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嘘つき女神と0点英雄  作者: 海蛇
13章.エスティア王国編2-リトルクイーン-
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#5.猫になった王族たち

「サラ? ちょっとお願いしたいのですが……」


 フニエル女王お付きの最中、休憩時間までもう少しという頃のことであった。

いつものようにすまし顔で女王の私室の壁際に控えていたメイドサララは、席で執務中だった女王に呼ばれ「はい」と傾注する。

自分に視線が向き、女王もほっとした様子で頬を緩める。


「実は、私のお父様……前国王が愛用していた短剣があるのですが、ラッセル様が、どうしてもそれを見たいと仰るのです」

「前国王陛下の……」


 愛用していた短剣、と聞き、すぐにサララも思い出す。

子供のころに見たことのある、父が趣味の木彫刻などを彫るのに使っていたナイフ代わりの短剣。

元々は神話の時代より女神アロエに授けられしエスティアの神剣だったはずだが、平和な今の時代には便利な懐刀程度の扱いになってしまっていた、そんな哀れな短剣である。


「……それで、それを取ってくればよろしいのですか?」

「はい。多分お父様のお部屋にあると思いますので……本当は自分で取ってくればいいのですが、私、以前お父様がたをもとの姿に戻そうと思った時に失敗してしまって……それ以来、どうしても気負ってしまって怖いのです」

「なるほど。かしこまりましたわ」


 後ろ足をつま先で、スカート端をちょこんと掴みながら会釈しながら「失礼致します」と、命じられたことをすぐ実行に移そうとする。

だが、直後後ろから「あの、待ってください」という、小声の困ったような声が聞こえてきてぴたりと止まった。

振り返る。やはり眉が下がっていた。


「どうかなさいましたか?」

「あの……解っているとは思いますが、お父様のお部屋には今、他の猫にされた王族も集められています。身体が小さくなったのでそれほど不満はないと思いますが、それでもお父様や兄様姉様方は長い猫生活で、時々訳の解らないことをすると思いますから……気を付けてください?」

「あ、はい。私、問題が起きないように気を付けますわ」

「それと……サラは大丈夫だと思いますが、お父様がた付きの侍従たちは少し……気を病んでいる人もいますから、あまり関わらないようにしてあげてくださいね?」


 かわいそうな人達ですから、と、薄い胸に手を当てながら心苦しさを和らげようとする。

それに対してもサララは余計な詮索はせず、「かしこまりました」とだけ返し、また背を向けた。

今度はそれ以上に何か言うつもりはないらしく、部屋を出るまでそのままだった。



「お父様のお部屋……随分とまあ、寂れてしまって」


 勝手知ったる自分の城である。

メイドになってからは一度も顔を出したことはないが、そこ(・・)へは迷うことなくたどり着けた。

玉座の奥まった通路の先にある、王族の為の食宴の場。

そこから更に進んだ先に、その部屋はあった。


「失礼いたします」


 コンコンコン、とノックを三度。

反応がないため特に戸惑いもなくノブに手をかけ、そのまま開けてしまう。


「にゃ~ん(何者ですか?)」


 入った直後、猫の鳴き声。

ドアの前にいたのだ。黒毛の小さな猫が。

猫語習得者には、その意味合いも副音声のように頭に入る。


「にゃん? にゃにゃに~? にゃにゃに~?(お久しぶりですね? 貴方は何番目の兄妹ですか? それともお父様?)」

「にゃっ? にゃにゃ……?(えっ、貴方いったい何を言って……?)」


 真っ先に出会った猫の前に膝立ちで視線を合わせ、ニコリとほほ笑む。

猫は猫で困惑したように瞬きしながら首をかしげる。


「にゃふ、にゃあ~にゃにゃにゃ~?(その首をかしげるしぐさ、どことなくレティーアに似ていますね?)」

「にゃにゃにゃっ!? にゃぁっ? にゃにゃにゃぁぁぁぁっ!?(あっ、あぁっ! 貴方、サララ姉様!?)」

「にゃぁ~、にゃにゃにゃ(ええ、その通りですよ。お久しぶりですねレティーア)」


 話を通じて相手が妹姫なのだと理解し、サララはその手を伸ばし……変わり果てた姿になった妹の頭をなでる。


「にゃぁ~、にゃにゃにゃにゃ……(姉様、よくぞご無事で……)」

「にゃあ、にゃにゃ、にゃ?(つもる話もあるけれど、ちょっと今は大事な用事があるの、お父様は?)」

「にゃにゃ~、にゃ、にゃ(お父様なら、あの、いつもの椅子の上にいらっしゃいますわ)」

「にゃ、にゃにゃにゃ~(あら、分かったわありがとう~)」


 随分かわいらしくなってしまった妹の頭をもっと撫でていたい気持ちもあるが、父の居場所も分かったので、部屋の奥へ向かう。


「にゃにゃ!?(あれっ?)」

「にゃにゃにゃぁっ!?(お前サララか!?)」

「にゃ、にゃにゃ~っ(まあ、元気そうでよかったわ~っ)」


 すぐに入り口のレティーアの声に気づいてか、他の猫も集まり始めていたが。

サララはその兄妹達に「また後で」と手を小さく振りながら、奥の安楽椅子を見た。

ふてぶてしさすら感じる、貫禄ある老猫が一匹。


「……お父様、お久しぶりですわね、サララですわ」

「にゃ(サララか)」


 あえて皮肉めいて、人間の言葉で挨拶をする。

父猫は父猫で、サララのことに気づいてか、ちら、とだけ一瞥するものの動かない。


「にゃにゃにゃにゃ? にゃにゃ~、にゃにゃにゃ?(怠惰すぎません? 貴方、一応この国の王ですよね?)」

「にゃぁ、ごろごろ、ごろろ(ふん、帰ってきてそうそうお説教か、相変わらず口うるさい奴だ)」


 父王は、怠惰な人間だった。

働くのが嫌い。執政もあまり好きではなく、軍事など考えたくもないという王政の失格者。

だからか、早々に後継者候補の王子たちにすべて押し付け、悠々自適な隠居生活を送ることを望んでいた。

その目論見も猫にされ潰えたかに見えたが……実際には、本人にとってこの上ない状況となっていた。

それが、サララには気に入らない。


「にゃにゃにゃにゃ? にゃにゃ?(なぜフニエルに全て押し付けるのです? 貴方なら元に戻る方法は解っているはずですよね?)」

「にゃ~ご、にゃにゃにゃ、にゃにゃにゃにゃにゃ(こんな国の政治など誰でも務まるだろう、何も私がそんなことをせずとも、フニエルがやってくれるならそれでいいではないか)」

「にゃご、ふにゃぁ、にゃにゃにゃにゃ!!(またそんなことを、貴方は王であるという自覚はないのですか、それが王の言う言葉とでも!?)」


 猫を前にしての猫語での舌戦。

はたから見ればシュールこの上ないが、少なくともサララは本気で臨んでいた。

そんな事で父王が改心するとは微塵も思っていなかったが……父親の態度が、とにかく気に入らなかったのだ。


「にゃにゃ!! にゃにゃにゃにゃっ! にゃぁっ! にゃにゃにゃぁっ!!(貴方という人は!! 自分が何を言ってるのかわかっていないのですか! 曲がりなりにも! 王ともあろうものがっ!!)」

「にゃにゃ~、にゃにゃにゃ(そんなこと言われてもな~、私はもう猫だしどうでもいい)」

「にゃ……っ、にゃぁっ!(どうでも……っ、フニエルはどうなるのですかっ!)」

「にゃぁ、にゃにゃにゃ~(あの娘だって、好きな男ができて幸せそうではないか~)」

「にゃぁっ!? にゃにゃ、ふにゃぁっ!!(バークレーはどうなるのですか!? そんな理由で、この国がバークレーに飲み込まれでもしたらどうするおつもりですかっ!!)」

「にゃあ~、ふぐふぎゃ。にゃ~ご(大丈夫だって~、そんなに深く気にせんでも。なるようになるからお前はお前で好きに生きればいいだろう)」


――ダメ、(はた)きたい。


 本気でそう思ってしまうふてぶてしい猫がそこにいた。

これが自分の父親である。怠惰にもほどがあった。

いや、猫になる前はそんな風に思っていても一応は王としての職務は多少怠けながらも行っていたのだから、これは猫になった所為かもしれない。

猫化が長引いたことで、猫らしい性質に引っ張られてしまって、猫みたいに怠惰がひどくなったのかもしれない。

どうにかそんな風に父寄りに考えようとしても、フニエルの事や国の事を適当に考えすぎているその思考が、サララにはどうしても許せなかった。


「どうかなさいましたか?」

「先ほどから何やら猫語の話し声が聞こえましたが」


 それまでいなかった側付きたちが、声に気づいてか部屋に入ってくる。

サララとしては見知った顔だった。


「おや、これはこれは……シャリエラスティエ様では?」

「お懐かしいお顔ですなあ……いつこのお城に?」


 年老いた侍従たち。

これはいずれもサララにすぐ気づき、恭しげに礼の構えを取る。

自分に気づいてくれた侍従に内心でほっとしながら「それはいいです」と、頭を上げるように伝えた。


「猫の姿のまま賊にさらわれ、飼い猫として各地を転々としているうちにエルセリアで救われまして……今は、この国とフニエルのことを聞いて、いてもたってもいられず」

「なるほど、そういう事でしたか」

「そういえば、新しくメイドが入ったとか、アリエッタが言っていましたな。なるほどあの娘……」

「ええ、気づかなかったようですね。私にとっては好都合でしたが」


 しかし、この二人には容易に気付かれてしまった。

考えてみればコール王子付きの侍従もすぐ気づいたのだから、彼らが気付いたこと自体は不思議でもなんでもなかった。

つまり、アリエッタがぽけぽけしているだけなのだ。

二人もまた「なんとまあ」と呆れたように口を手で覆いため息をついていた。


「あの娘が侍女長になってからというもの、城内の緊張感がとんと薄れてしまって……」

「何せ結婚相手を探すために来るような娘を積極的に採用していくようになって……以前より務めていた誇りあるメイドたちが、みんなばかばかしく感じてやめてしまうようでしてなあ」

「……はあ、まあ、あの娘ならそうでしょうね」


 アリエッタは、決して有能な侍女ではなかった。

少なくともサララ視点では幼少時からそんな風に見えていたので、それがそのまま大人になればそうもなろう、と予想できていた。

人を見る目はあるとしても、やはり彼女に侍女長は向いていないのだろう、と。


「フニエル様も、私たちの言葉にはあまり耳を貸していただけませんし……」

「はあ、そういえば、『かわいそうな人達』と言っていたけれど……何かあったのかしら?」

「そんなことを……いえ、フニエル様はバークレーとの婚姻の儀を進めるおつもりのようですから、『猫獣人の娘と人間の娘との違い』などをお教えしようと……何せ夜の作法から何から、人間の姫とは違いますもので」

「……そういうのって普通、アリエッタが教えることでは?」

「それは無理な話でしょう。アリエッタは人間のことなど何も知りませんし」

「何より、あの娘では恥じらって何も教えられますまい。良くも悪くも年頃の娘でしかありませんので」


 この老侍従たちのアリエッタに対しての評価は辛らつこの上なかったが、それはそれとして、「それをこの人たちが教えるのはどうかと思うけれど」と、困惑が隠せずにいた。


「いえ、それ自体は私共の気遣いというより、ご兄姉からのご意見でしてな……」

「それを伝えようとしたところ、フニエル様が『兄様や姉様がそんな卑猥なことを言うはずがありません』と、まあ、そのように……」

「ですので、私共は『主人が猫になったショックでおかしくなった』とレッテルを張られてしまったのです……情けないことですが、城内ではもう、私共の言葉に耳を貸してくれる者もほとんどいなくなってしまいました」


 二人、悲しそうに眉を下げながらがっくりと肩を落としてしまう。


「にゃあ、にゃにゃあ(まあ、気にするなお前たち)」


 そしてそんな二人に、王たる猫は片足を上げて気だるげに慰めの言葉をかける。

それが余計にサララの癪に障ったが、それは父に反論しても話が進まないことが分かっていたので、黙ったまま。


「……貴方達は、フニエルの結婚については何も思っていないのですか?」

「フニエル様の? いえ、私は別に……」

「私も、『おめでたいことだなあ』と考えております」

「バークレーがどんな国か分かった上で?」

「勿論にございます。ですがラッセル様のお人柄、この国への貢献を考えると、いや……今までのバークレーへの反感が薄れまして」

「エルセリアからは『バークレーは悪しき国家』という話を聞いていましたが、実際には我が国には得となることしかしておりませんし、少なくとも今の王子ご兄弟は、善政をしているのではないかと思うのですよ」


 二人の話を聞きながらに父王の顔を見つめる。

王もまた小さな頭をうんうんと頷かせていた。

猫になった王には、人間の言葉はおおよそのニュアンスでしか伝わらないはずだが……それでも理解できているらしい。

この点、地頭そのものは悪くないはずなのだが、椅子に寝そべったままそれを行っているという点がどうにも怠惰であった。


「他の兄妹達は……」

「他の方々も……ああ、コール様だけは何か気に入らないことがあったようですが……グリフォンに連れ去られたのだと聞きましたなあ」

「お可哀想なことにとは思いましたが、まあ、仕方がありませんなあ。猫の姿になった以上、外は危険がいっぱいなはずですから」


 行方知れずのままの王子のことを思い出しながら、「不幸な出来事でした」としきりに頷く。

嘘をついているわけでもなく、隠し事があるわけでもなく、本当に不幸なことと思っているようだった。

そして、コール王子の居場所もまだ、彼らは把握していないらしい事も。


「つまり……誰も、フニエルの結婚には反対していないんですね。バークレーのことも」

「そのようですなあ。いやあ結構なことです。あとはこれで皆様が元のお姿に戻れればと思うのですが……」

「あいにくと、ご本人たちが元に戻りたいとは思っていないようでして」


 こちらは少し困った事だったのか、眉を下げたままにちら、と床の上を見る。

王だけでなく、他の王族猫たちもまた、怠惰に床の上に寝転がってゴロゴロとしていた。

その姿、まさに猫である。


「……元々あまり勤勉だとは思いませんでしたが……あの、この中には兄様がたもいらっしゃるんですよね? コール兄様以外の」

「ええ、まあ」

「はあ……王位継承者がコレだなんて。ラナニアなんて国や民のために王族が命を捨てる覚悟で古代竜に挑んでたのに、ドラゴンスレイヤーがこのありさまでは……」


――この国、もうだめかもしれない。


 割と本気で絶望感に満ちた心境だった。

フニエルが女王になっているからではない。

フニエルが女王にならざるを得ない状況に、この王や兄達が甘んじてしまっているからである。


「その気になれば元に戻れるんですよね? フニエルは失敗したと言っていたけれど……その失敗って……」

「ええ、おそらくは、ご本人たちが望んでいないからかと……」

「方法は間違っていませんでしたし、そうとしか思えませんなあ」


 少なくともコール王子含め全員が、その時それを願っていなかったということになる。

誰も、王族の責務など背負いたいと思っていなかったのだろう。

そして猫としての快適な日々を味わい続け、怠惰な日常を送れる猫の姿を望んでしまったのだ、この王族たちは。

痛みが走り始めるこめかみを抑えつつ「やっぱりそんなでしたか」と、深い深いため息をつく。


「ですが、シャリエラスティエ様がお戻りになったのなら話は変わってきますぞ」

「すぐにでもフニエル様にお話しして……いや、待てよ。姫様がメイド服のままでいるということは……」

「……ええ、あの娘、私のことを覚えていないようで」

「なんとまあ……いや、シャリエラスティエ様のことは覚えてらっしゃるはずですが、記憶の中のお顔と、幾分成長されておりますから……」

「何より他者を疑うことのないあの純真な性格ですから、本気で分かっていないだけかもしれません……説明されてみては?」

「それはちょっと怖いというか……私自身、突然現れてこの国を背負うのも違う気がするのです」


 はじめは、フニエルが困っているならそれを助け、可能なら他の王族を元に戻して王族としての責務を分散させ、王に王としての政務をとらせればそれでいいと思っていた。

けれど、今の父や兄妹たちの態度を見て、「それでは無理そう」と思えたのだ。

それくらい、今の王族たちは頼りない。

辛うじて見どころがありそうなのは、バークレーを警戒しているコール王子くらいだった。


(……コール兄様もちょっと尖りすぎてるし、そちらを説得したほうが早いかしら?)


 少なくとも、国家運営でフニエル一人に任せるのは厳しい。

サララ自身、一応王族として国家運営の教育は受けてはいるが、継承者候補でもなんでもないので細かいところまでは解らない部分もある。

その点、コール王子は継承者候補二位だったこともあり、為政者としてかなり本格的な教育を施されている。

彼を城内に呼び戻せれば、政治的にはかなり改善できる部分もあった。

だが、肝心の彼は私兵を集め何やら画策している模様。


(まずはそちらを優先して……でも、ブロッケンも無視できなくて。ああ、やることが多いわ)


 やはりここで王族たちと話して正解だった。

侍従の彼らの話も役に立った。

けれど、今自分に降りかかっている絶望感と疲労感も間違いなくこの者たちから受けたもので、サララは大変、つらいお気持ちになっていた。


(もうやだこのお城……カオル様に見せるのが恥ずかしいよぅ……)


 自分がこんなお城のお姫様な事実が、サララにとってはかなり恥ずかしい現実となっていた。

自分の国の、民の危機かもしれないのに何もしない王がそこにいた。

この国を背負うべき王族たちが、床に寝転がって猫になっていた。

そしてこの中の誰一人バークレーに危機感を抱かず、のほほんと現状に甘んじていた。


(変えなくちゃ……このお城、この人たち、全部全部、変えていかなきゃ……!)


 それは、幼き頃のサララの想いだった。

子供のころ、やはりサララは今と同じようにだらけた家族を見て、「このままじゃダメ」と思ったのだ。

自分は王にはなれない。けれど、王を補佐するくらいはできるはず。

そして、自分はいつかこの国をよりよく発展させるために働くのだ、と。

そう思って勉強していた。

市井の生活を直にみて、子供たちの遊びを一緒に楽しんで、民衆の苦しみを、日々の癒しを、毎日の喜びを目にし、彼女は、この国が好きになっていった。

そこには、責任感もあった。王族としての責務を果たさなくてはならないという想いがあった。

そしてそれは、超大国エルセリアの街々を見て、より強くなった。


 今のサララには、その想いが蘇っていた。

カオルの恋人としての自分より、それ以上にはっきりさせなくてはならない、王族としての自分。

その使命感に、サララは突き動かされていたのだ。



 その後、老侍従や王族たちに「私のことはまだ伏せておいてください」とお願いし、サララは部屋を後にした。

去り際にその辺に飾ってあった短剣を手に持ち、フニエルの待つ私室へ。

……そしてそこで、また見慣れた顔があったのだ。


「おかえりなさいサラ。丁度良かったわ。ラッセル様、この人が持っている短剣が今しがたお話しした――」

「おお、いいタイミングだね……って、あれ……?」


 バークレーの王子、ラッセルが、サララの顔を見た途端、目を見開いていた。

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