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嘘つき女神と0点英雄  作者: 海蛇
11章.ラナニア王国編3-記憶をなくした英雄殿-
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#5.狂い果てた王


「――宰相はっ、宰相はどこにいったというのだ!?」


 早朝、ラナニア城にて。

焦燥しきった顔のラナニア王グラントは、しわがれた声で喚き散らし、近衛らを戸惑わせていた。


「へ、陛下……朝早くから、そのように……」

「どうか気をお鎮めください。宰相殿は、今捜索しておりますので……」

「宰相をっ、宰相を早く我が元へっ! このままでは、このままではエルセリアに侵略される口実を与えてしまうぞぉっ」

「お気を確かにっ」


 近衛らとしても、今の王の様子は異様極まっていた。

普段から、興味のないことにはあまり関心を示さず、兵らの存在もあまり気に掛けない王ではあったが。

いくら信頼していたとはいえ、宰相一人の為にここまで取り乱すとは、彼らも思いもしなかったのである。


 これというのも、全ては宰相がいなくなったことが大きかった。

魔人によるコルッセアの襲撃。

これが起きた直後、忽然と城内から姿を消してしまったのだ。

最初は有能な宰相殿の事、現地調査の為に出立為されたのかと思っていた城の者達も、どこへ消えたとも知れぬまま戻ってこない事に気づくや、「魔人怖さに逃げ出したのでは」「情けない王にとうとう愛想をつかしたのでは」など、様々なうわさが飛び交うようになっている。

これもまた、王の心をすり減らす理由の一つとなっていた。


「わ、私はっ、あの者に信用を置いていたのだっ! この城のっ、この国の政治を任せていたのだぞっ! それが、それがそれがそれが……なぜいなくなったのだぁっ!!」

「――落ち着いてくださいませ陛下っ!!」


 近衛らも抑えきれぬまま、場内を走り出す王の前に、第一王女リースが立ちふさがる。


「宰相殿はもう居られません、これは事実ですわ! 今いる私たちでどうにかするしかないでしょう!!」

「あ、あああああ……リース、おまえ、おまえ、今何と言った……?」

「宰相殿は、もう居られないのです! 居なくなった方を、いつまで探し続けるおつもりですか!」


 き、と、目の端を吊り上げ、毅然とした口調で立ち向かう娘を前に。

王は……しかし、その手を娘の肩へと置き、一気に強くつかむ。


「あ……っ」

「お前はっ! 私が、あの者にどれだけ救われたか解っておらんのか!! お前達がまだ幼く、何も解せなんだ頃から! あ奴は、私を補佐し、私を支え、この国の為、この国の繁栄のために尽くしてくれたのだぞぉっ!!」

「だから、なんだというのですか……この状況下でいなくなった以上、そんな事で取り乱してどうするおつもりですか……っ?」

「うるさい黙れぇっ!! あの者は、私と理想を同じくした、朋友なのだぞ! そんなあ奴が、私を捨てていなくなるはずがないわぁっ!!」


 強く掴まれ、身体を大きく揺さぶられ。

それでも尚食い下がろうとする娘が不愉快で仕方ないとばかりに、王はリースを強く押し込む。


「きゃっ!」

「姫様っ!」


 そのままバランスを崩し倒れ込んでしまったリースへと歩み寄り、ぐ、と、ゆったりとした動作で足を上げる。


「――お前は、宰相を馬鹿にした。あ奴が、私を捨てたと思い込んでいる。そんなはずがない。そんなはずが……ないのだっ!!」

「おやめください――ぐぁっ!?」


 咄嗟にリースを守ろうとして近衛の一人が前に出たが……構わず足蹴にされる。

それでもリースの上には倒れまいと、その横に崩れ落ちた。

その様を見て、リースはき、と、父王を睨みつけた。


「やりすぎですわ……!」

「うん?」

「貴方は、何のためにこんな事をしているのですか? 宰相殿が居なくなってショックなのはわかります。ですが、それはそれとしても、王として政治に取り組むのが急務のはず。こんなところで喚き散らしている暇などないのではないですか!?」

「うるさい黙れ! 私はっ、私はあの者を信じていたのだっ! こんな、こんな事でっ……大体、魔人が攻めてくるというのに、政治など……政治などぉっ!!」


 強く怒鳴りつけたかと思えば、途端に頭を抱えその場にうずくまり、ガタガタと震え始める。

起き上がった近衛がリースを少しでも離れさせようと配慮したが、リースは首を横に振りながら「大丈夫」と、立ち上がって王へと寄っていく。


「魔人が攻めてくるなら、尚の事態勢を万全にすべきでしょう」

「無駄だ……あの者が、居たから安心できたというのに……もうこの国は、ラナニアは、おしまいだ……魔人が、魔人がぁ……」

「……」


 ついにはみっともなく泣き始めてしまう父親を見て。

リースは、不意に肩の力が抜けるのを感じ、深いため息をつく。

周囲の近衛らもハラハラと様子を見守っていたが、王のあまりの体たらくに、皆不安そうな顔を見せていた。


「……王がそのような有様では、民もついてきませんわ」


 呆れ果てたように呟いた一言に、王はびくりと背を震わせ……やがて、顔を上げた。


「なんだと?」

「貴方のような方が王では、最早この国、いつ民に覆されるかも解ったものではないと、そう言っているのです。国王陛下(・・・・)?」

「……おまえ」


 流れた涙の痕など拭おうともせず。

王は、カタカタと唇を震わせ、リースに指さした。


「おまえなど、娘ではない」

「……は?」

「おまえなど、娘ではない。やはり所詮は、女だ。王の座には、相応しくない」


 信用ならぬと、色の抜け落ちた冷めた表情のまま、近衛へと視線を向ける。


「反逆者だ」

「へ、陛下……?」

「捕らえよ」

「あの、何を……」

「早く捕らえよ! 王に逆らった反逆者ぞ!! 牢に放り込んで、しかる後に処刑せよ!!」

「は、はぁっ!?」

「陛下っ、流石にそれは……」

「ええい言う事が聞けんか! 私は王だぞ!! 王に逆らった者を、何故我が面前に許す! お前らは何なのだ! 近衛ではないのかぁっ!!」

「貴方が捕らえよと仰っておられるのは、姫君ですぞっ!」

「だからなんだっ! 娘だろうと息子だろうと、裏切られたなら殺さねばならぬ! 私はっ、私はっ、そうやって(・・・・・)王になったのだ!! 兄上と妹をこの手に掛けて! 血塗られた玉座に座ったのだ! 今更っ、今更娘一人の命など、なんだというのだぁっ!!」


 叫び散らしながら涙を流し、唾を垂らしながら、周りに居る者すべてを威嚇し。

そうして、周囲全てから呆れ果てた様な顔をされる、狂った男がそこに居た。

これが王であるという事実。これがこの国を統べる、かつては賢王とまで呼ばれた戦後復興の祖。

……老いたと実感せざるを得ない、あんまりな有様だった。


「……姫様」


 ちゃき、と、リースの傍の近衛が、剣を抜こうとしていた。

それに気づき、リースはその手を止め……首を振る。

止めなければ、この者はきっと王に刃を向けたに違いなかった。

見ていられなかったのだ。こんな王の姿は、誰だって見たくなかった。

近衛兵は、幼き頃より愛国をその心に刻み込み、人生そのものを国の為、王家の為捧げるよう義務付けられたエリートばかりで構成されている。

そんな彼らをして、王の今の姿はあまりにも痛々しく……そして、許せないモノだったのだ。

強き国ラナニア。その名を穢す老いた王の姿は……彼らにとっても、毒でしかなかった。


「解りましたわ。大人しく牢に入る事にします……ですが陛下? 貴方がそうである以上、周りの者は誰も貴方に心からの信用など寄せません……宰相殿だって、きっと」

「負け犬の戯言など聞く気もないわ! さっさと連れていけ! 二度と私の前にその顔を見せぬように、醜く切り刻んでしまえ!!」

「姫様……ご配慮に、感謝いたします」

「どうぞ、こちらに」

「ええ……苦労を掛けますわ」


 最早この場に居る事すらただただ辛いばかり。

歯向かったところで、近衛たちの名誉が穢されるばかり。

そう思い、リースは投獄を受け入れた。

そうすれば、この近衛たちが反逆者となることはなくなるのだから。


 王の話に気を向けている者は、誰一人いなかった。

この場におけるヒロインはリースで、そうして近衛たちは姫君にのみ、その忠義を向けていたのだから。

ため息混じりに差し出された手を引き、姫君をかばった近衛が連れてゆく。

他の近衛もそれについていき、王の前には、誰も居なくなった。

王は、孤独の中にあったのだ。




「……うっ、うう……」


 そうして一人きりになって、王はまた崩れ落ちた。

涙を流し、嗚咽を漏らし。

強国の王とも思えぬ、情けない姿を隠しもせず。


(なんでだ……)


 その心は、深い後悔と強烈な絶望に支配され。


(なんで私を見限ったのだ、魔人ベリア……?)


 言い知れない苦痛から、頭の中をいくつもの疑問が駆け巡ってゆく。

しかし、王には自分一人では解を見いだせず。

ただただ「なんで」「どうして」と、繰り返してしまう。


(お前は、私と同じ理想を持っていたのでは、なかったのか……?)


 同じ理想を求める者だからこそ傍に置いたのに。

自分と同じ世界を求めていたからこそ、信頼を置いたのに。

何故そんな儚い希望すら、この世界は許してくれないのか。

何故自分だけが、そんな苦しい世界の中、生きなくてはならないのか。


 憎い。全てが憎い。

こんな世界に自分を産み落とした母も、こんな国で自分を王族にした父も、自分を裏切った兄も自分を見限った妹も、自分の意のままにならぬ我が子すら、憎くて仕方ない。

全てが、何もかもが憎かった。


(許せん……何もかもが、許せん……っ!!)


 強く拳を握り、床に叩き付ける。

加減が解らなくなっていて、手の骨がぐしゃりとひしゃげたが、その激痛すら、心の苦しみを代替はしてくれなかった。

憤怒が、王の心を支配していた。

憎悪が、王の身体を突き動かしていた。



「――くくくく、あんまりな有様だねぇ、王様?」


 自分一人きり。

孤独な世界だと思っていた中で、不意に声が響き……王は我に返る。


「……! お前、悪魔デルビア……」

「その通り! 貴方の味方、デルビアさ!」


 背後に立っていたそのカボチャ頭の悪魔は、王の前で恭しげにポーズを取り……そして、黒いステッキをくるくると回す。


「魔人ベリアは、死んだよ」

「何だと……?」

「別の派閥の魔人にやたら強力なのがいてねぇ? 一瞬で消し炭さ」

「魔人が、死んだ……? 馬鹿な事を言うな。アレは、勇者と女神以外では殺す事すら叶わん正真正銘の化け物のはずだ。封印の聖女ですら、殺すところまでは――」

「異世界の勇者だったらしいよ? 多分、魔人を消失させる類の技を元々持っていたんだろうね。そんな魔人が居た事なんて、僕は露ほども知らなかったけどねぇ?」


 いやあびっくりだよ、と、飄々とした口調のまま、王に視線を合わせるようにその場で座り込む。

不思議なもので、不審な悪魔が居るにも拘らず、その場には誰も駆けつけようとしなかった。

それが、この悪魔特有の結界か何かなのだろうと、王は理解したが……同時に、魔人殺しの魔人などという規格外の存在が居た事に、戦慄も覚えていた。


「では、その魔人に掛かれば、魔人であっても……消し炭にされると?」

「そういうことだねえ。つまり、この国を今まで守っていた魔人様は、もうこの世にはいないって事!」

「……お終いではないか」

「うん?」

「ベリアが……ベリアが死んでしまったら……我が国は、我が国は、どうやって覇権を維持すれば……いいや違う、ベリアが魔人に目を付けられたという事は、この城は、もう――」

「あー、うん、そうだねえ。このままだと、この城も魔人に攻め落とされるかもしれないねえ?」


 ひょほほ、と、間の抜けた笑い声をあげる悪魔だが、王の顔は蒼白で、その身体はカタカタと震えが止まらなくなってしまっていた。

元々近年、年齢からくる疲れで弱っていたのもあったが。

此度の心労がよほどショックだったようで、目に見えて疲弊していた。


「貴方の護りたかった国も民も、魔人の前では飴細工みたいなものだよ。瞬く間に崩れ去り、何もかもなくなってしまうだろうねえ?」

「……どうすればいいのだ、どうすれば……」

「『計画』を進めればいいじゃあないか?」

「計画……はっ、そ、そうだっ、あ奴が進めていた計画っ! 民主主義っ!!」


 デルビアの発言に、思い出したかのように色を取り戻し、立ち上がる。

泣いている場合ではないとばかりに、気色ばった顔は力を得て、その声も大きくなった。


「デルビアよっ! 各地の様子はどうしたかっ?」

「計画は順調なママだよ~? 一時邪魔してた奴らが居たけど、そのリーダー格の奴は勇者魔人の所為で記憶を失ってるし」

「そ奴は処刑した方が良さそうだな?」

「それはやめておくべきだねえ。なんたってエルセリアの英雄殿だからねえ」

「エルセリアの……くっ、おのれマークス。やはりこの隙に乗じて介入してきおったか!」


 その瞳に怒りをにじませながら。

強い嫉妬と憎悪とを心に飼ったまま、王は歯を噛み、隣国の王を思い起こす。

あの飄々とした顔、裏で何を考えているか解らぬ油断ならない様。全てが気に入らぬとばかりに。

そしてそんな王の様子を見て、デルビアもまた、「くくく」と楽しげに哂い始めた。

それが愉快でならぬとばかりに。


「とにかく、その英雄殿は放置で良いと思うよ? どうせ大したことはできないよ。そんな事より――」

「そんな事より?」

「計画を前に進めようよ。今はもう色んなところで民衆が動き始めてる。マリアナのように蜂起している地域もあるけど、一部上手く行ってない所もまだあるしねえ」

「……ならば、『提督』らを煽ればいいではないか」

「そうだねえ。動かしちゃう?」

「無論だ。その為に飼い殺しにしておいたのだ。『憂国の士』とやらを、な!」


 その心は、酷く歪んでいた。

その顔は、歪な笑みを浮かべながら、残虐な色に染まっていた。

それは様々な一面を持つ王の、まぎれもなく最も酷薄な一面だつた。

己が願望の為に、国すら傾けても構わぬという、悪魔のような顔。

悪魔であるデルビアですら「これが本当に王様のする顔かねえ」と内心で呆れ果てる様な、暗君そのものであった。


「デルビアよ、計画はどんどんと進めろ。こんな国、どうなっても構わぬ。私は……私は、こんな国、どうなってもいいのだ!」

「はいはい……でも王様? 牢に捕らえた姫君、どうするおつもりで?」

「……? 妙な事を気にするな、お前」

「いやいや、リース姫は政治面で見てもかなり無視できない存在ですから。それにお綺麗ですから、近衛の中にもファンは多いのでは?」

「早急に始末する必要があるという事か」

「逆ですよ。無暗やたらに始末したら、計画がとん挫しかねないくらいに反逆される恐れがあるんじゃないかなあと。他の王子たちだって、次が自分の番になると思ったら無視はできないでしょうし?」

「そうなったらその時に殺せばいいではないか。私は王だ。それくらいはできる」

「……そうですか、はあ」


 ダメだこりゃ、と、頭を抱える様な仕草のまま、デルビアは杖をとん、と突き。


「それでは、僕はこれで失礼しますよ。『提督』に動くように言わないと」

「提督も……使うだけ使ったら、始末する必要があるがな」

「無論です。陛下の関与は一切知られないようにしていますからねぇ。あくまで宰相殿の独断という事にしておきますよ。今まで通りね」

「それでいい……さっさと行け」

「はいはーい、それでは、さようなら★」


 懐から本を取り出し、それを開くや本の中に吸い込まれるように消えていった悪魔を見て……王は「ふん」と、興味を失ったかのように玉座へと戻っていった。

誰も居ない、王城で。

誰も居ない、世界を。




「グラントっ、お前のやっている事は間違っている!! こんな事ばかりしていては、民の為にならぬと何故解らんのだ!?」

「うるさい黙れぇっ! 貴方が、貴方が私を裏切ったから、私は――死ねぇっ!!」

「兄様危ないっ……あうっ!」

「シンシアっ!? シンシアァァァァァァァッ」

「はぁっ、はぁっ……くそ、シンシア、なんでお前まで……そうか、お前も、私を見捨てるのか……?」

「グラント兄様……こんなことで、人を信じられなくなるのは、悲しすぎますわ……っ」

「シンシア……ああ、なんという事だ……グラント、お前という奴、は……っ」

「ふ、ふはははっ、兄上も、シンシアと同じ場所に送ってやりますよぉっ!」




 不意に過去がよぎり。

そうして、一つの想いが脳裏に浮かび上がり……王は口元を歪めた。


(そうだ……)


 そうしてそれは、確信になっていた。


(最初から、私に味方など、誰一人いないのだ……血を分けた兄妹すら……父上だって、私の事を後継者としてしか見てはくれなかった)


 王とは孤高なもの。

誰一人味方などなく、いつ誰が裏切るかも解らぬ、そんな世界を生き続けなければならない。

友好国が裏切り、奇襲を仕掛けてくる事もあった。

信頼を置いた侍従が、敵国のスパイだった事もあった。

そうして彼の父は、自分が兄と妹を殺してしまった時ですら、笑って見ていたではないか。

その時に父が何を言ったか? 「それでこそ王の器だ」と、「それができなくては王に相応しくないのだ」と、初めて笑いかけてくれたではないか。

その時に確信したのだ。


――王とは、修羅でなくてはならないのだ、と。


 悪魔ですら怯えるほどの悪鬼をその背に抱え込まねば、生きる事すら叶わない。

それが出来ぬ者など、王である資格などないのだ。

リースはそれができなかった。優しすぎる。

恐らく平時ならばとてもいい為政者になったかもしれない。

だが、魔人は既にあらゆる場所に潜伏し、いつ国を崩すとも知れぬ世の中となっている。

恐らくは……そう掛からず、魔王も復活するに違いなかった。

そんな世界で生きるのに、優しさなど無駄な足かせでしかない。


(父上は正しかった。王に、人の心など要らぬ……王に必要なのは、残酷な決断すら笑ってできる非情さだ)


 そうして、それ以上に重要なものも、理解していた。


(……生きねば。こんな世界を、生き延びねば)


 喉の奥から、くく、と、乾いた笑いがせり出してくる。

止められない。笑う事しかできない。

狂い果てた王は、最早この世界に悲しみなど感じられなくなっていた。

そんなものはあの日あの時――尊敬する兄と、可愛がっていた妹を殺した時に、捨て去ったのだから。


 王制はこの日から、明確に崩落へと向かっていった。

宰相とリース姫という政治の二枚看板を同時に失ったラナニア王国は、暴走し始める。

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