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篠木の伝承 忘却の時代  作者: ながとみコケオ
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夜明けと共に

 夜が明ける頃、全員が森に入る準備を整えていた。

 玄封を腰に差し、弥素次は連と育也を見る。

「選利、衛兵達はここで待機させろ。人数が多いと、動き辛い。靄の件が片付いてから森に入り、行方不明者の捜索をさせてくれ」

 連の言葉に、一瞬ざわめいた衛兵達だが、直ぐに収まった。

「では、私も同行させて頂きます。靄は私も見ておりますので、確認も含めて行かせて頂く」

 頷くと同時に、連はまだ眠たそうに瞼を擦っていた賢治を抱き上げると、選利に渡す。

「賢治を頼む。小さくとも、私の子だ。いざという時は、何も言わなくとも最善の対応をする」

 出来るのかと思いながら、弥素次は育也と視線を合わせる。育也の視線が、分からないと返していた。

「では、こちらから合図を送るまで、待機」

 選利の言葉に、衛兵達が背筋を伸ばし了解するように敬礼する。確認して、連が一番に歩き出した。

「さて、小闘竜。靄は何処にいる」

 姿は未だ見せていないが、育也の左肩にいる小闘竜に、連は靄の所在を確認する。

「今はまだ、分からないわ。何時出てくるかも分からないから、先に行ってほしい処があるのだけれど」

「何処に?」

 直ぐに育也が聞くと、姿を見せないまま小闘竜がくすりと微笑む雰囲気を伝えた。

「貴女の弟の処よ。妖霊山の主もいるから、もう出しても大丈夫と思ったの。駄目かしら?」

 育也の視線が連に向けられると、連は何とも意味ありげに微笑んで見せた。

「案内しろ」

「川に近い処よ。ここからは、二刻半程歩かないといけないけれど、大木の根元に穴があるの。あの子はそこにいるわ」

 小闘竜の言葉に、選利がそれでしたらと口を開いた。

「一旦、川へ向いましょう。道に沿って行けば遠回りですが、川に沿って行けば、一刻程で着きましょう」

 連が頷いて見せると、選利は川へと道案内を始めた。ちらりと弥素次が育也を見ると、早く会いたいと表情が訴えている。大丈夫だとはいえ、やはり喜助のことが気がかりだったのだろう。

「さて、靄はどうするかな」

 歩きながら、連が呟くように言う。連自身、解決策を見出せてはいないのだろう。連の言葉に、育也と選利も策を見出せない様子だ。

「靄のことなのですが、死魂の女神にまた会いまして」

 言っておくべきだろうと思い、驚いた様子で弥素次を見た三人に話をする。話している間に、小闘竜が姿を見せて珍しそうに弥素次を見ていた。

「悪心の神はカルフではない、か」

 呟いて連は、弥素次に向けたままの視線を育也に向けた。

「随分、嫌な予言をされたものだな」

 育也は、自分がまた靄に呑み込まれると言われ、表情が硬くなってしまっている。

「私もそう思います。恐らく、靄の中にティナに対して念を残してしまった者がいる為に、育也は呑み込まれてしまったのでしょう」

 選利が賢治を抱きなおしながら、小さく溜息を吐いた。

「副隊長殿が、靄に呑み込まれないようには出来ないのでしょうか」

「出来ればそうしたいが、実体のない相手だ。何処から出て来るか、見当もつかんな」

 深く溜息を吐いて、連は賢治を見た。選利に抱かれたまま、賢治は再び夢の中にいる。

「でも、死魂の女神が靄を連れて行くといった以上は、約束を守ってもらえると思うけれど」

 小闘竜の言葉に、連は再び溜息を吐いた。

「それは、弥素次が玄封の鞘を抜いたらの話だろう。鞘が抜けねば、行方不明者の二の舞いだ。髪飾りがある分、育也は守られるが、私も含めて確実に呑み込まれたらお仕舞いだぞ」

 玄封の鞘が、抜けるかにかかっている。抜けなければ、全員の命の保障もない。重大なことを、二言返事で引き受けてしまった自分が、今更ながら恨めしいと弥素次は思う。分かっていれば、軽々しく引き受けたりなどしなかった筈なのに。

「あら、玄封が主に選んだのよ、護封の鞘が抜けない主は誰一人としていないわ。でないと、玄封はどうして弥素次を主に選んだのか分からないじゃない」

 小闘竜が、連に反撥するように言葉を返した。玄封が弥素次を主に選んだ理由も、あると言われた鍵も見つけられずにいる。本当に鞘を抜くことが出来るのかさえ、今の弥素次には分からない。

「本当に、私は玄封の主なのでしょうか」

 疑問さえ、浮かんでくる。

「弥素次。疑う気持ちも分かるがな、育也のことも考えてやれ」

 連に言われ、育也を見る。硬い表情に加え、不安げに弥素次を見ていた。靄に対して一番恐れているのは育也で、弥素次の気持ちが揺らぐと育也も不安で堪らなくなってしまうのだろう。

「済みません。でも、私も自信があるとは言えないので、最善は尽くします」

 不安な表情のままだったが、育也も納得したのか頷いて見せた。

「全く、だからお前は石橋を叩きすぎて壊すんだ。靄に呑み込まれるまで、何も考えるな」

 先程、行方不明者の二の舞いだなどと言っていた筈なのに、今度は全く正反対のことを言ってくれる。連は、弥素次の不安を打ち消すように言ったのだろう。しかし、不安は消えることもない。連も弥素次の性分は見通している為、考え過ぎないようにとの考慮もある。連の言葉に頷いて見せた弥素次は、一旦靄のことは頭から外すことにした。

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