の時代  作者: ながとみコケオ
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玄封の鍵

 目の前は暗く何も見えないが、引き寄せた育也の体温は感じられる。離れてはいないと確認して、育也を覆うように後ろにかけていた外套を戻す。外套の中で、刀を手にしたまま育也の背に右腕をまわした。育也の手は弥素次の服をしっかりと掴んでいるが、小刻みに震えている。

「育也、聞こえますか?」

 聞いてみると、震えた声で聞こえると返ってきた。

「良かった。絶対に、服を放さないで下さいね」

 弥素次の言葉に、頷く感触が伝わる。連に言われたように、育也と離れはしなかったが、他の者は大丈夫だろうか。

「こう暗くては、誰も見つけられませんね」

 小さく溜息を吐いたが、溜息すら闇は呑み込んでいるように感じられる。闇は、あまり好きではない。盗賊退治の時もそうだったが、幽閉された時のことを思い出す。早く出たいと思うが、玄封の鞘が抜けない限りは無理だろう。どうしたものかと、思案する。未だに分からぬ、玄封の鍵。傍にあると言われても、どれなのか分からない。

「見つけた」

 突然聞こえた男の声に、育也の身体が大きく震えた。この声は、弥素次が聞いても嫌悪感を催してしまう。育也の背にまわした腕に力を入れ、育也をしっかりと抱き留める。育也の腕は慌てたように弥素次の背にわまされ、離れないように背の服を握り締められた。

「離れろ、もう逃れられぬ」

 外套の上から、誰かの手が弥素次の右腕を掴み異常なまでの力で、育也から離そうとする。闇が相手の姿を覆い隠していて、誰なのか全く分からない。

「お前が探しているのは、誰だ?!」

 弥素次の問いに答えもせず、更に腕を引かれる。歯を食いしばって抵抗するが、力の差は歴然としており、右腕が育也から少しずつ離されていく。

「あっ」

 育也から、声が漏れた。誰かの腕が、育也の腕に沿って自分の背にまわされ、服を握り締めていた手に到達する。

 このままでは、育也を連れて行かれてしまう。慌てて左腕を育也の背にまわすが、弥素次も右腕同様に別の手に掴まれ、離されていく。

 弥素次は、奥歯を強く噛みしめた。自分は何も出来ないまま、育也を連れて行かれてしまうのか。守りたいと思うのに、玄封の鞘は抜けない。守れもせず、無様な姿を曝さなければならないのか。

 握り締められていた服が、急に軽くなる。育也の手が離れたと思った瞬間、育也の身体が離れていく感覚が伝わった。

「育也!」

 叫ぶが、闇が深すぎて姿を確認出来ない。

「弥素次!」

 辛うじて声が聞こえるが、掴まれたままの腕が弥素次の身体の自由を奪っている為に、育也に腕を伸ばすことすら出来ない。

「玄封、お願いです。鞘を抜いて下さい。貴方が鞘を抜いてくれなければ、育也を助けることも出来ない。今の私には、貴方だけが頼りなのですから」

 柄を、強く握り締める。爪が掌に食い込んでいたが、気に留める余裕などない。

 少し離れた場所で、光が見えた。髪飾りだと気付いたのは、育也の着ていた服越しに光が漏れているのが見えたからで、掴まれていた腕は光が見えると同時に、自由を取り戻す。

「それを外せと言ったはずだ!」

 怒鳴る声が聞こえるが、恐らく育也から離れていると思いながら、急いで育也の許へと駆け寄り、抱き寄せる。

「育也」

 外套の中に納まった育也の腕が再び、慌てて弥素次の背にまわされる。大きく震えている身体を強く抱きしめると、顔を上げる感覚が伝わってきた。

 外套を後ろへやると、髪飾りの光が育也を照らしている。怯えている顔が、弥素次の顔を確認した途端に、安堵したらしく泣き出してしまっている。

「済みません、怖い思いをさせてしまって」

 首を横に振って見せた育也は、弥素次の胸に顔を埋めてしまった。

「それを外せ! そいつから離れろ!」

 苛立たしげに怒鳴る声は、髪飾りの光で育也に触れることすら出来ない為に、弥素次の動揺を誘おうとしているように聞こえる。

「髪飾りを外させませんし、育也から離れる気もありませんよ」

 素っ気なく怒鳴る声に答え、弥素次は視線を下に向ける。髪飾りの光で気付かなかったが、玄封が微かに光っているように見える。

「育也、玄封を見れますか?」

 埋めていた顔を少し上げて、育也が弥素次を見た。直ぐに顔を右に向け玄封を確認する。

「弥素次、光ってない?」

 育也にも、光っているように見えている。左手に二本の刀を持ち、顔に近づける。見届けて、育也は何を思ったのか右手で掴んでいたの服を離して刀に触れた。一瞬、何かが光を伴い弾け、育也が慌てて手を引っ込めた。微かに光っていた玄封は、柄から髪飾りよりも強い光を放ちながら、鞘を消していく。

「鞘が消えていく」

 抜けるのではなく、鞘自信が意思を持っているように消えている。呟いて育也と鞘が消えるまで呆然と見詰めてしまった。

 鞘が消えた後、光を放っている玄封は、吸い込まれそうな程の漆黒の刃を見せていた。

「妖刀と、言われる由縁ですかね」

 鞘が抜けた玄封を見た者達は、見惚れる程の漆黒の刃を手に入れたいと思うだろう。見ているだけで、魅了されてしまいそうだ。

「綺麗」

 小さく呟いている育也は、震えも涙も既に止まっている。玄封の鞘が抜けたことで、恐怖心が薄れたらしい。

「護封だ。霊獣の番人がいる」

 慌てたような声に、勘違いされたと思う。玄封は、護封の一つではあるが、護封ではない。

「霊獣の番人でしたら、五〇〇年先に産まれるそうですよ」

 間違われたままでいるのは性分に合わない為、弥素次は訂正しておくが聞いているかは分からない。ざわざわと、耳障りな声が遠くからも近くからも聞こえる。大半が霊獣の番人が居る、早く逃げろと叫ぶ声で、弥素次の言葉を全く聞いていないことは、声を聞いていればすぐに理解出来た。

「本当に、人の言葉を聞こうとしませんね」

 呟いて、ふと目の前に人の気配を感じた。玄封と髪飾りが光っているお陰で、相手がはっきりと見える。

「名を、聞いても構いませんか?」

 体格の良い男性で、雰囲気に気高さを感じた。育也に悲しそうな視線を向けているのは、恐らく育也と似ているティナを知っているから。この人物と話をするのは、可能かもしれない。ゆっくりと、男性の視線がこちらに向けられる。

「貴君の名を、聞きたい」

 肉体を失い闇の中で未だ彷徨っているにも関わらず、男性の視線は真直ぐで力強さを感じる。

「弥素次、檜の第二継承者です。貴殿の名を、お教え下さいませんか?」

 視線を交わしたまま、時間が止まったような感覚を覚えるが、何も言わずに言葉を待つ。育也が不安げに見ていたが、取り敢えず放っておく。ふっと、男性が息を吐くと共に、微かに笑みが毀れた。

「貴君は、良い目をする。ここに、居るべき者ではないな」

 カルフ、名前を呟いて育也を見た。

「貴君と共にいるのなら、何も言うこともあるまい」

「カルフ殿、勘違いなさらないで頂きたいのですが、彼女は似ておりますがティナ殿ではありません。柳の護衛隊副隊長、育也と申す者です」

 育也、名前を呟いたカルフの瞳が驚いている。世界が変わってから、かなりの時間が経過している為、育也を知らなくて当たり前だが、カルフの驚き方からすれば、全くといって良い程同じ顔だったのだろう。

「育也、話せますか?」

 育也に視線を落とし、聞いてみる。不安げだった表情が、頷いた瞬間から消えた。弥素次の背にまわしていた腕を離すと、右手を残して外套を退け、カルフへと向き直る。弥素次の右腕も育也から離すが、外套の中に残していた右手をそっと握った。育也の表情は見えないが、握った右手が握り返されている。まだ、不安は残っているらしかった。

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