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篠木の伝承 忘却の時代  作者: ながとみコケオ
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番人との縁

 連が寝る部屋に入ると、先に入った連は椅子に、育也は寝床にそれぞれ腰掛けていた。賢治は連の膝の上に座り、台の上で丸くなっていた陽影を撫でている。

 弥素次が空いている椅子に腰掛けると、連の視線は育也の左肩に向けられた。

「何故、お前が居る?」

 連の問いに、小闘竜は態と小首を傾げて見せる。

「あら、居ちゃ悪いのかしら? 別段、貴女に許可を得る必要はないはずなのだけれど」

 惚けたような小闘竜の言葉に、連は目を細めた。連は、小闘竜を知っているのか。

「許可を得る必要はない。ただ、お前がここに居る理由が知りたい」

「相変わらずね、貴女。相変わらず過ぎて、何だか嬉しくなるわ」

 小闘竜の言葉に、連と小闘竜は知り合いなのだと思う。長く生きている連と、どれだけ生きているのか分からない小闘竜だ。知り合いでも、おかしくはない。おかしくはないが、何処で知り合ったのか気になる処だ。

「戯言はどうでも良い」

 くすくすと、小闘竜が笑い出す。実に、楽しげに見える。

「本当、相変わらずね。この子と霊獣の番人は縁があるから、会ってみたかったのよ」

 言うと、小闘竜は育也に頬ずりしている。余程、育也のことを気に入ったらしい。

「縁」

 呟いて、連は育也をじっと見詰める。見詰められた育也は、緊張した面持ちで連を見た。

「縁、ね」

 もう一度呟いて、連は意味ありげな笑みを見せると、今度は弥素次を見る。視線が合うが、逸らさずに見返す。

「それを言うなら、弥素次にも縁はあるぞ」

 意味ありげな笑みを消さないまま、連は小闘竜に言う。育也にも弥素次にも霊獣の番人と縁があると言われるが、五〇〇年先にしか産まれることのない霊獣の番人と、何処に縁など存在するのか。

「そうね。でも、この子の方が縁は深いわね」

「待ってください。霊獣の番人との縁が、育也にも私にもあるとは思えない。あるのでしたら、教えていただけないと納得出来ない」

 連も小闘竜も、自分達だけしか分からないことを言ってくれる。弥素次は分からず、頭を悩ませているというのに。

「お前に渡した刀は、何だ?」

 連の一言で、言葉が詰まる。霊獣の番人が持っていた護封と呼ばれる武具が、後に四つの武具に分かれた内の一つ、玄封を連から渡された。確かに、弥素次には玄封という縁がある。しかし、育也には何の縁があるというのだ。

「それは、分かります。ですが、育也は? 過去にも、今にも、小闘竜は霊獣の番人との縁がないと言っていました。先は、分からないとも。先の縁等、分かるものなのですか?」

 連の視線が、小闘竜に向けられた。

「お前、余計なことまで言ったな」

「あら、何れ分かることでしょう。今言っても、大して問題ではないと思うのだけれど」

 連の溜息混じりの言葉に、小闘竜は惚けたように言い返した。

「あのさ、教えてくんない? 俺、何かあるの」

 先程から全く言葉を出さなかった育也が、話の要領を掴めずにいたのだろう。少々困惑気味に、誰となく聞く。

「そういえば、貴女が眠っていた間に話したから、知らなかったわね」

 くすくすと笑って、小闘竜は昨日のことを手短に話す。

「ふーん、縁ねえ。今一分かんないけど、どれくらい縁が深いの」

 そうねえ、と小闘竜が呟く横で、連は軽く溜息を吐いた。

「言い過ぎだというに。全く、こちらの言葉くらい聞け」

 連の膝の上で陽影を撫でていた賢治が、ふいに顔を上げた。

「しゅっごく深いって、陽影が言ってましゅよ」

 陽影の尾が、賢治の言葉に反応して小さく振られる。霊獣の番人との縁は、陽影も知っていたらしい。

「こら、お前達まで言うな」

「かか。賢治は、陽影に言って下しゃいって、お願いしゃれましたよ」

 頼まれたから、素直に言っただけ。賢治が連を見上げて言う表情が、告げていた。

「賢治、お願いされたからといって、全て聞かなくても良いんだ。次からお願いされたら、かかに良いか聞いてくれ」

 言う、言わないの判断が出来ない賢治に連も怒れない為、自分に聞くように言い聞かせている。はい、と元気良く返事をした賢治は、笑顔で陽影を再び撫で始めたのを見て、連は軽く溜息を吐いた。

「確かに、育也には霊獣の番人と深い縁がある。あるが、どんな縁なのかは、私にも分からん。何れ知れる処だが、その時にならねば何とも言えんな」

 連にも、分からない縁。知っているとすれば、後は誰だろうか。

「女神達。分境の女神と死魂の女神は、知っているのでしょうか」

「女神達が知っているかは、こちらも分からない」

 恐らく、女神達が分からなければ、誰も分からないだろう。弥素次は軽く溜息を吐いて、改めて連と育也を見た。

「霊獣の番人との縁は、一旦忘れましょう。今は、黒い靄と行方不明者の件がありますので」

 二人共頷いて見せたので、話を変えることにする。何時までも、縁の話をする訳にもいかないのだ。

 連にこれまでのことを話す。話を始めた時点では、然程表情は変わらなかったが、徐々に険しい表情に変わり、話し終える頃には険しさに難しげな表情を混ぜていた。

「死魂の女神め、手を抜きよったな」

 聞き終えて、最初に連が呟いた言葉だ。

「婆、どういうことだよ?」

 今の連の表情からして言葉をかけ辛いのだが、育也は全く気にせずに聞いている。

「一度に大量の死者が出た時に、死魂の女神が一部をこの世界に残したんだ。黒い靄は残された死者達で、死魂の女神が放置した結果だ」

 それは適当過ぎないかと思うのだが、弥素次を他所に、連は特大の溜息を吐いている。

「なあ、どれくらい死んだんだ?」

 好奇心で聞いている育也だが、死魂の女神が一部を放置するくらいだ、半端な数ではないだろう。

「この世界の人口は約二億だが、その倍は死んだ。その時は世界の広さも倍あったから、人口も倍近くあった。加えて、何百億いた生き物達も死んだんだ」

 つまり、今の人口の倍近くあった筈の人口と、何百億いた生き物が一度に死んだということは、世界自体に何かあったということになる。しかし、弥素次が知る範囲では、倍の広さがあった時期の文献は何一つ無かった筈で、連から聞かなければ知ることすらなかっただろう。

「連、今、貴女が言ったことは、世界が一度破滅してしまったということではないのですか?」

 連の視線が、一瞬だけ鋭くなった。言うべきではなかったのかと思ったが、連はすぐに考えるような仕草を見せた為、すぐに言っても良かったと思い直す。

「先のことを考えると、知っておいた方が良いだろうな」

 呟いて、連はこちらと育也を見た。

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