光に包まれて
おはこんにちばんは。雨ノ宮皐月です。
二話を読んでくれようとしている方、有難うございます。一話一話が他の方に比べると短いと思うのですらすら読めると思いますので、どうかよろしくお願いします。
(とりあえず一旦状況を整理しよう)
井上一樹は普通の、そう平凡な棒のような高校生だった。そのはずだったのだ。
しかし彼は今、普通の高校生にはあり得ない、いや違う、普通の人間にはあり得ないような場所にいた。
豪華な部屋に置かれた豪華な家具、豪華な服を着た綺麗な女性。ここが王室もしくは多大な権力を持った貴族の家であることは一樹ではなくともすぐにわかるだろう。
この世界は夢だ。一樹はそう思った。だが今一樹はここが夢の中ではないことを悟ってしまったのだ。
(ご飯も普通に食べさせてくれて、一緒に寝て、そして起きる)
「にゃニャニャニャァー!(普通に暮らしてるじゃんか!)」
そう、一樹は女性から暖かいミルクをもらい、空腹を満たし、そして女性の胸の中で眠った。また、朝目が覚めて抱き抱えられながら朝日を浴びた。
向こうの世界となんら大差なく、生活した。それは夢の中ではあり得ないことだ。
それにあのミルクの味、朝日の眩しさ、眠りに落ちるときの幸福感、そして女性の温かさ、それら全てが一樹にここが夢でないことをひしひしと訴えかけていた。
(ここはイギリス王室とかか?いや、日本語喋ってるし違うな。じゃあここら異世界なのか?まぁそれはひとまずどうでもいい。問題はなぜ急にここに来て、俺が猫になっているかだ)
井上一樹は平凡な男だ。元の場所で死んだわけでもなければ、親に見放されそうだからといって怪しいバイトに参加したわけでもない。ただ寝ていただけなのだ。
(考えろ、考えろ、考えろ……って)
「ニャニャニャニャ!(分かるわけねぇだろ!)」
突如として部屋に響き渡る一樹の怒声、いや、子猫の鳴き声。
机に向かって執務を行っていた女性は突然の大きな声に一瞬肩を上げて驚いていた。
「どうしたの、そんな声出して。一緒にお昼寝する?」
そう言うと女性は一樹の方へ近づいていく。
(確かにあの胸はいい感触だったし一緒にお昼寝しようかな……って違くて!取り敢えずここがどこか教えて欲しいんだけど、伝わらないよなぁ…)
不思議なことにもここの世界の人々は日本語を使うらしい。だが、今ニャーとしか言えない一樹にとってはそれは相手が話す内容を理解できるということ以外利点がないのだ。
一樹が考えこんでいる間にも女性は一樹を抱き抱え、ベッドの上に座り込んだ。
「ふふ、どうしたの?そんな怯えたような顔して。私は食べたりしませんよー?」
一樹を抱き上げて顔の近くまでもってきて、女性はそう言った。
一樹は自分が食べれたり殺されたりしないことは昨日のうちで気付いていた。というよりも逆に自分のことを丁重に扱ってくれて嬉しかったりもしていた。
「ニャ、ニャニャニャニャニヤァ?(ねぇ、図書館とか連れてってくれない?)」
「はいはい、そうだねぇ。かわいいかわいい」
(ダメだー!全然伝わんねぇ!)
一樹の頭を優しく撫でる女性。朝からほとんど部屋の外に出ず、机で執務をしていたせいか少しだけ疲れているように見える。
「さぁて、私もちょっと休憩しよーと!」
そう言うと女性は一樹を抱いたまま、ベッドに横になった。
「じゃあおやすみなさい」
そして女性は一樹の唇に自分の唇をそっと重ね合わせた。
その刹那
目映いばかりの光が一樹を覆った。
「ニャニャニャ!(何だこれ!)ニャンニャニャニャ(にゃんで俺光ってんの!)」
その光は当然女性の目にも入った。
「どうしたの!?ねぇどうしたの!?」
(どうしたってこっちが聞きてぇよ。俺はこのまま死ぬのか?)
この世界に来た時点で一樹は覚悟ができていた。
死ぬかもしれない
見慣れない場所にいきなり転移して、しかも猫になっている。次に何が起こるかなんて一樹に予想できるはずもなく、最悪の場合死が待っている可能性だってある。そう覚悟していたのだ。
もともと自分の命にそこまでの価値を感じていなかって一樹は怖いなんてことは微塵も思っていなかった。ただ寿命がきた、それだけだなんて考える男なのだ。
(もうこのまま身を任せるしかねぇか)
一樹がそんなことを思った瞬間、より一段と強い光が一樹を包んだ。
まず一樹が感じたのは違和感。
これまでとは部屋の中のもののサイズ感が全て異なっていた。
別に部屋のものの大きさが変化したわけではない。
そう、
一樹は元の姿に戻っていたのだ。
元の姿に戻れたのは一樹にとってとても喜ばしいことだ。これで他の人と会話ができるし、自分のことも自分でできる。
しかし、一樹は元の姿に戻った故の問題に直面していた。
「あのー……こんにちは!」
「キャー!!!!!」
女性からすれば急に飼っている猫が光始めて、次の瞬間には目の前にいたのは元の猫ではなく全裸の男。
キャー!!!!!と叫ぶのも無理はなかった。