#5.夕食はさわやか鶏のチーズグラタン
「ふぅ……どこに行っても、風呂はいいもんだなあ」
到着後、一日分の馬車旅の疲れを癒やす為、早速風呂に入る事にしたのだが。
当然男女別に分かれていたため、サララは小鳥に変身したベラドンナを連れ、女風呂に。
まだ早い時間帯だからか、それとも他の客が居ないのか、男風呂にはカオルしかいなかった。
(向こうに居た頃は、風呂なんてただ入ってすぐ出ればそれでいいと思ってたもんだけどなあ……)
広い浴場に、一人息をつく幸せ。
ゆったりとした広々空間を独り占めする贅沢。
子供の頃は考えた事もなかった、向こうに居た頃は知る余地もなかった、風呂に浸かるという快感。
今の彼は、そういった癒しも感じられる程度には、労働者の疲れを理解できるようになっていた。
そう、風呂の良さを知るのも、大人になった証の一つとでもいうべきか。
(おっさんくさいけど……こうやって身体から力が抜けてくのがなんとも言えず……ああ、気持ちいい)
そんな所帯じみた幸せを噛み締めながら、ぼんやりと天井を眺める。
水の滴り落ちる石造りの白い天井。
ぴちゃりとタイルに落ち、それが跳ね。
水面は、風呂場中に真っ白な湯気の霧を生み出しながら、きらきらと壁にかかった灯りを反射させていた。
美しい、というような風景ではないが、落ち着く世界だった。
(俺も、いくらかは変わったのかな? 昔はこんなの、つまらないって、気にもしなかった事なんだろうけど)
必要な機能が全部そろっていて、その上で気持ちを落ち着ける事が出来る、余計なモノのない空間。
それは、人として心に余裕が抱ける、安堵できる空間に必要な条件なのだと、今のカオルには解るのだ。
ゆったり身も心も休めるためには重要な、そんな空間の最適解を用意してくれたような、そんな気持ちになれる。
(……いい宿だなあ。『海鳥の止まり木亭』もいい宿だったし、伯爵の屋敷や別邸の風呂も広くてよかったけど……風呂だけなら、ここが一番落ち着くかなあ)
自分一人だからそう感じるのかもしれないが。
あるいは、他の客がいたとしてもそう感じられるのかもしれない。
ここは国境の宿。国から国に旅する者にとって、重要な街道沿いの宿の一つ。
ならば、それだけ宿泊客も多かろうし、それに合わせたニーズを用意する必要もあるのだ。
浴槽の縁に腕を乗せ、ぐ、と下に向け背伸びする。気持ちいい。
両腕を伸ばしながら、上へとゆったりと背伸びする。気持ちいい。
片腕を掴みながら、胴を左に右に、ぐぐっと引っ張ってゆく。なんと気持ちいいのだろう。
何をしても気持ちいいのではないかと思えるくらい、そこは身体を休めるのに最適な世界なのだと思えてしまう。
これまでの色々な旅の、色々な苦労が抜けていくような、そんな、温かな安らぎ。
「あ……やべ」
次第にうとうとし始めていたのを感じ、ゆっくりと立ち上がる。
ザパリとお湯が零れ落ち、水面が揺れ、逞しい身体に灯りが反射する。
立ち眩みなどはなかったが、意識をはっきりさせるために頭を左右に振り……そして「俺としたことが」と、皮肉げに口元を歪めて浴槽から出た。
「……随分ゆっくりとしてたつもりだったけど、意外と早かったのか」
部屋に戻ってみると無人。
サララもベラドンナもまだ風呂を楽しんでいるらしく、カオルは、自分が意外と早上がりだった事に気づく。
いつも先に上がってはいたが、うっかり居眠りしそうになるくらいにリラックスしていたのだ。
結構時間を過ごしたように思えていたが、実際にはそんな事はなかった。
そうしているうちに、コンコン、とドアがノックされる。
カオルがすぐに「どうぞ」と応えると、宿屋の看板娘・ピアが「どうも」とにっこり微笑みながら頭を下げる。
「夕食の準備ができたのですが、彼女さんはまだのようですね。もう少し待ちますか?」
「ああ、そうだな。運んでもらって戻ってきたときに冷めてたら悪いし、もう少し待ってもらえるとありがたいんだが」
「かしこまりました……それはそうと、お客様?」
「うん?」
夕食をもう少し待ってもらう旨を伝えると、恭しく返事を返したのだが……左右をちらちらと確認してから、顔をカオルに寄せ、耳元で何やら伝えようとしていた。
「先程私も聞いたのですが、明日の早朝、領主様がこちらにいらっしゃるとかで……その、できれば、それまでに起きておいていただけるとよろしいかと……」
「そうなのか? まあ、いいけど、なんでそんなこそこそ?」
カオルにしても、早くに来るというなら、それに合わせて起きるのはやぶさかではなかったが。
わざわざそれを進言する為に内緒話みたいにするのは不思議だった。
ただの宿屋の娘がするには、謎過ぎる仕草。
だが、とうのピアはというと、申し訳なさそうに眉を下げながら「実は」と、また廊下を確認しながら続ける。
「その……領主様はそういう『ちょっとした悪ふざけ』がお好きな方なので、今回も私達を驚かせようと、突然それを企画したらしくて……」
「なんて迷惑な貴族様なんだ」
「ええ、ほんとにもう……内政に関してはとても優秀な方なんですけど、変わり者というか……今回も、たまたま友達がお傍に仕えていたので解った事なんですけど、実はもう村の中に着ていらっしゃるそうで。どこで聞かれているか――」
「……居るのか、村に」
「ええ」
拠点であるリバーライトからはそこそこ離れたこの村。
カオル達が来ると解っているなら確かに早めに出発すれば間に合うのは道理ではあるが、それにしても唐突というか。
とにかく行動が早い。迷惑な方向に。
とはいえ、ただ会うだけならとりあえず、旅が遅れる方向ではない為、カオルも「早い分にはいいか」と考える。
急ぎの旅なら、むしろゆっくり来られる方が迷惑なのだから。
「それなら、私達がリバーライト伯のところにこれから出向けばいいんじゃないです?」
不意にピアの後ろから声がして、ピアは「ひゃん」と可愛らしい悲鳴を上げたが。
実際には廊下の角から、サララがゆったりと歩いてきて、そして二人の前に立つのだ。
「いつから聞いてたんだ?」
「お風呂を出てからですよぉ。カオル様達の声が聞こえたから、『何話してるのかなあ』って、ここまで歩きながら聞いてただけです」
「あ、ああ……猫獣人さんですもんねえ。さすがに耳が……」
「ついでに、この宿にはその辺境伯の部下っぽい人は居ませんから、安心していいですよぉ」
話を聞かれていたと知ってあせあせとしていたピアだったが、サララから安堵できるような情報をもらい「よかった」と、小さな息をつきながら胸をなでおろす。
「それで、こちらから出向くのってアリだと思います?」
「そうですねえ……ううん、サプライズ好きな方ですから。驚きはするでしょうけど、怒ったりはしないと思います。むしろ喜ぶ、かも?」
「んじゃ、そうするか」
「ええ、その方がいいと思います。私も、早朝に起こされるよりはその方がいいですし~」
眼を細めながら、まだホカホカとした湯気をあげたままの艶やかな髪をさらりと煽り、サララは部屋に入ってゆく。
そうして、適当な椅子に掛けてから「そんな訳なので」と、ピアへと笑いかけた。
「ご飯は会いに行った後で。遅くなっちゃいますけど、いいですよね?」
「ええ、それは問題ないですよ。それでは、完成をもうちょっと遅らせるようにお父さ……料理長に伝えてきますね」
「お父さんが料理してるのか」
「え、えーと……はい。女将が母で、料理担当が父なんです。他にも従業員はいますけど、皆兄と妹なんですよ」
完全家族経営です、と、ちょっと恥ずかしそうにはにかむ。
今までの営業スマイルと比べると、こちらの方が年相応な、可愛らしい反応のように思えて、カオルは「こっちの方がいいなぁ」と、内心で思ってしまった。
浮気心などではないが、その方が自然に見えたのだ。
「それじゃ、支度にしましょう。カオル様、ちょっと外に出ててくださいね?」
「……ああ、そうだった」
同じ部屋なのだ。当然、着替えるならどちらかが出ていかなくてはならない。
今更のように「そりゃそうだよな」と納得し、カオルは部屋を出た。
「――ここが、リコッテさんの泊まってる領主別館らしいですけど」
村の中心部にある、こじんまりとした民家、のような建物。
一見すると領主の入るような別館には見えないが、ピアの説明によるとこれが領主別館らしかった。
「変わり者だなあ」
「変り者ですねえ」
そんな民家もどきの別館な時点で変り者認定である。
辺境伯を任されるだけの権勢を誇る大領主が持つには、いささか小さすぎる建物だった。
これなら、先程までいた旅籠のほうがまだ幾分「それっぽく」見えるというものである。
「ま、とりあえず行くとするか」
「そうですねえ。それじゃ、失礼して」
夜分ながらまだ村にはいくらか人が歩いていたが、別館の前には警護すら立っていない。
先方から怪しまれぬよう、カオル達もそれなりの装いをしていたが、このまま村の中に立っていると違和感が半端ない。
サララが率先して前に立ち、ドアにノックを三回。
ほどなく中で反応があり、サララが一歩下がるのとほぼ同じタイミングでドアがゆっくりと開かれた。
「あ、あの、どちら、様で……?」
出てきたのは、まだ幼い顔立ちの、メイド服の少女。
少し不安そうな表情で二人を交互に見つめる。
それに対し、サララは自信満々に手をカオルへと向けた。
「こちらはカオル様と申します。国王陛下のご友人で、本日はたまたまこちらにリバーライト辺境伯様がいらっしゃると聞きましたので、急遽ご挨拶に参った次第です」
「ふぇっ!? あっ、へ、陛下の……し、失礼いたま……いたしましたっ! すぐに主人を呼んでまいります!!」
流暢なサララの説明を聞き、メイドは目をクワっと見開き、あせあせと奥へ引っ込んでしまう。
ドアもそのまま、奥の方で「あなた、大変ですっ」「皆起きなさい」などと声が聞こえ、カオルは一瞬「間違えてないよな?」と、不安な気持ちになってしまうが。
ほどなく、先ほどのメイドが戻ってきて「あの、どうぞこちらに」と、中へと案内された。
「……いやぁ、まさかお二人の方から来るとは! 私も驚かされたと申しますか……!」
通された部屋で待ち続ける事三十分。
その間に他のメイドがお茶や菓子などを運んできて「しばらくお待ちください」と、楚々とした仕草で寝ぐせのついた髪のまま控えていたが。
ようやくにしてやってきた辺境伯殿は、カオルらの想像とはちょっと外れた、年若い男だった。
「若いな……あれ? 同い年くらいか?」
「ははは、そのようですな。私も陛下のお友達と聞き、貴方がたはもうちょっとお年を召していたものと……あっ、失礼を。私はリバーライト辺境伯リコッテ=リコール=メイガスと申します。初めまして、カオル殿」
「ああ、初めまして。名前は知ってるかもしれないけど、こっちはサララ」
「初めまして、辺境伯様。お会いできて光栄ですわ」
落ち着かない様子の辺境伯。
髪は黒髪、目はグレーカラーの優男風だが、愛嬌があり、どこか憎めない顔だちだった。
「初めまして……それで、その、改めまして、こちらが私の妻の……メアリーです」
「あの、よろしくお願いいたします……先ほどは、失礼を」
そして、辺境伯の隣に立っていたのは、先ほどのメイド服の少女。
今は落ち着いた寒色のドレスに身を纏っていたが、大人びた服に似合わない、幼い顔つきのまま、申し訳なさそうに眉を下げていた。
「……奥さんなのか。メイドじゃなくて」
「いやその……私の、趣味で」
「趣味か」
「ええ」
辺境伯の趣味であった。
じ、とみるカオルに、頬から汗を流しながらも真面目な顔で頷くリコッテ。
メアリーを見てから少しの間を置き、カオルも頷き返した。
「趣味なら仕方ないな」
「仕方ないんですか?」
納得。そしてサララに突っ込まれた。
「いやだって、実際メイド服似合ってたし。なんなら今の服よりも――」
「カオル様、メイド好きだったんです?」
「そういう訳じゃないけど、男はメイド服が好きなもんだと思う」
「ああっ! そうですよねっ、メイド服ってどこか魅力があるというか、私もメアリ―とは政略結婚だったのですが、あの服を着てもらう事でどこからか深い愛情が――」
「不快愛情の間違いなのでは」
サララはドン引きであった。
「というか、女性の本質よりもメイド服の方が重要なんです? 奥さんそのものよりメイド服に愛情を抱いたみたいに聞こえたんですが?」
「あ、あのっ、そんな事は……わ、私も、メイド服を着る事でメイガス様が喜ばれるならと……最初は、自分から着たので……」
「いい奥さんだな」
「ええ、本当に妻はできた女で……はっ」
そのままのろけ話にでも突入しそうなほど、この夫婦の間にはピンク色の空気が流れ始めていたのだが。
カオルとリコッテを見つめるサララの目は、じとっとした、冷たい湿度を孕んでいた。
「カオル様も、ですか?」
「うん?」
「カオル様も、メイド服を着たら喜ぶんです?」
「喜ぶというか……まあ、見てみたいとは思うが」
「……ふーん」
冷めた視線だった。色を感じさせない、つまらないモノを見るかの様な眼。
それはカオルにとっても「これは辛いなあ」と感じさせるものではあったが。
それでも、カオルにはいくらか耐性があった。
リコッテはそうもいかないらしく怯えた様に震え始めたが。それくらいには殺意全開の怖い無表情だったのだが。
「ま、カオル様が変態性癖なのが前もって分かったのはよかったとして」
「メイド服好きって変態性癖なのか? 男なら割と誰でもそうじゃね?」
「いやあ、服に欲情するのは普通に変態さんの部類だと思いますよぉ? 辺境伯様を前にそれを言うのは失礼かもしれませんけどぉ?」
「い、いや……耳が痛いです、な」
「でも、サララのメイド服姿は見てみたいぞ俺。絶対にイケるって。他の女のメイド服見たい訳じゃないけどサララのなら見たい」
「ふぇっ?」
それまで無表情で、どちらかというと嫌悪感を含めたような口調だったが、そんな事を言われ、赤面してしまう。
「ふ、ふーん……まあ、別にカオル様が変態でも、私は構いませんけどねぇ。救い主様がどんなに変態だろうと、私にとっては救い主様に変わりない訳ですしぃ?」
「そんじゃ今度頼むぜ」
「……まあ、機会があったら、いいですけど」
正面切ってはっきりと言われてしまうと、サララにはどうにもやりにくさを感じてしまい。
内心で「やっぱり勝てない」と思わされながら、そっぽを向いてしまう。
波乱はあったが、ようやく空気がある程度落ち着いたところで、改めて辺境伯夫妻との会話になった。
「ゴート殿から話を聞いたのですが、お二人はエスティアに向かう旅の最中なのだとか。本当ならこちらからそちらに出向くつもりで、夕方ごろこちらに着いたのですが」
「俺達も夕方に着いたんだ。なんだ、奇遇じゃないか」
「ははは、本当に。ですが、この辺りを治める者として、まだ陛下にも報告していない最新のエスティアの情勢を……いくらかは説明したいと思いましてね」
「それは助かるぜ……まあ、こっちもサララがあんまり朝強くなくてさ。急ぎの旅でもあるから、できるだけ早くに貴方に会いたかったんだ。寝てるところだったんだろ? ごめんよ」
訪れた時のメアリーの反応、奥から聞こえてきた声から、相当に混乱させてしまった事も含め、カオルは素直に謝罪した。
本当は早朝に出向いてくる予定で、早く寝ていたのだという一行に、自分達の都合で夜分に会いに来たのだから。
とはいえ、辺境伯一行も変な茶目っ気で突然訪れる予定だったのだろうから、と、カオルもそこまで深く詫びるつもりもなかった。
あくまで形だけの謝罪。
そして、リコッテもまた、そんなカオルに気分を害することなく「善い方のようだ」と、幾分緊張の抜けた笑顔を見せていた。
「現在エスティアは、バークレーにかなり深いところまで入り込まれています。国をまとめるフニエル女王は、バークレーの第二王子ラッセルにいいように言いくるめられ、主権の大半をバークレーに握られている有様で……金鉱山を含め、国の主要な産業に、バークレーの影がちらつくようになってきました」
「金鉱山を握られるなんて……あの、軍の、出入りとかは」
「エスティアは現状、あくまで我々とも同盟を結んでいる関係上、バークレー軍そのものが入り込む事はないようですが……ただ、あちらとの国境際にもあるこの先の村――ラグナスの直近に、バークレー軍が相当数、控えているとの話です」
先程までとは打って変わり、リコッテはシリアスな話題になるとキリリと頬を引き締め、面立ち通りの精錬された『辺境伯』なりの男となっていた。
カオル達も話に傾注していたが、サララは難しい顔で質問したりする。
「それは例えば……いつでも、バークレー軍が侵攻できる状態、という事ですか?」
「あくまで庇護国なのですから、理由さえあれば進駐する事が出来る、という事になりますが、まあ」
否定はしない。バークレー軍は、いつでもエスティアに入り込める状態にある。
リコッテは暗にそう言っているように、サララには聞こえていた。
「その……リコッテ様は、エスティア側とある程度接点があると思いますが……そちらから、何か……」
「私が知る限りでは、エスティアがエルセリア側に対して何か対応を取ろうとしているようには思えません。ですから、現状エスティアが、国家としてエルセリアを裏切る、あるいは同盟関係を絶つ、という事を考えている訳ではないというのはうかがえます」
「……フニエル女王が寝返っているとか、バークレーからエルセリアとの盟を絶てと迫られている訳ではない訳ですね」
「あくまで今の段階では、ですが。ただ、女王はラッセルと婚約関係にありますので、もしかすると……」
そう長くないうちに、その事態になり得る可能性がある。
リコッテの話は、サララだけでなく、カオルにもそれを理解させるに十分なものだった。
「やっぱ、急がなきゃいけないようだな?」
「そう、ですね……思ったより、不味い状況になっているのかもしれません」
「私としては、エスティア側から流通してくる金が減ってきているのが目下最大の問題と言えるでしょう。陛下も、その辺りは軽視していません。遠からず、何らかの形でエスティアに追求が入る事でしょう」
「……そうなった場合、フニエルはそれを口実に、エルセリアとの同盟を絶つ可能性も……?」
「あるいは、それを狙っているのかもしれません。バークレーにとっては、エルセリアとエスティアの同盟関係は、目障り極まりないモノでしょうからね」
「その正統性を失わせたい訳か……汚ぇっていうか、姑息だなあ」
嫌な手口だぜ、と、それまで黙っていたカオルもため息するほど、バークレーの侵略の手法はいやらしい。
それが目に見えてきた以上、無視する訳にもいかないというのがはっきりとしただけ、リコッテの説明には十二分な価値があった。
「あくまで現状掴んでいる最新の情報はここまでです。これ以上は現地に行ってみないと解りませんが……お役に立てそうですか?」
「いや、すごくありがたかったよ。陛下やゴートさんから聞いた話だけじゃ、ここまでは解らなかったからな」
「おかげで、急がないといけないのがはっきりと解りましたし……バークレー側の動きが解っただけ、国内に着いてからする事も解りましたので……ありがとうございました」
「いえ……どうか、お二人の旅路に良き明日がある事を、妻ともども祈らせていただきますよ」
リコッテからの話は、大変為になるモノだった。
それに感謝しながら二人は宿に戻り……明日へと備える為、夕食をしっかりと食べた。