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嘘つき女神と0点英雄  作者: 海蛇
3章.オルレアン村編3-ダメ男と村娘とネクロマンサーと-
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#12.疑惑


「……」

「……」

「……」


 占い師の店、というテントに入った二人は今、神妙な面持ちで、占い師の水晶を見つめていた。

紺色の、スリットの深いドレス。目元まで隠されたヴェール。

神秘的、あるいは蠱惑(こわく)的な印象をのぞかせるいでたちの占い師は、怪しげな手つきで、水晶の光を強めてゆく。


「――見えましたわ。この村にいたならば、困難に出会うでしょう。されど、村から出たならば、更なる困難が。ですが、それらは貴方がたに新たな絆を生むかもしれません」

「困難と絆、ですか……」

「ええ。決して無意味な困難ではない、という事です。ですが、幸せをつかみたいというのであれば、それは相当に長い道のりに――お嬢さん、ずいぶんと大変なお相手を選んでしまいましたね?」

「まあ、それくらいはかまわないですよ。長い道のり、大変結構です。それだけ長く生きてくれるという事なのでしょう?」

「長生きは……長生きでしょうね。しかし、これは――」

「ならそれでいいです。ありがとうございました」


 色々不穏な事を言われたようにカオルには感じられたのだが、サララ的には概ね満足いく結果らしく。

にっこりと微笑み、満足げに代金を払い、席を立った。


「あ、そういえば」


 そうかと思えば、思い出したかのように視線を再び占い師に戻し、腰掛け直す。


「どうかしたのか? サララ?」

「ああいえ。占い師さんは、南の砂漠地帯の方からいらっしゃったんですよね? その格好、砂漠の方で見たことがあるもので」

「……ええ。よくご存じね」

「北の方へは行かないんですか? こういう行商って、南から北から、色んなところに行くじゃないですか」

「北へは行ったことはないわね。北は寒いらしいじゃない?」

「そうですか。寒いのは苦手ですか」

「苦手だわ。だから南の方が好きなの。この辺りも冬は寒いらしいですね?」

「そうみたいですねえ。山もありますし。あ、変な話振っちゃってごめんなさい」

「いえいえ」


 今度こそ満足そうに立ち上がるサララ。

だが、ちら、とだけ自分の方を見て、くい、と顎で何かを指し示したように、カオルには見えていた。


(……何かあるのか?)

「まだ、何か?」


 今度は、中々席を立たないカオルに、占い師の視線が向く。

まあ、占いそのものは終わったのだから、いつまでも席を立たない客というのは邪魔なのだろう、とカオルも思って立とうとしたが、不意に、占い師を見てハッと、何か聞かなくてはいけない気がしてしまう。

それは、サララに促されたように感じたから起きた事なのか、あるいはカオル自身の勘のようなものなのか、カオル自身にも解らないのだが、ただこのまま帰ってはいけないような、そんな気がしたのだ。


「あの、さ」

「はい?」


 すう、と、息を吸う。

何を聞くべきか。何を話すべきか。何を問うべきか。

カオルは今、向こう(・・・)にいたのでは考えられないくらいに、自分で考えていた。

考えて、答えを出そうとしていた。

そうして、口から出たのは――


「占い師さんって、キャラバンと一緒に来た商人さんなんだよな?」


――特に意味もなさそうに、雑談だった。

何も浮かばなかったのではない。

サララの、一見無意味な雑談の中に、何かあるように感じたのだ。

それが感じられる程度には、カオルは人の中で暮らして、自分で考え生きていた。


「ええ、そうよ。最初からのメンバーではなくて、途中から乗り合いで乗せてもらって旅をしているわ」


 占い師は、それほど変化もなく、すらすらと答えてくれる。

それでよかった。話題に乗ってくれたのだから、それで十分なとっかかりだったのだ。


「実はさ、こないだ、こいつが性質の悪い似非商人に引っかかっちゃってさ。その辺に生えてる草なんかを、すごい高値で買わされて参っちゃったんだよな。だから、気分悪くしないでほしいんだけど――」

「……?」

「商人ギルドの証明書、持ってるかだけ教えてほしいんだよね。疑ってるって言うか、相手する商人皆に聞いてる事なんだけどさ」

「しょ、証明書?」


 ここにきて、占い師は、わずかばかり言葉に詰まってしまっていた。

それはほんのわずか、見逃してしまうくらいに解り難い違いではあったが。

それまでの不思議な『占い師』としての雰囲気は消え失せ、彼女はもう、ただの女になってしまっていた。


「ああ、そうでした! そんな事もありましたねっ、いや、私としたことが」

「ははは、こいつったらほんと、そそっかしくてさ。だから、教えてくれないかなって。いや、別に見せろとは言わないぜ? だってあれ、人に見せちゃいけないものなんだろ?」


 不意打ち気味にサララを巻き込んだりもしたが、サララはサララで器用に乗っかり、てへりと笑って見せる。

この辺り、サララの芸達者なところなのだが……カオルは、敢えて逃げ道を残し、占い師の顔を見つめた。

占い師は……笑っていた。作り笑いである。


「え、ええ。そうなのよ。悪いけれど、あの『書類』はそうそう人に見せられるものじゃなくてね……勿論、ちゃんと手元にあるのよ?」

「うん、それだけ解ればいいんだ。ありがとうな占い師さん。変な事言ってごめんな」

「ありがとうございましたー」


 聞きたい事だけ聞いて、それ以上は余計な事は言わず、早々に退散する事にした二人。

止める間もなく去っていく二人を見て、占い師は「なんだったのかしら」と、ドレスの胸元を引っ張り、嫌な汗を手で扇いで消し去ろうとしていた。




「何かありますね」

「ああ、何かあるぜ」


 無論、カオルとサララはすぐに自宅に戻り、話し合った。

兵隊さんに聞く限り、「まっとうな商人ならばすぐに袖をめくって証を見せてくれるはず」という事なので、先ほどの占い師の反応、そして対応は偽商人やもぐりのソレとなる。

つまり、占い師はまっとうな商人ではない、という事になるのだ。

カオル達は顔を突き合わせ、これからの事を、兵隊さんも交えて話し合おうと思ったのだ。


「すまない、遅くなった」


 ほどなく兵隊さんが訪れ、三人だけの作戦会議が始まった。



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