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篠木の伝承 忘却の時代  作者: ながとみコケオ
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再会

 森に入ってから一旦川へ向い、川に沿って一刻近く歩いた。周りの木よりも一際大きな木が見える頃には、陽が森の中に差し込む程に昇っていた。鳥達の囀る声を聞きながら大木の下に辿り着くと、小闘竜が喜助の居る根元へ飛んだ。弥素次達が後を追って行くと、確かに人一人が入れるくらいの穴が口を開けている。だが、間近で見ているにも関わらず、中は暗く全く見えない。

「本当に、喜助はここに居るのか」

 覗いても全く見えない為に、育也の口調は何処か疑問気だ。育也の右肩に小闘竜が飛び乗る。

「ええ、居るわ。出てきて頂戴、あの子を出しても大丈夫だから」

 小闘竜の声に、金色の双眸が穴の中でこちらを見た。ゆっくりと、大きな体で穴から這い出てくると、一旦育也の影の中に入って行き、大きさを変えて、育也の左肩に出来ていた小さな影から再び姿を出した。

 もう一度、穴の中を見てみる。今度は陽が穴の中まで差し込んでおり、喜助を確認出来た。

 弥素次が外套を肩に掛けて上半身を穴の中に滑り込ませると、喜助に腕をまわす。自分の膝を木の根に押し当てて、眠ったままで目を覚まそうともしない喜助を引き出す。

「喜助」

 上半身が出た時点で、育也が喜助の傍に寄ってきた。

「育也、根元に降ろしますから、少し待ってください」

 力が入っていない喜助の体重が、重く感じる。根元に降ろすと、育也は喜助の頬を軽く数回叩いた。

「喜助、起きろ」

 ほんの少し、瞼が開く。見える瞳は少々虚ろ気だったが、育也を視界に入れたのだろう、一気に瞼を開いた。同時に、育也の安堵した息が漏れる。

「目が、覚めたみたいだな」

 様子を見守っていた連が、喜助に言葉をかけた。頷いたものの、状況を把握しきれていない喜助は、戸惑った表情を浮かべている。

「良かった」

 一方の育也は、瞳に薄っすらと涙を浮かべている。弥素次の言ったことも聞かずに、喜助を探そうとしたくらいだ。気が抜けたように、座り込んでしまっている。

 戸惑った表情で、喜助は全員を見ると、今度は困ったような表情を浮かべた。

「えっと、誰?」

 喜助の言葉に、思わず弥素次は肩を落としてしまう。

「分からなくて、当たり前だよな。お前に最後に会ったの、家を飛び出す直前だったし」

 肩を落とした弥素次のことはお構いなく、育也は嬉しそうに喜助に答えている。

「姉ちゃん、生きてたんだ」

 喜助の困ったような表情が、急激に嬉しそうな表情へと変化していく。しかし、育也の両肩に乗っていた小闘竜と黒蛇を見て、何ともいえない表情に変わった。

「姉ちゃん、何乗っけてんの?」

 気付いたような表情で、育也の視線が自分の両肩に居る霊獣達に向けられた。少しだけ、考える仕草を見せると満面の笑みを見せた。

「霊獣。喜助を、助けてくれたんだ。お礼、言っとけよ」

 霊獣と聞いて驚いた様子だった喜助だが、すぐにお礼を言っている辺り、喜助は素直な性格なのだろう。

「でも、姉ちゃん。今まで、何処に行ってたの。父さん、ずっと探してるよ」

 喜助の言葉に、そうかと思う。育也が実家に戻っていることを、喜助はまだ知らされていなかったのかと。

「柳秦の王宮で、護衛隊の副隊長をしている。任務があって篠木に戻ってるし、親父ともちゃんと話したから、今は探してないよ」

 育也の言葉に、喜助がにっこりと笑みを見せた。

「そっか。父さん、ずっと姉ちゃんのこと心配してたから、楓手に行く時、ちょっと心配だったんだ。でも、何で護衛隊の副隊長なの?」

 連が、笑いを押し殺している。確かに、女性で護衛隊の副隊長は珍しい。喜助が聞くのも分かる気がするが、経緯を知っている者は笑うか、呆れてしまうだろう。

「ま、色々。それより、怪我ない?」

 話を逸らしたと、小さな声で連が呟いた。選利に抱かれたままの賢治は、目を覚まし、大きな欠伸をした。

「お兄ちゃんが、いましゅね。育也も、お兄ちゃんになりました」

 賢治の言葉は、一言余計だ。

「誰がお兄ちゃんだ、こら」

 頬を抓りこそはしないものの、育也は聞いた瞬間に反論している。

「姉ちゃん、あの子は?」

 そういえば育也以外、喜助は全く知らない。選利は、見かけたことがあると思うのだが、連も賢治も弥素次も名前すら告げていない。

「この御子は、妖霊山の主の御子だ」

 選利の言葉に、喜助が驚いた顔をした。

「主の子供って」

 育也の顔をまじまじと見詰めている喜助に、連がくすりと笑った。

「妖霊山の主から、武術を教えてもらったんだ。靄と行方不明者の捜索の件で、手伝ってもらっている」

 育也が視線を連に向けると、喜助は釣られて連を見た。

「妖霊山の主って、女の人だったんだ」

 人が、山の主を見ることは滅多にないが為の言葉。加えて噂が連とはかけ離れている為、何とも言い難い表情になって喜助は連を見ていた。

「連」

 連は笑みをみせたまま、名前だけを言う。

「賢治は、賢治って言いましゅ」

 何が楽しいのか、賢治ははしゃぎながら喜助に自分の名前を教えた。

「弥素次と申します。篠木の近くの森で惣一さんに助けて頂きまして、御世話になっております」

「それと、彼は行方不明者捜索の指揮をとっている、選利。霊獣達は、訳あって、名前を教えられないらしい」

 育也が、名前を言っていない者の紹介をする。

「喜助、立てる?」

 選利に軽く頭を下げた喜助に、育也は気遣う様子を見せて聞く。

「多分」

 言いながら喜助が立ち上がるが、さすがに十日以上眠っていた為、少々足元が危なっかしい。腕を掴んで支えると、申し訳なさそうな笑顔が向けられた。

「さて、弟も見つかったことだし、大元を片付けるか。幸い、直ぐ傍まで来ているようだしな」

 育也が、強張った表情になった。喜助に気を取られて気付かなかったが、何時の間にか囀っていた筈の鳥達の鳴き声が止み、辺りは不気味な程静まり返っている。

「小闘竜、黒蛇、喜助の傍にいろ。喜助は、選利の傍に。弥素次、育也の傍を離れるなよ。離れたら、お仕舞いだからな」

 全員が、連の言葉に従う。刀を鞘ごと腰から抜きながら、連を見る。言った連は一点を見詰め、微かな音も聞き逃さないよう気配を探り出していた。

「下でしゅ!」

 賢治の言葉に反応するように土が撥ね上げられ、その場に居た全員を囲うように靄が噴出してくる。咄嗟に育也を引き寄せると同時に、視界は黒く塗り潰されてしまった。

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