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嘘つき女神と0点英雄  作者: 海蛇
3章.オルレアン村編3-ダメ男と村娘とネクロマンサーと-
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#3.行商人御一行様ご到着


「むぇ? ポットさんの村での評価ですか?」


 家に帰り、夕飯の支度をしていたカオルは、いつものように皿並べを買って出たサララに、ポットについての話を聞いていた。

内容は、村の中で彼がどんな扱いなのか。

なんとなくあんまりいい話を聞かないのは解るのだが、それでも他の、自分以外の視点からの意見が知りたかったのだ。


「ああ、さっきポットさんと会ってさ。なんか、色々悩んでたみたいだから」

「なるほどなるほど……うーんと」


 丁寧に布巾で皿を拭いてテーブルに並べ終わったサララは、口元に指を当てながら可愛らしく視線を上に向け……やがて、カオルの顔を見た。


「正直、微妙としか言いようがないですね。女の子からの評価は基本的に低いですし。あ、アイネさんとレイチェルさんだけはそういう話に加わったりしませんけどね。案外、村の女の人って男の人の評価をグループ内で話し合ったりしてるんですよ。カオル様も気を付けないと」

「……ああ、やっぱそういうのあるんだな。女同士って」

「まあ、このくらいの村なんかだと、結構若いうちから結婚して子供作ってーって考えなきゃいけないでしょうからね。子供の数=将来的な人手の数 みたいな考えがあるようだと、やっぱり早いうちからいいお相手を見つけておきたいっていう気にもなるんでしょう」


 私はまだそういうの早いですけど、と、先に席に座りながら視線をテーブルに向ける。

丁度、カオルが川魚の香草焼きを皿に移すところであった。


「わー、わー、お魚、だぁー♪」


 とてもうれしそうにはしゃぐサララに、カオルはつい頬が緩んでしまう。

まだまだ色恋沙汰よりは食欲の方が勝ってそうなこの猫娘に、ほっとしていたのだ。


「まあ、そこらへんに生えてるハーブと塩で味付けしただけだけどな」

「いいんですよぉこういうので。それにしても、この時期のマツナガを食卓に並べるなんて、カオル様もよく解ってますねぇ」

「……マツナガ?」


 いきなりよく解らない名前が出てきたので、カオルは思わず首を傾げてしまう。


「あれ? 知らなかったんですか? これ、マツナガっていう名前です」


 ちょいちょい、と指で先ほど皿の上に乗せられた焼き魚を示すサララ。

腹あたりが黒いこの魚は、ほどよい湯気が漂い、美味そうな香ばしい匂いが食卓を癒やしていた。


「いや、名前とか知らなかったぜ。麦の収穫手伝ったら釣り好きな兄さんにもらってさ」

「ほへー……カオル様。魚の名前と特徴くらいは一致するようにしたほうがいいですよ? このあたりの川はまだ危険もなさそうですけど、海とか、大きな湖とかいくと、毒を持ったのもいますからね?」


 気を付けてくださいね、と、手に持ったフォークをカオルに向けるサララ。

カオルも「言われてみれば確かにそうだ」と、神妙に頷いた。

自分で釣った時もそうだし、市場などで見かけた際も、やはり味や向いている調理方法に違いがあるなら、その辺りは知らないといけないだろうと思い始めていたのだ。


「ん、解っていただければいいんです。まあ、お魚の見分けに関しては私、プロですから。知らない魚を釣ったら私に見せてくれれば問題ないですけどね」

「捌いたり料理したりするのはプロじゃないのか?」

「そういうのはプロの料理人かカオル様がすればいいと思うんです」


 畑違いですね、と、サララは視線を目の前の焼き魚に戻す。

どうやら早く食べたくて仕方ないらしい。

猫耳がピン、と焼き魚の方に傾いてるのがカオルからでも確認できた。


「……そろそろ食うか?」

「はい♪ いただきます!」


 元気よく手を合わせ、フォークとナイフを器用に使って焼き魚を切り分けていくサララ。

その様はとても丁寧で、どこか、型にはまった美しさのようなものをカオルに感じさせていた。



「……ふむ」

「……? どうかしました?」

「美味いか?」

「はい。このシンプルな味付けがいいんですよねぇ。マツナガってお塩と相性がいいんです。川魚にしては臭みとかもないですし、よく焼いてあるから寄生虫とか気にならないのもポイント高いですよね!」


 一つ聞くといくつも返ってくる。よほど魚が好きなのか、あるいはカオルの料理が気に入っているのか。

サララは爛々とした眼で舌鼓を打ち、感想を聞かせてくるのだが、カオルはそんなサララを見ていると、それだけで癒されるような、疲れが取れていくような気になっていくのだ。

そうこうしているうちに、自分がサララを見て、何を感じていたのかも忘れてしまっていた。

不思議な少女であった。




 翌日、村の中心部にある広場が、少々賑やかな事になっているのに気づき、カオルとサララは広場へと出向いた。

いつも行商なんかがちらほら露店を出したりしているこの広場であるが、今日は大き目の馬車が二台、広場の片隅を占拠していたのだ。

そうして、馬車からはたくさんの商人らしき人達が降りてきて、各々露店の準備などを始める。


「わあ、隊商(キャラバン)ですよ。このあたりの村にも来るんですねぇ」

「キャラバンっていうと……えーっと……シルクロードがどうとか……」


 なんとなしに聞いたことのある単語に、カオルは数少ない記憶をより戻そうと努力したが……今一はっきりとは思い出せなかった。

キャラバンという単語そのものは知っているはずなのだが、それがどんなものを指すのかが思い出せない。


「……? シルクロード?」

「いや、なんでもない。つまりその……商人の人たちなんだろ?」

「そうですよ。砂漠から山岳地帯から、いろんな地域を渡り歩く行商の隊列です。この辺りは山もいくらかあるから、ロバラバを使ってるようですね。私が前に見たのは銀ラクダの隊商でしたが」

「ロバラバって?」

「あれですよあれ。馬をちょっとちっちゃくしたようなの。耳がおっきくて敵の接近に気づくのが早くて、山道とかに強いんです」


 山岳隊商の友ですよねぇ、とサララが指さす先に居たのは、馬車の先に何頭も繋がれた、灰色の馬のような生き物。


「ああ……ああいうのって、なんかラクダに乗ってるイメージがあったんだけど、馬みたいなのでもやるんだな」


 カオルの中に微かに残るキャラバンのイメージは、やはりラクダに乗って砂漠を歩く行商、といったものであった。


「砂漠やステップ地帯ならそれでも間違ってませんよ? ただ、ラクダって山には弱いですから……すぐに足がダメになっちゃうんですよ。平らなところとか、地面が柔らかいところ限定ですね」

「へぇ……」


 カオルも「そう言われてみれば、確かにこの辺りは平地とは言えないよなあ」と、周辺の地図を思い出し、頷く。

サララは、『元・旅のハンター』と言うだけあって、それなりに物知りな様子であった。

少なくとも、この世界初心者のカオルよりは、基礎知識は豊富。

解らない事はとりあえずサララに聞くのもありか、と、カオルは考えた。


「それにしても、色んな人が乗ってるんだなあ。いくら馬車がでかいからって、あんなに乗ったらぎゅうぎゅうだろうに」


 馬車のサイズそのものは村で見たこともないくらいに大きかったが、それでもその中からずらずらと出てくる商人たちは、一つ当たり三十人近くいて、カオルは驚き反面、呆れてもいた。

感覚的に、満員電車に詰め込まれる様なものを想像したのだが、実際問題その通りらしく、疲れ果てているのか、よれよれ歩いている若い女性などもいるのだ。


「まあ……こっちの方に用がある人とかも途中で乗り込んだりするから、最初は快適でも段々地獄の苦しみが続くって言われてますね。キャラバンの乗り合いは」


 サララも苦笑いしながらカオルに同意する。


「痴漢とかにあったりしないのかな」

「子供はそうでもないでしょうけど……年頃の女性の場合は、どさくさ紛れに胸やお尻触られるくらいは覚悟しないとダメらしいですよ? ほぼ100%悪戯されるらしいですから。執拗に」

「うわぁ……」


 声をひそめてカオルの耳元で囁くようにして答えるサララに、カオルもまた、妙な疲れを感じ始めていた。

そう考えると、先ほどのくたくたになっている若い女性なんかは、別の意味で疲れ果てているのではないかと、そんな風に考えてしまったのだ。

雑念を振り払うように頭をぶんぶん振りながら、カオルは視線を別に向けようとした……ところで、ふと、その女性が手に持つ、キラキラとした石が目に入った。


「……なんか、水晶みたいなの出してるな」

「占い師か何かでは? キャラバンにはつきものですよ?」

「そっか」


 そういうのもあるんだなあ、くらいにサララの言葉を受け入れ、カオルは今度こそ、その女性から視線を逸らした。



 見てみれば、村の人たちも興味深そうに隊商の準備を遠巻きに眺めており、「今日は賑やかになりそうね」とか「あの女の子の服どこの国のなのかしら」など、特に女性が興味を惹かれている様子だった。


「あ……カオルさん達だ。おはよう」


 そんな中、同じようにキャラバンを見ていた一人と視線が合い、挨拶される。


「レイチェル。おはよ」

「おはようございます、レイチェルさん」


 軽く手を挙げ挨拶を返すカオル。

それから、表向きにこやかぁに挨拶するサララ。

その小さな手はさりげなくカオルの片腕に回っていた。


「相変わらず仲いいねぇ。羨ましくなっちゃうよ」

「いえいえ~どうもぉ」


 特に悪気などなく羨むレイチェルに対し、サララは明確に警戒の仕草を以て笑顔で牽制しているらしかった。

言葉には出さないものの「私のですからね」とアピールしているのだ。

カオルもいきなり腕を絡められて頬が熱くなるが、視線を明後日に向けてなんとか誤魔化す。


「それはそうと、あの隊商、占い師の人がいるみたいだね。すごくエキゾチックな雰囲気を感じちゃう」

「ああ、そうですねえ。顔なんて目元以外隠れてるし、スカートもスリットが長いし……ああいう紺色統一色の服って、砂漠とかで流行ってるんですかねえ?」

「どうなんだろうねえ。このあたりの行商人の人はそういう服持ってきてくれないし、ああ、気になるなあ」


 ほんわかとした表情で、さっきのくたくたになっていた女性がいた方を見るレイチェル。

カオルらも再び視線をそちらに向けるが……馬車の中に入ってしまったのか、もういなくなってしまっていた。


「一度占ってもらおうかな。そろそろ結婚相手を見つけないとって、お爺ちゃんによく言われてるの」

「へぇ、そうなんですか? いい結果が出ると良いですね」

「うん。サララちゃんは……占ってもらう必要ないかな?」

「必要ないですねー、今のところは」


 女の子同士の会話の為、カオルは今一入り込みにくい雰囲気を感じてしまって黙っていたのだが。

サララの視線がちらちらと自分に向けられているのくらいは、とっくに気づいていた。


「いいなあ。私もデキる男の人と一緒になれたらいいなあ」


 見た目的にはサララとそんなに違わないくらいの歳の子なのに、レイチェルは既に結婚を視野に入れているらしかった。

異世界の結婚年齢なんてカオルには解る由もないが、「異世界って随分と早いんだなあ」と、驚きを禁じえない。



 結局、そのまま二人の少女の会話に付き合わされ、カオルは半日を棒立ちで過ごすこととなった。


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