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篠木の伝承 忘却の時代  作者: ながとみコケオ
13/20

大きくなったもの

 結局、育也は連と同室にしてもらった。弥素次は、賢治と一緒に寝ることになり、小闘竜は、育也の枕元で丸くなっている。月の光が部屋に差し込んでいる為、比較的視界は良い。

 寝床で横になっているものの、眠気はない為、首にかけている髪飾りを取り出して眺めている。

 男の子の顔は覚えていたが、弥素次だったとは思いもよらなかった。弥素次も覚えていないくらいだから、普通にお礼のつもりだったのだろう。だからあいつは、のんびりし過ぎだとか婆に言われるんだと思いながら、髪飾りの角度を変えてみる。

 弥素次には思い出したら返すと言ったが、今回の件が終われば思い出さなくても返すつもりだ。正直な処、一七年も肌身離さず持っていた髪飾りには、愛着が涌いていて返すのは少し悲しい気もするが、髪飾りを育也に渡して一番困ったのは弥素次本人なのだ。大切な物を、理由も無く何時までも持っているわけにはいかない。持っているわけにはいかないと思うが、今の弥素次は、育也に対してどう思っているのだろう。育也は、護衛対象として見ているつもりだし、後何年もすれば、弥素次も国王に即位して、育也はただの護衛隊の一人になる。そうなれば、弥素次も他国の皇女を妻に迎えるだろう。育也は、幸せそうにしている二人を眺めながら、任務を果たして。

 胸を締め付けられる感覚に、思わず顔を顰める。

 自分は、何を考えているのだろう。弥素次に対する感情など、一切持っていない筈なのに、想像すると妙に辛いと感じる。

「お前、何を考えている?」

 小さく溜息を吐くと同時に、連の声が聞こえた。

「別に」

 短く答えるが、連は多分見通している。

「別にと言えるような顔は、しとらんぞ」

「悪かったな」

 視線を連に向けると、寝床に横になったままこちらを向いている。ずっと見ていたのかと思うと、もう一度小さく溜息を吐いた。連の意見を、少しだけ聞きたい気がする。

「なあ、婆ってさ、好きな奴とかいた?」

 途端に、不思議そうな表情を作られる。聞くんじゃなかったと、言った後で後悔した。

「珍しいな、お前がそんなことを聞くなんて」

 珍しいから不思議そうにしたのかと内心呟いて、悪いかと表情だけで返す。

「愛おしい者ならいる。賢治もそうだが、賢治の父親もな」

 優しさの溢れる笑みに、育也が聞いたこと自体が愚問だったと思う。

「お前は、弥素次をどう思っている?」

 笑みを湛えたまま聞き返され、言葉に詰まる。

「分からない。でも、即位して、他国の皇女を妻に迎えるだろうなって思ったら、ちょっと辛い」

 見ていられない、そんな思いがどこからともなく出てくる。

「育也。それは、弥素次と一緒にいたいからだろう」

 一緒にいたい。自分は、心のどこかで思っているのか。育也が思っていなかった筈の気持ちが、何時の間にか芽生えて、連に言われて初めて大きくなっていたことに気付く。

 小さく頷いて見せると、優しさの溢れる笑みは、包み込んでくれるような笑みに変わった。

「全てとはいかないが、恋をすると女は良い意味で変わっていく。良かったな」

 自然と、笑みが毀れてしまう。

「でも、随分気付くのが遅かったわね」

 何時の間にか、起きていたらしい小闘竜が、顔を上げて口を挿んだ。

「これも弥素次も、自分の感情に気付いていないんだ。態々こちらが促しても、弥素次は全く気付いていない。育也はこちらの意図を読むから、育也を先に自覚させた方が話は進み易くなる。昼間、からかいがてらに言ったことも、これは報ってくれるんだ」

 からかいがてらに言うなと思うが、敢えて育也は言わないでおく。連が昼間、弥素次に嫁にしろと言っていた意図が、理解出来たから。あれは、弥素次に向けて言ったのではなく、育也自身に自覚させる為に言ったことなのだと。

「でも、育也が自覚しても、弥素次が自覚していなかったら同じじゃないかしら」

 小首を傾げて見せた小闘竜に、連は意味ありげな笑みを見せた。

「安心しろ、実はもう手を打ってある」

 婆、何する気だ。不安に思いながら、連を見てしまう。

「あら、聞きたいわね」

 小闘竜まで楽しそうに聞くなよと思いながら、育也も好奇心が勝っているせいか、聞きたいと思う。

「ああ。だが、この件が終わってからだな。今回は、育也が自覚しただけで良しとしよう」

 楽しんでいる連を見ながら、小さく溜息を吐いた。育也にとっては、重要だと思えることも、連にとってはただの退屈しのぎなのだと思うと、肩を落としてしまいたくなる。

「あら、ゆっくりね。貴女のことだから、もう少し早く行動すると思ったのだけれども」

 珍しげに言う小闘竜に、連は意味ありげな笑みのままだ。

「色恋沙汰は、じっくり進めるものだ」

 それは、自分が退屈しのぎに楽しみたいだけだろと、育也は心の中で突っ込んでおく。口にすれば、何を言われるか分かったものじゃないからだ。

「納得したわ」

 納得するなと思いながら、呆れた表情を作ってしまった。

「さて、そろそろ寝るとするか。明日は、早いんだろう」

 笑んだまま打ち切るように言った連は、瞼を閉じてしまった。小闘竜も自分の身体に顔を埋めて、眠る体制に入ってしまう。話が終わったと思いながら、育也も瞼を閉じたのである。

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