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嘘つき女神と0点英雄  作者: 海蛇
7章.エルセリア王国編3-英雄達の帰還-

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#11.グリフォンと漫画とラノベと


「そんじゃ、行ってくるよ。トーマスさん、ベラドンナ。居ない間は頼んだぜ」

「うむ。お任せあれ」

「はい。私は普段は鳥の姿になっていますが、常にトーマスさんが見える場所に待機しておりますわ」


 翌朝。宿屋の女主ハーヴィーに具体的な船幽霊の出る曜日と時間帯の確認だけして、カオルは祠へと向かう事にした。

同行者はサララのみ。戦力的には心許(こころもと)ないが、目敏く耳聡いサララならば何か気づけることがあるかも知れないという期待もあってこうなった。

町も本当に何の異変もないままで済むか解らなかった為、念の為トーマス達に残ってもらい、いざという時はベラドンナに教えてもらって引き返す、という作戦である。

二人に見送られながら、二人は町を発つ。


「よーし行くぞポチ! はいやー!!」

『ブルァヒヒヒヒヒィィィィッ』

「ぷっ……ちょっ、カオル様っ」


 ポチも気合が入りまくっていたが、カオルも向こう(・・・)で見た劇か何かのように手綱を握り、奇妙な声を張り上げていた。

これには思わずサララも噴き出す。

 

「な、なんだよサララ?」

「その掛け声……ぷくっ、なんなんですか急に? 笑わせに来てるんです?」

「いや、別に笑わせたつもりはないんだが……」


 既に高速で走り出した馬車。

カオルとしては「馬ってこう言いながら操るもんだろ?」という前々からの思い込みから出た掛け声だったのだが、サララ的には不意打ちもあって堪えきれないものだったらしい。

思わずカオルも恥ずかしくなってしまう。


「そ、そんなにおかしかったかよ?」

「はいやーって、はいやーって……ぷっ、くふっ、くふふ……」

「いや、そんな辛いなら無理して我慢すんなよ……」


 サララも一応気を遣ってか必死に耐えているのだが、顔から声から抑えきれていない為、カオル的には余計に辛かった。

頬を赤くしながら「そんなにおかしいならいっそのこと素直に笑ってくれよ」と思ったものである。

そも、なんで笑われているのかも解らないのだ。


「『はいやー』って、グリフォンに乗る時の掛け声じゃないですか。お馬さんに乗ってる時に言うなんて、ハイセンスすぎます」

「グリフォンならアリなのかよ!?」

「狙って言ってた訳じゃないんですか? 私……ぷくくっ、てっきり二人きりになったから雰囲気を変えようとしてそんな事を言い出したのかと……今まで全然言わなかったじゃないですか」

「いや、俺そんなに高度なジョークとか言えないから。ちょっと余裕が出てきたから言ってみただけだし……ていうかグリフォンとかいるのか……乗れるのか……」


 どさくさにまた一つ余計な知識が増えてしまった。


「グリフォンは昔から山岳地帯にある国なんかが飼い慣らしてますね。私の国でも育ててましたよ」

「へぇ……サララは乗ったことあるのか?」

「ありますよぉ。山の頂上から別の山の頂上へとか、とにかく高いところに移動するのに向いてるんです」


 話題は変わったが、サララはすまし顔で「ポチほど速くはないですけどね」と付け加えながら、カオルにとっては未知のグリフォン情報を話してくれる。

変な方向から始まった雑談ではあったが、知らないことだらけのカオルにとってはなんだかんだ興味深いお話であった。


「グリフォンの羽はとってもふわふわで暖かくて、ぎゅって耳をつけてると真冬の高山でも寒くないんですよ」

「ふわふわなのか……なんか、こう、トゲトゲしてるイメージだったんだが」

「ふふっ、カオル様って不思議ですね。グリフォンを見た事ないのに、グリフォンのイメージはできるんです?」

「ああ、まあ……ゲーム……っていうか、物語の中には出てきたりするし、な」


 イメージの根源はあくまでサブカルチャーから。

カオルの考えるグリフォン像は、ドラゴンやスライムのようにあくまで『現代では空想上の生物扱いされている存在』でしかない。

だが、サララの言うそれは実物であり、この世界ではそれが存在しているのだから、イメージから乖離してても仕方ない、というのはカオルも理解していた。

下手をすれば、空を飛ぶだけで全く別の外見をした生物の可能性すらあるのだから。


「……んぅ? カオル様って読書好きなんですか? あんまり本を読んでいるイメージとか、ないですけど」

「絵が付いてないと読む気がしないからな」


 一応、この世界に来てから本を読む機会自体は幾度かあった。

例えば兵隊さんの家には数冊程度だが戦記や伝承などの本が並んでいたし、教会には女神様の教えを説いた神聖書物なんてものがある。

村長さんの家に行けば恋愛小説やファッション誌などに始まり様々なジャンルの本が豊富に抑えられた書斎があった。

カルナスに来てからも、それなりに本らしい本は市場などで見て、カオルも実際に手に取ってみたりもしたが……正直、どれも面白く感じられなかったのだ。

文字自体は問題なくすらすら読める。

外国語で書かれているらしい明らかに書体や文体が異なる本ですら、カオルには問題なく読めた。

だが、それらの内容は無味乾燥の一言。

娯楽の欠片もない実用書が多く、それなりに市民向けに噛み砕かれて書かれているらしい小説なども、カオルの感性とは大分異なる小難しい本、という印象ばかりが重ねられていった。

異世界なのだから、漫画やライトノベルの様なものは期待できないのは解ってはいたが、開けば開くほどにこの世界の住民の感性に疑問ばかりが生じて、虚しくなって半ば諦めていたのが実情であった。


「なんていうか……俺のいた世界では割とこう、さ、ぱっと見で解りやすい挿絵とかがついてて、それが面白かったりするんだよ」

「へぇ……まあ、確かにこの国の書物はちょっと堅苦しいですよね。お祭りで皆さんがわーっとやってるの見て、『きっと普段から娯楽が乏しいからこういう時にエネルギッシュになるんだろうなあ』って思ってましたし」

「他の国だと違ったりするのか?」

「こういうのはお国柄が出ますからねぇ。例えばエスティアとは逆隣りにあるラナニアなんかは、イラスト技術なんかが飛躍的に発展していますし。カラーインクとか開発して漫画とかライトノベルとか大流行してます」

「漫画とラノベあるのかよ!?」


 まさかの異世界だった。

想像を超えたフリーダム過ぎる異世界に、カオルは思わず声を大にしてしまう。


「ラノベ……? ライトノベルの事です?」

「うん、まあ、そうなんだけど……あれ? こっちだと略さないの?」

「ライトノベルは、一般的には『ミミ本』とか言われてますけど……」


 ミミ=トリガーという作家さんが広めたんですよ、と、楽しげに語ってくれる。

この猫耳娘、意外とサブカルチャーには造詣が深いらしい。

話を聞きながら、カオルは「こいつ意外とオタク気質なんじゃ」と思うようになった。

そう考えると普段あんまり働かないのも納得がいくような、そんな気がしたのだ。


「可愛い絵とかついてたりするのか?」

「そうですねえ。『デフォルメ』って言って、漫画的な表現で登場人物を描く技法が広まってるんです。子供からお年寄りまで思わず頬が緩んじゃう緩さです」

「ゆるキャラかー……」


 サララの話を聞きながら、カオルは向こう(・・・)では主流だった萌え萌えしいそれとは違う、新聞裏に描かれた四コマのような、そんなイメージを抱いていた。

これだけファンタジーファンタジーしている世界で漫画やらライトノベルやらがあるというのも奇妙なものだと思ったが、事実あるのなら仕方ない。

この国ではお目に掛かれないが、他の国にはそういう技術もある、くらいに思っておくしかない。

もしかしたらこれ以上に驚かされる事も沢山待っているかもしれないのだから。


(異世界すげぇなあ)


 様々な可能性を秘めたこの謎の多い世界に、カオルは漠然と、そう思うしかなかった。



「あっ、カオル様、見えてきましたよー、あれが例の祠じやないですか?」

「うん……? おお、あれか?」


 真白の丘を越え、見えてきた向こう側の景色。

サララの指さす先には、海の青に突き刺さるようにそびえ立つ、雪の灯台。

それ自体がどこか風景から浮いているようにも見える、そんな孤独な老人のような立ち姿がはっきりと見え、カオルも腰を少し浮かせる。


「よし……よし! いくぞポチ! あれが俺達の目的地だ!」

『ぶるるるひぃぃぃぃぃんっ!!』


 ただただ白の中を走り続けるよりは、このように目的地が明らかな方がいい。

カオルもポチも、俄然やる気を出して口元をやけさせた。


(飼い主と馬って似るものなんですねえ)


 そんな一人と一頭の姿を後ろから眺めながら、サララは一人別の意味で笑いそうになっていた。


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