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嘘つき女神と0点英雄  作者: 海蛇
6章.エルセリア王国編2-お姫様スクランブル!-
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#15.例によって女神回


 しばらくぶりに、カオルは女神空間(カオルがそう名付けた)に居た。

夢の中の女神様と対話できるこの世界は、カオルにとっては地味に楽しみでもあり、「最近女神様見てないなあ」と思い出したように懐かしんだりするものでもある。

毎日毎度では飽き飽きするだろうが、たまにだと女神様との会話は楽しいのだ。


「カオル、私はずっと思っていたのですが……」

「今日はまた随分唐突に会話が始まったな」


 いつもは何がしかカオルがリアクションを起こしてから会話が始まるのだが、今回は女神様がいきなり会話を切り出してきたのだ。

流石に不意打ちだった。


「まあまあ良いから聞きなさい。以前、私は『魔人は六柱いる』と言ったじゃありませんか」

「ああうん、そんな話もしたな」


 もう大分前の話で、正確な話の内容も思い出せなくなりつつあるが、確かにカオルはそんな事を聞いた気がした。

魔人の話も既に時期外れなように感じはするのだが。


「この間貴方がゲル……ゲラ……ゲルパトス、でしたっけ? そんな名前の魔人を倒したじゃないですか?」

「うん。名前もよく解んない奴だったけど倒したな」

「もしかしたら……六人どころじゃなくもっといる気がしてきたのですが」

「なんだそりゃ」


 ううん、と口元を隠すように微妙な表情になる女神様。

元が微妙な顔の所為で、あんまりその仕草は似合っていなかった。

これがアイネやベラドンナのような大人びた美人さんならカオルもそのミステリアスな雰囲気にドキドキしていたかもしれないが、とても残念なことにこの女神様はいい年こいたおばさん顔である。


「つまり、私はその魔人の事を知らないのです。正確には、私の知っている六人の魔人以外の魔人がいたという事ですね」

「相変わらずザルだなあ女神様は」

「もしかしたら記憶喪失か何かで忘れているのかもしれませんが、これって、場合によっては他にもいる可能性ありますよね……?」

「あるんだろうなあ」


 いない、とは言い切れない曖昧さだった。

カオル自身、世界を見てきたわけでもなく、あくまで一つの国の中で偶然そういう魔人と遭遇したというだけなのだから、知るはずもない。

カオルとしては、まず女神様がそれを把握できていないのがびっくりだったが。


(でも、この女神様はそういうザルなところあるよなぁ……)


 忘却したのか見落としがあったのか、あるいは本当に存在に気づかないほど迂闊だったのか。

いずれにしても、この女神様ならあり得ると思えてしまうのが悲しいところだった。


(たまにすごくいい事言うけど、基本ダメな大人だよな、この人)


 カオルは、それなりに会話も重ねた中で、この女神様に対しての評価をそれとなくまとめていた。


「へくちっ……なんでしょう、どこかで噂されてるんでしょうか? まあ、私もかつては村一番の美人さんと呼ばれていましたから、この時代においても噂されているのかもしれませんね」


 なんだかよく解らない独り言まで呟きだす始末である。しかもドヤ顔。

正直神秘性だとか心強さだとかよりも危うさの方が前に出てきてしまっている。

あまり頼りがいの感じられない女神様だった。



「それはそうとカオル、あのお姫様についてなのですが」

「うん? お姫様って、ステラ王女の事かい?」

「ええ、そうです。ステラ王女の事です」


 話が切り替わり、きり、と、表向きばかりは真面目な話をしそうな表情になる女神様。

その内また「へくちっ」とかやらかす気がして、カオルは今一真剣になれなかったが、一応話には乗っていた。


「可愛いよなあ。正直サララが居なかったら好きになっちゃってたかもしんない」


 アレな部分を知らなければだけど、と付け加えながら、ステラ王女の笑顔なんかを思い出す。

可愛い。間違いなく可愛い。

金髪碧眼という王道過ぎるお姫様の容姿は、カオル的にも容易に受け入れられていた。


「好きになっちゃっても良かったんですよ?」

「は?」


 突然変なことを言い出す女神様。

いや、女神様が変なことを言い出すのはいつもの事だが、「今日はいつになくぶっとんでるなあ」と、カオルも呆気にとられる。


「サララちゃんとステラ王女の二人相手で幸せハーレム計画とか考えてもよかったのではないでしょうか?」

「普通に殺されるよなそれ」

「カオルは死にませんよ?」

「死なない事がバレたら死ぬより恐ろしい目に合うこと請け合いだ」


 主にサララから。ついでにトーマスからもそんな目にあわされそうで、カオルはぶんぶんと首を横に振りまくった。

大体、そんな仮定はあり得ないのだ。そんな話をしても仕方ないだろうと思ったのだ。


「そもそもステラ王女は兵隊さんの事が好きなんだから駄目だろ。俺だってサララ一人で十分幸せだよ」

「まあ! そんな事を言って、考えてみてくださいカオル。ステラ王女はいくつですか?」

「14歳って話だな」

「ではヘータイさんは?」

「んー……22とか、そんくらいだよな?」

「すごい歳の差じゃないですか! 不埒です! 淫乱です!」


 何てこと言うのかしらこの子、とばかりに騒ぎ立てる女神様。

カオルはどこかこのやかましさに「なんかPTAのおばさんみたいだ」という感想を抱いていた。

そう、この特に関わりがある訳でもないのに横からしゃしゃりでて好き勝手言う辺りが、まさに自分が目にしたそんな人達を連想させたのだ。


「8歳差ですよ? 年の離れた兄妹ってくらいの設定じゃないですか? 大体ヘータイさんにはもっと年の近くて素敵な女の子だっているでしょうに! 例えば……そう、村長の娘さんとか!!」

「なんで女神様がステラ王女の恋愛事情気にするんだよ……関係ないじゃんよ」

「関係は……あります!」


 どうやら関係があったらしかった。

正直面倒くさいと思っていたカオルだったが、あんまり女神様がはっきりというものだから驚いてしまう。


「関係あったのか……もしかして女神様って王族とか、そういうのに関係ある人なのか?」

「いえ、そちらの方ではあまり……ごにょごにょ。とにかくですねカオル、ステラ王女とあの人がくっつくのは阻止すべきだと思うのです。私はそう思いますわ」

「いや、そんな事俺に言われても……」

「大体あのステラ王女という方は、今でこそ大人しいですが後々とんでもない悪女に……そう、そんな感じの人になる気がするのです! 今のうちに早く更生させなくては――」

「それは俺にはどうしようもないんじゃないかな……」


 どうすりゃいいんだ、と、途方に暮れてしまうカオル。

そもそも夢の中で他人の恋愛についてああだこうだ語られても困るのだ。

そんなだから、「本人達の夢枕にでも立ってくれ」と切に願っていた。



「――話は変わるけどさ!」

「えっ? はい、なんでしょう?」


 いい加減そういう方向で話を続けられると辛いので、カオルは手を前に突き出し、やや語気を強めて話を断ち切った。

女神様も目をぱちくりとさせながら、それに従う。


「その、折角もらった棒切れカリバーだけど、自爆覚悟で自分に突き刺したり、紐をつけて投げたりとか色々考えて使ってるんだけどさ」

「それは考えて使っていると言えるのでしょうか……紐くらいは誰でも思いつくでしょうし、自爆は正直工夫というかただの自暴自棄にしか……」

「うぐ……と、とにかく、他に何か工夫のしようがあるかなって聞きたいんだよ! なんか、変わった機能とかあったりするのかも知りたくなったし!」


 話題逸らしの意味も勿論あったが、カオルにとっては戦闘力の向上に直結する問題でもあるので、女神様の噴き出しそうなのを我慢するような顔には若干の苛立ちも覚えた。

これが村一番の美人さんとか可愛いお姫様の顔だったなら笑って許せるはずなのだが、女神様の顔面偏差値では許せるものではなかった。


「うーん、そうですねえ。水面や霊魂などの不定形な存在に向けて投げつけると、その当たった地点が凍り付くようになったりしますよ」

「凍り付くのか……便利っちゃ便利な機能かな」

「そうですね。カオルの前に使っていた人も、それを利用して海上から魔法を撃ってきたりしてました」


 あれはすごかったなあ、と懐かしむように語る女神様。

だが、カオルは「前に使っていた人」という言葉にぴく、と眉を動かす。


「あの棒切れ、女神様の武器じゃなかったのか?」

「ええ、まあ。色々とありまして。本来の遣い手の人(・・・・・・・・)は、形状を変化させたり魔法を吸収したりして使っていましたね。ただ、私はその使い方を詳しくは知らないので――見た目からして解りやすい使い方を伝授していたのです」

「そういう事だったのか……」


 どうりで適当な説明しかしてくれないと思ったぜ、と、カオルはようやく納得できた。

元々女神様の持ち物でないなら、そりゃ使い方もよく知らないよな、と。


「強力な武器には間違いないのですが、見ていた感じ下手に扱うと危険なことにもなりそうでしたし、そんな事になるくらいなら最低限の自衛ができる程度の使い方だけ教えた方がいいのでは、と思ったのです」

「そういう設定を今思いついたんだな」

「うぐ」


 なんでそんな事言うのですか、と哀しそうに見つめてくる女神様。

残念ながら顔が図星だと白状していた。


「わ、忘れてただけですもん! カオルは意地悪ですね、もう!」

「へいへい、悪かった悪かった」


 許してくんなまし、と、おどけた態度で涙目の女神様に謝る風を装う。

勿論反省などしていない。

この女神様にはこのノリでいいのだと、彼はそう思っていた。




 結局、ああでもないこうでもないととりとめのない雑談が始まり、その日の夢は、大層賑やかなものとなっていた。

二人だけの時間だというのに、それはもう、やかましく。


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