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嘘つき女神と0点英雄  作者: 海蛇
13章.エスティア王国編2-リトルクイーン-
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#7.問題まとめる

 その日の夜。

再び三人は集まり、その日の成果を話し合っていた。


「――なるほど、ラッセル王子にはばれちゃったのか。でも、妹には隠せた、と」

「サララさんの仰るとおりでしたら、ラッセル王子はこの国や女王とのお付き合いに害意はなさそうですわね」


 あらかじめサララが用意していた暖かな野菜スープをすすりながら、二人もサララの話に感想を述べる。

スープの入ったカップを手に、サララも「そうなんです」と、難しい表情をしていた。


「ラッセル王子自身は問題ないと思うんですよね……だから、問題として大きいのはそちらではなく……エスティア王族そのものというか、お城そのものの緩さというか」

「ああ、まあ、皆が妹と王子との結婚に手放しで賛成してるってのは、はたから見たらちょっと怖いもんな。それは俺も思った」

「びっくりするほど危機感がないですものね……コール王子の存在が際立つくらいに、皆さんマイペースというか……」


 口々に出てきた感想に、サララもため息が止まらない。

これは、サララにとってはこの上なく恥ずかしい話題だった。

一番の問題は他国ではなく、内政・外交という国にとって重要な問題なのにもかかわらずやる気が感じられない自分の家族と、城の侍従たちなのだ。


「なので、お城の皆の意識を変えないといけないと思うんです。フニエルとラッセル王子との結婚は、この際アリとしても」

「お、応援する気になったのか」

「応援……というか、妨害する気はなくなりましたね。する理由がなくなったというか……少なくとも二人は想い合ってるようですから」

「確かに話を聞くとそんな感じだよな。でもそうなってくると、どうやって変えるかだよな。とりあえずの方針が決まったのはいいとしても」

「軸が定まってきた感はありますが、いきなり皆さんの意識を変えるのは難しいでしょうし……」

「そうですね。一番影響が大きいのは、私が王女であることを明かすことですが……私が王族として戻るのって、カオル様はどう思われます?」


 サララとしては、もう一定の責務は背負う気でいた。

無責任なままでいたくはないという想いもあったし、何より今のままではエスティアという国がダメになってしまうという危機感があった。

ラッセル王子との婚姻だって、フニエルの幸せを思うなら妨害する気はないが、それがそのまま進めばどのような影響が起きるのかは想像しきれないくらいに広範となるはずだった。

これを、とりあえずは想定できる範囲内まで影響を把握できるようにしないといけない。

その為にも、ただ心配するだけの傍観者でいるのはやめたいと思ったのだ。

それが正しいのか、サララはこの、誰より信頼する人に確認したかった。


 カオルはといえば、スープを啜りながら「いいんじゃないか?」とあっけらかんと答える。

先ほどまでの話で、サララは自分も含めエスティアの王族が、王族としての役割、責務から逃げていた事も伝えたはずだった。

それでも、カオルは気にしない。

サララが驚いていると、そのままスープを飲み干し、ニカリと笑っていた。


「サララはそこから逃げる訳にはいかなくなったから、逃げたくなかったからこの国に戻ってきたんだろ? なら、責任は果たさなきゃな」


 妹のことが心配だからという理由があるにしても、ずっと目をそらしていた現実に目を向けるようになったのは確かで。

そう思っていたカオルにとってはそれはもう、「今更か?」と思うような悩みで。

そしてサララは、実際一度それを受け入れたうえで、この国に戻ってきたはずだったのだ。

そう、必要なら、王族として城に戻り、王族として責務を果たすために。

カオルはもう、織り込み済みだった。

そのままサララが王女として、あるいは場合によっては女王なりになって、自分だけのサララではなくなる事も。


「……いいんですか?」

「英雄様の恋人なんだから、それくらいの方が釣り合ってると思わないか?」


 冗談めかして言いながら「なんてな」と笑い。

そして、照れ隠しに「おかわり」と言いながらカップを渡して、そして真剣な顔になる。


「でも、いきなりサララがお姉様面して妹にどうこう言っても、それはそれで面倒がられるんじゃないか? そこはどうする?」

「それなんですけど……私は、あくまで問題が解決した後に姉として名乗ろうかと思うんです。実際お城には私に気づいた侍従達もいて、ラッセル王子も気づいていますから……」

「少なくとも偽者を疑われる心配はなくなりましたね。ですが、肝心の問題の解決方法が……何から動きますか?」


 サララとしては、あくまで確認がとりたかっただけだった。

自分とずっと一緒にいてくれるカオルに、「そうなりますけど本当にいいですか?」という意味で。

そしてカオルはそれを受け入れてくれた。だから、もう悩む必要などない。

後はそう、この恋人に恥じることなきよう、国を盛り立てればいいだけなのだから。


 サララは、渡されたカップをそのままに、口元を引き締めて二人を見つめる。

二人とも、真剣にサララを見つめていた。


「まずはコール兄様を説得しましょう。兄様達からは、少なくとも国にとっては必要な真剣味を感じますから……敵に回すのは勿体無いです。協力してもらいましょう」

「できるのか? あっちはサララに気づくかもしれないけど、妹の体制には反対してる感じなんだろう?」

「バークレーとそれを受け入れてしまう今の体制に対して猜疑心(さいぎしん)を抱いているのは間違いないでしょうけど、実はそれって、政治的には必要なことなんですよ。コール兄様は政治の教育も受けていますから、王になる気はなくとも、フニエルの補佐をしてくれればそれだけで政治的にはマシになるはずです」


 あくまで説得が上手くいけばですが、と、算盤上の計算だけを並べながら目を閉じる。

今必要なのは、説得できる環境。

それを整える為の準備だった。


「私とカオル様は動けませんから、ベラドンナさんにお願いすることになると思います……もう一度、行けそうです?」

「それに関しては問題ありませんわ。転送魔法の目印も付けましたので、瞬時に移動できますし、ブロッケンの監視にもさほど支障をきたさずにできるかと思いますが……」

「でしたら、私からの手紙と、それが私のものであるという証拠の品を用意しますから、それを携えてくださいな。可能なら連れてきてくれれば一番なんですが……」

「努力してみますわ」


 無理しないでくださいね、と続けようとした矢先、被り気味に言ってのけるベラドンナに心強さを感じながら、目を開いてカオルのほうを向く。


「カオル様は、ラッセル王子と引き続き接点を保っておいてください。会話の中で、何かしら役に立つ情報が拾えるかもしれませんし」

「現状維持ってことだな。まあ、大半は取り留めのない雑談なんだけどな今のところ。でも、ブロッケンについてとかが分かるといいいんだけどな」

「ブロッケンに関しては、一日中監視していましたが、ただの口うるさい迷惑な方、という以上の情報は何も……ただ、何かに焦っているようで、時折『このままでは』とか『急がなくては』とか言っているのは聞こえましたわ」

「あいつも謎が多いけど、何に焦ってるんだろうな? 何か急ぎの理由でもあるんだろうか」

「さあ……そこまでは。ですが、時間さえかければそのあたりもはっきりしてくると思いますわ。人って、日常の中で結構、その時々の目的を口にしたりしますし」


 私もあることですが、と、視線をやや上に向けながら、人の習性とその意味に想い馳せる。


「そうしなくては、やがてその人の中で目的意識が薄れてしまうのですわ。ですから、ブロッケンも恐らく何か……」

「国王派っていう話ですし、もしかしたらラッセル達兄弟とは別の思惑で動いているのかもしれませんね。そうなると、警戒すべきはバークレー王の方なんでしょうか?」


 バークレーは現状、政治の大半を二人の王子が取り仕切り、国王は隠居じみた状況にあるというのがもっぱらの噂だった。

だが、それはあくまで噂に過ぎず、国王が直に動こうとしているのではないか。

そういった懸念も、やはりある程度はあるのだ。

サララもカオルも、ブロッケン単独の行動よりは、その後ろにいるバークレー王の存在の方が気になり始めていた。

そう考えるなら、ブロッケンはあくまで手先でしかないのだから。


「バークレーの国としての目的を考えながら、その上で問題ないようにしたいなら、これは無視できない問題なのかもしれないけど……城の中にいたんじゃその辺りはちょっと見えてこないな」

「そうですね。これに関してはブロッケンが国王からどのような意向で寄越されたのかも解らないですし……少しの間放置で」

「ええ、環視の中でそれが分かればいいと思いますが……まずは、コール王子の説得ですわね」

「そうですそうです。そんな感じでお願いしますね」


 手の中で揺れているだけだった空のカップにお代わりのスープを入れてカオルに渡し、サララは柔らかな笑みを浮かべる。

動くための方針は決まった。

これ以上情報を集めるだけの状態を続けても、事態は何も変わらない。

だから、潮目を変える必要があった。

事態が動くのを待つのではなく、動かすために。

三人は、これからの準備を始めることにした。


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― 新着の感想 ―
[一言] 結構面白かったのでブックマークしました。 これからも応援してます
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