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嘘つき女神と0点英雄  作者: 海蛇
5章.エルセリア王国編1-カルナスの女悪魔-
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#15.カリスマ


 兵隊さんと再会したカオルは、まず、自分達が先んじて女悪魔討伐の為に塔に来た事、そして、その探索の最中、さらわれた子供たちを見つけたことを伝えた。

これには兵隊さん以下、共に行動していた兵隊たちも顔を見合わせ、「これはすごい事だ」と表情を明るくする。


「兵隊さん達が来てくれたなら話が早いんだが、俺達だけじゃ子供を連れだせないからさ、下にも一杯いるなら、その人たちに手伝ってもらって、子供をなんとか連れ出せねぇかなあ」


 サララが察知していたのもあり、カオルは既に、塔のエントランス付近に多くの兵士が集まっているのに気づいていた。

兵隊さんも驚いた顔をしながらも「確かに戦えない者はその方がいいかもしれない」と思いはしたのだが。

同時に、そうもいかない事実がある事を思い出す。


「だがカオル、入り口の扉は固く閉ざされてしまっている。我々では開くことができないのだ」

「えっ、それって、エントランスからじゃ出られないって事か?」

「そうなる。逃げ場を失った所為か、多くの者が戦意を喪失してしまってな。その中で戦意が残っていた我々だけで、女悪魔をどうにかしようと、こうして上がってきたのだが……」

「なるほどなあ」


 村や町を守る兵隊がこれでは情けないが、兵隊さんも、他の兵士らも眉を下げながら、あるいは不甲斐なさに拳を握りながら、カオルらから視線をそらしてしまっていた。

自分たちは、人を、村を、町を護るために兵隊になったというのに。

実際には、子供を見つけ出すという手柄すら、この民間人の青年達が果たすような有様なのだ。

惨めだと、不甲斐ないと感じるのも無理はない。


「よし、とりあえずエントランスまで戻ってみようか。試させてくれ」

「試す、というと?」

「もしかしたら、役に立てるかもしれない」

「おいおい、俺達よりがたい(・・・)のでかい兵隊が数人がかりで体当たりしても開かなかったんだぜ? 兄さんもいくらかは鍛えられてるみたいだけど、とても開くとは――」

「いや、待ってくれ。カオル、確かに君なら開けられるかもしれない。いったん下に降りよう」

「ああ、解った」


 カオルの言葉に茶化すように反応していた若い兵隊であったが、間に入った兵隊さんはカオルの提案を受け入れ、来た道を引き返していく。

カオルとサララが続き、他の兵隊たちも各々、その後についていってしまう。


「……あれ?」


 一人、茶化していた彼だけが置いていかれた感じで、一足遅れで下へと戻っていった。



 そうして、塔のエントランスへと引き返した一同は、座り込んだ兵隊たちの列を掻き分け、扉の前へと立った。

他の兵隊たちの「結局戻ってきたのか」「怖気づいたに違いねぇ」という、侮蔑や嘲笑を込めたような軽い声を無視し。

カオルは、手に持った棒切れを構えながら「悪いけど、他の人は離れててくれ」と指示した。


「すまんが、言われた通りにしてくれ」

「はい、散った散った。何が起こるか解らないから、離れててねー」

「魔法か何かが出るかもしれん、できるだけそっちに詰めてくれ」


 広い塔のエントランスは、50名が居てなお詰められるだけの余裕があり、兵隊さん達の協力もあって、ある程度の猶予ができる。


「――いくぞっ、うらぁっ!!」


 何事かと、何が始まるのかと兵隊たちが見守る中、カオルは目いっぱい力を込めた棒切れカリバーを……勢いよく扉へと投げつけた。


《ばごぉんっ》


 爆音と共に、扉と、その周囲の壁を破壊し、吹き飛ばしていく棒切れカリバー。

その場にくるくると回転しながら落下し、(くく)られた紐に引っ張られ、カオルの元へと戻ってくる。


 しばしの間、しん、とした空気が広がっていたが。

扉だった場所に空いた穴、そしてそこから入り込む新鮮な空気を肌に受け、兵らはようやく「はっ」と、目の前に広がった自由に気づく。


「――すげぇっ、俺達が開けられなかった扉がこんな簡単に!?」

「やった、これで塔から出られるぞっ!!」

「ありがとうっ、あんた魔法使い様だったのか!!」


 兵隊らの歓声が響き。

駆け寄ってカオルを囲い込む彼らは、それまでの鬱屈とした表情など忘れ去ったかのように明るく、そして生への希望に満ちていた。


「とりあえず、これで扉は開いたからいつでも出られるだろ。そこで、皆に頼みがあるんだ」

「頼み……?」

「君は一体……それに、塔の上から来たって事は――」


 皆、不思議そうに首を傾げたり、見ず知らずのカオル達の姿に今更のように疑問を抱いたりしていたが。


「塔の上で、子供達が寝ているのを見つけたんだ。みんなで、子供達を街まで送っていってほしいんだ。50人もいれば余裕だろ?」

「そりゃ、子供を連れて行くだけなら俺達でもできるとは思うが……」

「肝心の女悪魔はどうするんだよ? 子供を連れてちゃ、女悪魔を倒すどころか、逃げる事すらままならないぜ」


 カオルの提案に、しかし兵隊たちは複雑そうな表情で塔の上を見つめる。

螺旋(らせん)階段の遥か上。

そこには、件の女悪魔が未だ巣食っているはずであった。


「それは俺がなんとかするよ。さっきの扉見ただろ? 俺なら余裕余裕」

「確かに、さっきの魔法っぽいの見たらあんたがすごいのは解るが……」

「たった一人で女悪魔をやれるっていうのか? もし失敗したら……」


 カオルの説得だけではすぐには頷いてくれないらしく、兵隊たちはなんとも頼りない有様であった。

普段ならばそんな事もないのだろうが、このこの状況下では、彼らはまだ、目の前の青年に命を預けるほどの信頼が出来ていないのだ。


「――皆さん! 話を聞いてください!」


 そこで、声を張り上げたのがサララだった。

華奢な猫耳少女は、フードをぱさりと後ろへやり、ぴょこぴょことした黒猫耳を見せながらに兵隊達の前へと立つ。

そうして一同の顔を眺めながら、にぃ、と勝気に笑うのだ。


「この方は、かつて大盗賊ダンテリオン、およびひまわり団を討伐せしめたオルレアン村の英雄です! 直近では、村に迫っていたドラゴンすら討伐したほどの武勇をお持ちの方です!」

(おいサララ、ドラゴンはお前が――)

(いいから黙っててください)

(はい)


 自分の手柄でもないものまで手柄として語り出したのでツッコミを入れようとしたカオルだったが、サララの真面目な表情に気圧され、黙らされてしまう。

情けないながら、こういうシーンではサララの方が迫力があった。

カオルはやはり、一介の村男でしかないのだ。そういうビジュアル面での迫力では美形には勝てなかった。


「ダンテリオンの討伐だと……」

「それじゃ、この兄さんがあの『オルレアン村の英雄』っていう……」

「ドラゴン討伐なんて、どうやったら一人でできるっていうんだよ」

「どうやらただの魔法使いじゃないようだな……俺達、本当に生きて帰れそうだぞ、おい?」

「ああ……この人の言葉なら、聞いてもいいかもしれん!」


 兵隊たちの動揺は広がったが、それは同時に、彼らの、カオルへの信認を広める事にも繋がっていた。

サララの言葉は、多少誇張はあれど、カオルという、現状最も最適とも言える存在に女悪魔を任せるべきなのだと、兵隊たちに思い込ませたのだ。

それでいて、彼らの気勢を取り戻すのにも一躍買っていた。


(……サララ、すごいお役立ち、だな!)


 これによって、カオルは自分の意見を通すことができる。

自分一人ではいつまで説得していても通らなかったものが、サララの一言でみんなが話を聞いてくれる気になったのだ。


「解った! 女悪魔はあんたに任せよう! 子供たちは俺達に任せてくれ!」

「君の言葉を信じるよ! すまない、私の背後は君に預ける!」

「子供達の居場所を教えてくれ!」


 情けない兵士など、もはやどこにもいなくなっていた。

彼らはやはり兵隊なのだ。人々の為動ける、働ける、力強い、心強い存在なのだ。

兵隊としての自分を取り戻した彼らは、カオルを見て、その言葉を、その指示を待った。


「――ああ、解ったぜ。子供達の居る場所へはサララが先導してくれ。俺は先に塔を上って女悪魔と戦う。でも、もしかしたら全力を出さないと勝てないかもしれないから……全員脱出が終わったら、塔の外で何か目印になる事をやってくれ。火を焚くとか、大声をあげるとかな」

「解りました」

「カオル、子供達を助けたら我々も援護に向かう。命を粗末にするような事だけはしないでくれよ……?」


 兵隊さんの、どこかドキリとさせられる言葉に苦笑いしながら、カオルは「ああ、解ってる」とだけ返し、そのまま背を向け、階段を駆け上っていった。



 目指すは頂上、女悪魔の元へ。


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