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嘘つき女神と0点英雄  作者: 海蛇
16章.歴史となった英雄
281/303

#7.復活した魔王

「今日皆に集まってもらったのは他でもない、ギルドでも噂になっていたかもしれないが、いよいよ世界各国で、魔王討伐の話が持ち上がった」


 翌朝、ギルド『ミリオン』本部にて。

ギルドマスター・カオルは、メンバーに集合をかけ、前日の王城での話を聞かせていた。

隣には普段は館に控えているはずのサララの姿もあり、メンバー各位、ただごとではないのは察していたが。

魔王討伐、という話に少なからぬメンバーがざわめく。

それをカオルは手で制しながらじ、と見渡した。


「俺たちミリオンからも、魔王討伐の為の対魔人戦闘に耐えられるメンバーを何名か出すことになっている。勇者一行との共闘だ。エルセリアからは城兵隊長も出る。魔族の軍勢相手の戦闘では各国の連合軍が相手をすることになっている」

「エルセリアの城兵隊長が……」

「国もいよいよ本気だな……しかし、魔人相手ってなると……」


 魔人の脅威は、近年においても各地で散見され、勇者カオリの活躍によってそれが撃滅されているとはいえ、大陸中で危険視されていた。

人の身では到底及ばぬ化け物。

古代竜に匹敵する脅威。

そう言われるだけの存在と、戦わなくてはならない。

自然、メンバーの誰かが喉を鳴らす。

不安そうに視線を彷徨わせる者もいた。


「今回魔王を討伐するにあたって、連合軍が攻撃するのは、極東にある旧グラチヌス帝都アースフィルっていうところらしい」


 かつて世界を脅かしたとされる暴狂国家グラチヌス。

その帝都こそが、今回の討伐する魔王の拠点、という話なのだが……それを聞いた一人が「えっ」と声をあげる。

他のメンバーの視線もそこに向いたため、その一人――レイアネーテは視線をうろうろさせながら「えっと」と、取り繕うように手をあげて発言する。


「あの、魔王とかの拠点って、別のところにあったんじゃなかったかなーって思ったん、ですけど……」

「ああ。俺も全く別の場所だと思ってた。まさかそこが拠点になってるなんてな」


 カオルは女神様の過去を知っているし、何より女神アロエから過去の出来事を聞いていたので解っていたが、レイアネーテとしてもこの情報は想定外だった。

彼らの攻めようとしている場所は、確かに先代の魔王が拠点としていた場所だった。

しかし、レイアネーテの主人である魔王アルムスルトは、今も尚極寒の地におわすはずなのだ。

では、彼らが討伐しようとしているのは一体何なのか。


「もしかして……その、そこで、魔王らしきものが暴れている、とか?」

「暴れてるかはともかく、どうやら勇者一行はそこが拠点だと考えてるらしいな。実際、討伐したはずの魔王グラチヌス? とかいうのの配下が大陸中で悪さをしていたらしいからな。おそらく今回は(・・・)そちらなのだろうと考えたらしい」

「へ、へえ、そうなんですか……納得しました」


 その魔王グラチヌス配下と思しき魔人については、ほかならぬレイアネーテも思い当たる節があった。

以前自身が相対し、撃破したラナニアの魔人こそがそうなのだろう、と。

確かにそのような暗躍を繰り返しているのを見れば、グラチヌスが復活している可能性は否定できない。

仮に違ったとしても、即座に方向転換して自分たちの主の方に向かってくることはないだろう、とも思えた。

だから、レイアネーテはそれ以上は余計なことは言わない。

カオルもまた、このベテラン冒険者が得心がいったようなので意識を全体に戻す。


「ミリオンもこの戦いに参加する以上、派遣する精鋭を選ばなくてはならない。だが、攻撃に移るのは何も人間側だけとは限らない。相手だってこっちの街や城を攻撃してくる可能性がある。だから、防衛と攻撃の双方に戦力を割かなくてはいけないわけだが――」

「それなら、マスターはここに残らないとまずいですよね。軍の主力は出払ってしまうんでしょう?」

「勇者様と肩を並べて戦えるなんざ、この上ないチャンスじゃねえか。まさかマスターはそんな大役、自分がやろうなんて言わないですよね?」


 幸いにして、腕に覚えのある者達はその程度では物おじしない。

むしろそれこそが立身出世のチャンスとばかりに腕を組みニカリと笑い、あるいは自信からくる落ち着きを見せていた。


「今まで賊やらトロルやらの相手ばかりさせられて飽きてきたところだぜ! 魔人と戦って生き残れば、それだけで箔が付くってもんよ!」

「当然報酬は言うがままって奴ですよね? 俺、参加して金持ちになりてぇ!!」

「あら、参戦するには相応の腕が必要でしょう? マスター、私の魔法なら魔人くらいちゃっちゃと片づけられますわ!!」


 ギルドメンバーは意気軒高。

とはいえ、全員を参加させるわけにもいかない。

腕っぷしの強い者達は大体が前向きだが、そうじゃない者達には不安そうにしている者も少なからずいた。


「勇者のPTに参加するのは二人まで。そのほかの戦闘向きのものには魔族の軍勢との戦いや、各地の防衛に参加してもらう事になる予定だ。その上で、戦闘向きでない者には、各々得意分野でこの戦いを支援してもらう事になると思ってくれ」

「安心してくださいね。戦えない人たちにまで無理に戦えとは言いませんから。貴方達ができる範囲の事で貢献してくれれば、それで十分ですから」


 カオルだけでなくサララのやんわりとした口調が合わさり、不安がっていた者達も「そういうことなら」と安堵の吐息を漏らす。


「こちらである程度の区分けはするつもりだが、もし事前に希望する配属先があるなら立候補してくれてもいい。勇者PTは志願制だ。三日後までには決める。それと……もし不参加でもギルドから蹴りだしたりはしないから安心してくれていい。皆も、不参加の奴をいじめたりはするなよ?」

「今回の事は、ミリオンとしての今までの活動の総決算でもあります。各地で手伝ったり協力したりした人たちにも、不安がっている人や変に戦気に逸ってしまっている人がいるかもしれません。こういった人たちをなだめたり安心させてあげるのも、私達の役割だというのを忘れないでくださいね」


 もちろんそれは、各地の支部にも伝えてある重要事項だった。

世界中に広がるミリオンの力が、今試されるときなのだ。

これによって人々が不安に陥ったり混乱したりすれば、それがもとでまたかつての大陸中を悲劇で埋め尽くした戦争のような事態に陥ることもあり得る。

あくまで人類圏は平和なまま、魔王の討伐だけが済めばそれに越したことはないのだ。

その為に、できる限りのことをする。

ミリオンの役目は、多岐にこそわたるが究極はそれが最大にして絶対のものであった。


「皆、俺たちの世界を平和な世界にするためだ。頑張ろうな」

「でも、無理はしすぎずに。大切な貴方達ですから」

「はいっ」

「死んだら元も子もないもんな」

「絶対に生きて帰るさ」

「完全に平和な世界……絶対にこの目で見なくちゃ!」


 夫婦そろっての演説に、ギルドメンバーらは大きく頷きながら口々に肯定の言葉を返してゆく。

ギルドが一丸となった瞬間。

これこそが希望であり、カオルの目標とした『優しい世界』の縮図だった。


(もうすぐだ……もうすぐ、皆が幸せになれる)


 その為に出るであろう犠牲。

嘆きの時間は、見て見ぬふりすることになるのか、あるいは。

そう、苦しみながらも受け入れるしかないのかもしれないと思いながらも、それでも幸せを掴むためには目を瞑らなければならないものだった。


 だが、この頼もしい仲間たちはどうだろうか。

カオルは、かつての強敵の戦いで、限界を感じていた。

自分一人で強い魔人を倒すには、作戦がいる。

そして魔人はそれすらも乗り越えて自分をボコボコにしてくるのだ。

たまたま最初に倒せた魔人二人が油断していただけで、本来ならそれすら難しかったのではないか。

だが、今なら。仲間が居る今なら。頼り任せることができる仲間が居るこの状態なら。


 世界は、あの嘘つきな女神様の知っている世界とは違ったのかもしれない。

けれど、兵隊さんは魔人との戦いに駆り出され、アイネもまた、魔王討伐に参加する。

細部に違いが在れど、挑む相手が違えど、世界はまだ、同じ流れ(・・・・)にしようとしているのではないか。


(……同じになんてさせるものか)


 あの悲劇は、とても胸が痛んだ。

大切な友人のはずの兵隊さんが死に、優しかったアイネが泣き崩れ、妻のはずのサララが傷つき、一時旅を共にした勇者カオリが後悔に苦しんでいた。

そんな事にはさせたくなかった。

そのために自分が居るのだとしたら、絶対に同じになんてさせる気はなかった。


――そう、魔王は、もう一人いるのだから。

彼はそれを知っていたから、今はまだ、戦えないのだ。

その場に、その時に、立つためにも。



 賑わいの中、サララは隣に立つカオルに、いつにない雰囲気を感じていた。

それは、決意に満ちた、恐ろしげにすら映る眼光の鋭さ。

自分が何をしようとしているのか、その為にどのような被害が出るのか、どうなるのかを知っている、恐ろしげな男の顔だった。


(私……何を見て……)


 それは、愛する夫のはずだった。

ずっとそばにいてほしいと思う、誰より最優先の人のはずだった。

放っておくと人助けに走ってしまう、だからこそ放っておけない人だった。

だが、今カオルが考えていることは、サララには解らず。

だからこそ、そら恐ろしいもののように思えてしまったのだ。


 カオルは、間違いなく自分の予想以上の大人物になっていた。

最早自分のサポートなんて必要ないくらいに知恵も周るようになり、足りなかったこの世界の知識もかなりの部分補完され、最早その辺の地域住民以上にこの世界の事を把握しているように思えていた。

先日の二人の王との謁見の時、サララは明確にそう感じ取っていた。

もう、頭脳担当としての自分は彼には必須ではないのだと。


 では、今後の世界で自分は何のために彼の隣にいて、どのように役立てるのか。

そう考えると、サララはもう、一つか二つしか思い当たるところはなかった。


(私の役目は……カオル様の、癒しになる事)


 昨今、彼女の夫は同じ異世界人から見ても世間から見ても、超然とした存在のように誤解されがちだが、実際には彼は精神的にはとても脆く儚い、苦悩を積み重ねて迷いながら生きている人間だった。

今だって、何を考えているのかまでは分からなくとも、それが苦しみの末導き出した結論なのは感じ取れていたし、彼の事を癒せる者がそんなにはいない事も解っていた。

そして、そんな彼が依存しているのが自分なのだ、とも。

そう、サララ自身も救い主様として依存していたが、カオルもまた、他にない心の癒しとしてサララが依存していたのだ。


 だから、結婚してからの二人はとても理想的な夫婦となれた。

互いの事を想い合い、互いの愛の結晶はそうかからず生まれ続け、今では館を埋め尽くす勢いで子沢山である。

この子供たちも、一人一人がカオルにとっての癒し、励み、支えとなるはずだと、サララは考えていた。

何かあって自分が死んでしまっても、支えられなくなってしまっても、この子供たちがきっと、愛する人の助けになるはずだから、と。


(もし……もし世界に本当に完璧な平和が訪れたとしても、その平和がずっと続くなんて、きっとあり得ないから)


 犠牲を出し、悲しみながらも平和を掴めるならいい。

それは慰みになり、救いにもなるから。

けれど、けれどもし、その先にまた、救いようもないような争いの日々があったのだとしたら。

その時、愛する人がどんな気持ちになるのか。どんな辛い思いをするのか。

それを思うと、サララはどうしても過保護な気持ちを抱いてしまう。


(この人に、辛い思いをしてほしくない……ずっとずっと、幸せでいてほしい)


 自分と出会ったばかりの頃のカオルは、まだ何もできない青年だった。

人の手伝いでお小遣い程度のお金をもらって、それでなんとか日々の食事ができるだけの毎日。

それでもサララは幸せだった。

でも、今のカオルは世界を舞台に活動する大人物なのだ。

何でもできるし何でもやる。その為に、沢山の悲劇を目にすることになっても。それでも。

幸せの尺度はどんどん広がる。

ならば、沢山の不幸を目にする彼を幸せにするには、どれだけ沢山の幸せを見せなくてはならないのか。

自分一人では絶対に無理だと思った。

そんなのは、自分だけでは足りないと思ったのだ。

だから、限界の先に進むために、子供をたくさん産む。多分、死ぬまでずっと。


 自分でも重いことを考えていると思いながら、サララは、自分の予感はどこか当たってしまうような気がしてしまっていた。

そしてだからこそ、何が何でも幸せにしてみせると、そう意気込んでいた。




 午後になってからギルドメンバー達が解散しはじめ、街中の賑わいが増してゆくようになる。

レイアネーテも、路地裏で仲間の魔人メロウドと連絡を取り合っていた。


「魔王グラチヌスが復活したっていうのは本当みたいだね。実際、最近になって急激に旧帝都アースフィル付近に強大な『概念の力』が計測されたって、クロッカスが言ってたよ」


 短パン小僧のようないでたちのメロウドが、魔王城での出来事を伝える。

レイアネーテも「やっぱり」と、口元に指をあてながら考えるようなしぐさ。


「でも、こんなことってあるの? 私、今までずっと生きてて魔王が二人同時に復活なんて見たこともないわよ?」

「うん。それに関してはバゼルバイト様も『そんなことはあり得ない』と驚いてらっしゃったよ。ほんとにあり得ないことが起きてるみたいだね」

「バゼルバイト様が驚くなんて……ちょっと見てみたかったかも」


 冷静沈着な魔人筆頭バゼルバイトが驚くさまは、メロウドをして「確かにそれは珍しかったけどさ」と思えたが。

だがそれはそれとしてそこに好奇心を持たれるのは話の筋がずれてしまうので、「それは不敬だよ」とくぎを刺す。

レイアネーテも口に手を当て「あらいけない」と黙ったので、メロウドの話が進む。


「原因としては、概念の形が変わりつつあることと、陛下にそれが入り込まないようにしている事からかな?」

「実際、ギルド『ミリオン』の活動は世界平和にものすごく貢献してるものね。人々が自分たちで自分たちを救うって、中々できないものだと思ってたのに」

「それだけ英雄一人の影響力がすさまじいってことだね。同じ異世界人だろうに、僕たちとはずいぶん扱いが違うよね、彼」


 結局世界に受け入れられず、あるいは世界を受け入れられずに魔人になってしまった彼らにしてみれば、カオルという英雄はとてもまぶしい存在であり、疎ましくも思える、どこか納得のいかない存在だった。

だが、見れば見るほど彼は凡人なのだ。

どこの世界にでもいる、普通の人のように見えてしまって仕方ない。

そんな男が、世界を変えている。世界を良くしている。

自分達ではできなかったことを、いともたやすくこなしているように思えたのだ。


「僕、以前彼と直接話したことがあったんだよ。地域の子供のフリしてね」

「あら、そうなの? じゃあ、覗いた(・・・)のね?」

「うん……だけど、彼は内面的には特に邪悪なものは持ってなかったし、びっくりするくらい普通の人だったよ。普通の、悩める人って感じ」

「悩んでたの? あの人が? 意外ねえ」


 レイアネーテ視点では、カオルというギルドマスターは、とにかく迷いなく一気に突き進む、流れ星かなにかのように思える人だった。

その即決即断が傍目からはとても気持ちよく爽快だから、多くのメンバーはそれを美徳として受け取っていた。

皆して「マスターは悩むことなんてないに違いない」と勝手に思い込んでいたのだ。


「でもね……その悩みっていうのもなんていうのかな……女神の過去に触れたか何かして、それと同じことをさせちゃいけないって、そうならないようにするために全てを尽くすみたいな、でもそれをやってもいいのかっていう迷いなんだよね」

「何それ……もしかして、アロエ様の過去の失敗を見て、同じことを繰り返させないようにするって事?」

「多分……以前には女神アロエとの接点もあったみたいだしそこで何か感じたんじゃないかな? で、それを止めたいけど、止めた時に出る犠牲とかを認めきれない感じ」


 スケールそのものは大きいが、悩む点はいかにも善良な英雄らしい、そして人の上に立つ者らしい部分であった。

彼はどこまで行ってもそこで悩んでいるのだから。

割り切れない弱さに、レイアネーテは好感を抱いた。


「……いいわねそういうの。そういう悩み、私も持ってたわ」

「勇者時代の話? でもレイアネーテは女神アロエを信じられなかったんでしょ?」

「この世界に来る前の話よ! でもまあ……共感はできるのよね。記憶を消しちゃったのは本当に悪いことをしたわ」


 そんな善人の記憶を消し去ったのだ。

一部除いて取り戻させたとはいえ、その場に偶然居合わせただけの彼に、人生を変えるレベルの仕打ちをしてしまった事に後悔が募る。


「でも安心したわ。彼らの向く先が陛下ではなく……グラチヌスに向いているなら、私も迷う事なく戦える」

「行くの? でもやめたほうがいいんじゃないの? 女神だっているんでしょ?」

「勿論バレないようにするけどね。これだって立派な変装でしょ?」

「変装……ううん、まあ……」


 魔王城にいた時のレイアネーテと比べて違う点は二つだけ。

一つは髪型。

もう一つは化粧の仕方。

これのみである。確かにこの二つが違うとかなり違って見えるが、変装と言うよりは気分転換で変えたくらいにしかメロウドには思えなかった。

というより、変装していたつもりだったことに今更気づかされた。


「まあ、バレたところで君なら勇者一行にボロカスにされることもないだろうけど」

「今ならアロエ様を説得することもできるかもしれないしー」

「それは無理だと思うなあ」


 相変わらず無謀な試みばかり思いつく同僚にメロウドは深いため息をつく。

レイアネーテ、反省しない。


「それじゃ、早速立候補してくるわ! グラチヌス討伐隊に!!」

「まあ、無理はしないでね」

「大丈夫大丈夫! 私に任せて! 朗報を待っててくださいってお二人に!」

「はいはい」


 本当に分かってるのか不安になりながらも、元気よく手を振り路地裏から飛び出してゆくレイアネーテ。

メロウドは「あの人も変わらないよなあ」と、冷めた目でその背を見送っていた。




「マスター! 私魔王討伐に参加したいと思ってー――」

「ほう、それはありがたいが……いいのかい?」


 ギルド本部にて。

カオルギルドマスターの執務室がカオル一人きりになったのを好機とみて、レイアネーテは立候補する。

だが、カオルは座りながら、レイアネーテの顔をまじまじと見つめ、覚悟を問うた。


「勿論よ! 魔人なんて私の腕にかかればちょちょいのちょいよ!」

「実績あるもんなあ」

「そうよ! 今までだって野良トロルやら野良ドラゴンやら倒してきたじゃない!」

「そうじゃなくて……魔人のな」

「……えっ?」


 腕を組みながら、小さく息をつきながらレイアネーテの顔をまじまじと見る。

たらり、レイアネーテの頬を汗が伝った。


「まさか……俺が気づいてないとでも思ってたのか? いや、記憶を消したんだから大丈夫と思ってたか。そりゃそうだよなあ――」

「あ、あの……まさか……」

「――魔人レイアネーテ。いや、そうと知ってもギルメンとして居るなら、俺は別に構いはしないがな」


 にやり、口元を歪め。

ギルドマスター・カオルは、改めて魔人レイアネーテと対峙していた。

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